sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

モンスター、起動セズ

それは春が春めいてきたある春の日のこと、ぬくぬくとした陽射しに誘い出されたブログ主は、ようやく冬眠から覚めたヤマネズミの様な顔をして、薄暗いガレージでとぐろを巻いていたドカティ・モンスターM800の黒い車体を外へと引き出した。

キーホールにキーを差し込んだのは実に3ヶ月ぶりのことであった。なのでセルだけ回ってエンジンが始動しなくても最初の2〜3回は別に気に留めなかった。冬の間にこれくらい放置してしまうのは毎年の事になっている。

しかしむなしくセルボタンを押し続けること十数回、メインスイッチやエンジンキーのオンオフを繰り返してもマスターキーを使ってもモンスターのエンジンは目覚める気配すらみせない。

ここに至って自分の眉間は少し曇り出した。

はて?バッテリーか?いやしかし昨年秋に新品に交換したばかりだ。トリクル充電器にずっと繋いであるし電圧を見ると余裕で13V後半を保っている。何度やってもセルは勢いよく回る。なのにL型ツインエンジンはクシュンとも言わない。

これは・・・普通ではないな。自分はやおら革ジャンを脱いだ。

セルが回るならイモビライザーやセンサー系では無さそうだ。シートを外しタンクを上げて各部をチェックする。ヒューズと目につく限りのコネクターを抜き差ししてみる。USB電源などの後付けの電装品はヒューズボックスでバイパス出来るようにしてある。しかし何をしてもモンスターは沈黙したままである。

引き出したモンスターをもう一度ガレージに戻しシャッターを下ろす。レース中継などでよく見る光景である。作業着に着替えた自分は工具箱を持ち出しライトで下回りを徹底的に調べつつ、もう一度脳内に原因たりうる可能性を羅列してみた。燃料ポンプ、コイル、配線、ECUユニット・・・ウインカー配線が軽くショートしてた事を思い出した。しかしその程度でエンジン周りの回線に影響があるのだろうか?

いや、まずは燃料系か電装系か切り分けよう。プラグをホールから抜いてエンジンにアースさせた状態でセルを回す。火花が飛んでいない。ああこれは電装系だ。念のためプラグを新品に交換する。全く同じ。前後気筒共にノースパークだから根は深いかもしれない。

自分の手には負えない事態であることを自分に言い聞かせる。

首の後ろ辺りにゾワゾワと微かな風が当たってる様な気がした。

自分はショップのメカに電話を掛けた・・・

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ニューポールNiD622-3「工房イスパノ・スイザ」エレール1/72 製作記

netで拾ってきた側面図などを参考に…

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 リベットを打つべし。

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リベットはテンプレートを使う。

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定規を使っていてもヘロヘロに曲がるのはナゼだ?

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う〜ん。凹リベットで実際とは逆なのは仕方ないが…

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一個一個のリベットを球状のリューターで掘り込んでみる。フリーハンドの方が整う不思議。穴は大きくなってしまったが、筆塗りの厚化粧で多少は埋まる事をセツに期待する。

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前回のデボワチーヌD510と同じやり方で真鍮パイプから排気管を量産。2021年上四半期におけるイスパノ・スイザ12気筒エンジンの排気管生産量で言えば、我がsig工房はおそらく世界トップレベルだろう。

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このように一本一本埋め込んでは瞬間接着剤で止めていく。お人形は顔が命、液冷エンジンは排気管が命。しかし本当にこんなに真横に突き出してるのか?空気抵抗とか考えてすこし後ろに傾けたりしてるのでは?という疑問は当然起こる。

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実際のイスパノ12Mエンジン。

これこの通り、排気管は男らしく真横にズドンと出ている。前回透視図で見たように、排気管の間の吸気管、さらにその下にはキャブも見て取れる。吸気と排気が同じ側のいわゆるカウンターフローだ。

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なのでVバンクの間はスッカスカ…なるほどこれなら確かに

「ちょいとムッシュウ、この谷間にそのカノォンを挟んでみませんこと?」

なんて誘われたらその気になるかもしれない。ムッシュムラムラ

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これは前回のデボワチーヌD510の図

 

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さて今回は裏側にプラ角材を配して排気管を支えた。これで上下方向の角度は決めやすくなる。開口したキャブのインテイクは裏側からリューターで削り取って外板の薄さを表現。金属メッシュをだと向こう側が透けて見えてしまうから、縦横にケガいたプラーペーパーを貼って誤魔化す。

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機首の筋彫りを施し、胴体を張り合わせる。キャブ穴周りのモールドも削って大人しくした。排気管がシャープになって嬉しい。

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それに比べてこの機銃の眠たいモールドはどやのーん?

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うい、マダマゼル、掘らせてもらいムシュウ…

 

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ニューポールNiD622-2「最後のニューポール」エレール1/72 製作記

さてニューポール・ドラジェNiD-622、である。

本機について工房主に知識はない、皆目ない。ニューポールといえば第一次大戦のニューポール17など一葉半のコンパクトな機体に機関銃一丁の軽快な戦闘機、というイメージがあるきりだ。

そういえば大昔にレベルの1/72でニューポールを作った覚えがある…マーキングはナンジェッセ…あれ?ルネ・フォンクだったかな?…とまぁそんなところだ。

第一次大戦で名を馳せた名門ニューポールだが、第二次大戦ではその名を聞かない、と思ったら1936年他社と統合、国営化されていた。ニューポールの名を冠した(制式陸上)戦闘機はこのNiD62シリーズが最後となる。

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NiD62はWikipediaに日本語のページがない。日本においてはマイナーだという事だ。画像検索で写真を見つけたが「垂直尾翼がいかにも"ニューポール"っぽいなあ」くらいの感想しか出ない。他には「…ニワトリが描いてあるな」…これはスポンサーがコーンフレークメーカーだから、ではなくニワトリがフランスのシンボルだから…何にせよよう分からん国だ。

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ではキットを見ていこう。

これは機首周り。目を引くのは下の方に三つ並んだ大穴。機首の穴なら普通は排気管だと思ってしまう。実は上に並んだ6つの小さなポチポチの方が排気管。

1-2-2-1と並びやがって、この野郎てめぇさしずめイスパノ12Mの排気管だな…とわかるのは工房主が先日同じエンジンのデボワチーヌを作ったからに他ならない。では三つの大穴は何だろう?

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犬っころのようにクンクン嗅ぎまわってると箸でも棒でもなく資料にでくわすのだからネットの世界はありがたい。タダでNiD622の透視図を見ることができるとは思わなんだ。

ところが各部に振られている番号に対応する説明が削除されている。この辺がまあ、タダのタダたる所以だろう。

「ここから先は有料になります」とはネットで一番いけ好かない言葉だ。「貧乏人はゴーホーム」と言われてるみたいでさ、チェッ、スゴスゴ。

仕方ないのでナイ知恵を絞って見当をつける。クランクケースの横に見えるのがおそらくキャブレターだ…ソレックスだったりして…ナルホド一つのキャブで両サイドの気筒をまかなっているのでこんな風に排気管の間が空くのだな。1-2-2-1ではなく(1キャブ1)(1キャブ1)(1キャブ1)だったのだ。

インテイクを三つ別々に真横に開口するのは…まあそう言う時代だったというしかない。

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このリベットもかなり盛大なものだったらしいとわかる。

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こちらはキット。上の写真を見る限りそれほど大げさではないのだろう。しかし、このイボイボはちょっと気持ち悪い。なんだか生理的な嫌悪感を催す。

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なので寒イボみたいなリベットはキレイサッパリ削り落とした。ついでに排気管の穴もあけて真鍮パイプを埋め込むことにする。

ちと面倒臭い作業とはなるが、これはデボワチーヌD510でもやったディティールアップだから同じイスパノ12Mエンジン機を横に並べようとしたら揃えてやらなくては可哀想だ。

元はと言えば20歳くらいの自分が身の程知らずにもやり始めたことなのだ…まったく…となると下のインテイクの大穴も開口するほかはなくなるな…

やれやれ、どうやら前途は多難なようだぜ…

 

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ニューポール・ドラジェNiD622-1「翼よあれが巴里の街だ」 エレール1/72 製作記

デボワチーヌD510の次のお題を何にしようかと随分悩んでいた工房主。自分の中では各国の大戦間の航空技術的にエポックメイキングな機体を並べてみたいという思いが以前からある。羽布張り複葉機から全金属低翼単葉にいたるまでの道程を歴史的に辿れば面白かろう。

しかし意外とキットが揃わない。戦間期というだけあってどれも目立った戦歴に乏しい。華々しい活躍をした零戦やメッサーと違って知名度も人気もない。そんなものをキット化したところで見向きもされないのがプラモデル界。最新のタミヤセガワなどは望むべくもない。

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それでも探せばある。ただし怪しげな東欧のメーカーか、フロッグ、マッチボックス、エアフィックス、レベルあたりの太古のキットとなってしまう。そこら辺になるともう素で組み上げるだけで大変な労苦となるのは目に見えている。首尾よく完成したとしてもフロッグなどは粘土細工みたいなヒコーキが出現するだけだ。ボーンクラッシュ メイクス タイアードという故事の通りとなる。

こういう時に"エレール"というメーカーは有難い。よほど古いものを除けばそこそこの精度のものがカッチリ組み上がる。そしてアイテム選択が渋い。見事に他のメーカーと被らない。メッサーならBf109B/CとK、Me262は複座のB、とまさにマイナー路線。メッサーなら109GかE、あとは零戦や飛燕がウヨウヨ出ている日本とはずいぶん違う。

フランスのメーカーだから自国の飛行機にはひとかたならぬ愛情が注がれている。コードロン・シムーンやモランソルニエ223など他ではまず考えられない。文化遺産に対する考え方の差、というと大げさか。人と違っていることを何よりも尊ぶ国民性のなせる技かもしれない。

まあそんなことやってると商売的には左前になってしまうのが現実社会のキビしさ。何度も倒産、身売りの憂目にあっている。今回のキットも実は金型がチェコのSMERに流れた時期のものだ。これまた何故か我が家の押入れに長年眠っていたのを今しがた揺り起こして連れてきたニューポール・ドラージュのNi-D622。

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箱絵はイマイチ。古いエレールの輪郭線を省いた絵画風の箱絵が好み。

Ni-D622はデボワチーヌ500の前のフランス空軍の主力戦闘機。同じイスパノの12気筒液冷エンジンだが鋼管フレームの一葉半で主翼は羽布張り、とまさに戦間期の航空技術の推移を象徴するような機体。金属材貼り合わせの翼間支柱や脚柱のラジエーターが雰囲気である。原型のNi-D62の初飛行は1928年、パリにアールデコの風が吹いていた時代の話だ。

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箱の中身はこんな具合。

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デカールは良さそう。エレールのデカールは堅くて分厚いからこれ目当てでSMERを選択した、、、のかな?昔の俺は。ネットを漁るとエレールの古い時代の箱絵を見つけた。

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セーヌ川エッフェル塔、黄ばんで靄がかかったような空…いいねェ…

SMERの箱はさっさと捨ててこちらをプリントアウトして工房の壁に貼った。時々製作の手を止めて、マグカップで両手を温めながらコーヒーをすすり、その絵を眺める…いいねぇ…

 

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昭和10年の模擬空戦

"デボワチーヌD510"は日本に二機輸入され、昭和10年、海軍の"九六式艦上戦闘機"の原型機である"九試単戦"と模擬空戦を行なっている。日本人にとっても比較的親しみのある機体といえよう。"九試単戦"はヨーロッパの最新鋭の戦闘機であるD510相手に模擬空戦で速度も格闘性能も上回り軍関係者を喜ばせたという。

f:id:sigdesig:20210319153714j:plain工房主が小学生の折に愛読していた零戦本にもこのくだりがあった。模擬空戦の折にD510を操縦したフランス人パイロットは機を降りて堀越技師に歩み寄り賞賛の言葉を送ったという。(この辺はどうもフィクションくさい)子供心に「九試単戦は世界一!」と思ったものだ。

 

f:id:sigdesig:20210319153729j:plainその本には"D510"の写真も挿入されており、そのほっそりとスマートな容姿とともに"デボワチーヌD510"という機体の存在を知った。10歳になるかならぬかといった頃だから、えらくマセたガキだったものである。

 

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オトナになった今ではD510の原型D500の初飛行が1932年、"九試単戦"は1935年と知っている。最も技術革新の激しかった当時の航空機開発において、実用段階の現役機に三年後に開発されたプロトタイプが性能的に上回る事のがいかほどの意味があるかもわきまえている。

「そのくらいは当たり前」とは言わないまでも「九試単戦は世界イチー!」と無邪気に喜ぶことでもなかったのだ。原型初飛行で比べれば"九試単戦"はむしろ"メッサーシュミットBf109"や"スピットファイア"とほぼ同時期の機体なのである。

 

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それらの最高峰クラスの名機に比較すれば"九試単戦"の鋼管フレーム構造、固定脚、開放式の操縦席などは今一歩、いや二歩も三歩も及ばない。

とはいえ、全金属の片持ち式の低翼単葉である"九試単戦"が世界レベルに肉迫した初の日本製戦闘機だったことは間違いない。堀越技師と日本海軍は卓抜した先見の明、合理精神を持っていた。同時期に日本陸軍が採用したのが(いささかの情実もあったかもしれないが)複葉の九五戦であることを考えればそれは明らかだろう。

 

f:id:sigdesig:20210319153723j:plain側面形を比べて見るとタウネンドリング式のエンジンカウルや垂直尾翼のラインなどに複葉機時代を引きずる"九試単戦"はデボワチーヌD510よりもいささか古臭く見える。ただし胴体は究極に絞り込まれていて自重は1tほどとD510の2/3程度に収まっている。

 

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平面形では"九試単戦"の方が主翼の設計理念のステージが一段上だとわかる。D510は低翼単葉ではあるが単純な直線翼で片持ち構造にするのが精一杯、と言う感じだ。操縦席部分に切り込みを入れて下方視界を確保するなどに至っては複葉機時代の発想の域を出ていない。水平尾翼も支持架で支えている。これでも1932年当時は最先端だった、とは以前書いた通り。

 

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D510のイスパノスイザ12気筒液冷エンジンは860馬力だが最高速度は意外に伸びず400km/h程度。"寿5型"空冷星形9気筒の600馬力で450km/hを出す"九試単戦"。模擬空戦では速度も上昇力も格闘性能も圧倒しただろう。

 

f:id:sigdesig:20210320101253j:plain前述の軽量化と空力的洗練が「九試単戦」の優位を生み出した。のちに零戦へと連なる堀越技師の設計理念の特徴が現れているのが興味深い。

 

f:id:sigdesig:20210320102005j:plain日本陸海軍がD510をそれぞれ一機ずつ輸入しているのは液冷12気筒とモーターカノンの組合せに興味を示したからだ。"九試単戦"はこのイスパノスイザ12に換装した三号艦戦を作ってはみたが試作に終わる。一方陸軍ではD510を参考に中島飛行機にキー12を試作させた。キー12はI-16によく似た引込脚を持つ意欲作だったが運動性が悪いとの陸軍側の的外れな評価に甘んじる。

いずれにせよ当時の日本ではモーターカノン付き液冷エンジンを量産できる見込みはなく、どちらも実験機的意味合いが強かったようだ。 

 

f:id:sigdesig:20210319153820j:plain主脚も同じ固定式ではあるが片持ち式の”九試単戦”の方がスマート。ステーの必要なD510は、はるかに空気抵抗が多い。 ただし”九試単戦”の主脚タイヤは小さすぎたのか、量産型では大きなものに改変されている。空母での運用や不整地への離着陸を考慮しての事だろう。

 

f:id:sigdesig:20210320101237j:plainさらに鋼管フレーム構造から半モノコックへと進化、3枚プロペラやカウリングの大型化など、より世界標準へと近づいた二号艦戦は事実上の量産型だろう。

 

f:id:sigdesig:20210320175636j:plain左は最多量産型の四号艦戦。実戦を経験し見た目にも逞しくなっている。自重は1200kgを越え、最高速423km/hとやや低下。エンジン選定などで時間がかかり、二型、四型の登場は1938~39年あたり。"九六艦戦"としての実用化には3年以上を要したことになる。

この頃フランスではすでにバトンを引き継ぐ次世代のD520が生まれている。

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引込脚と密閉風防を装備し7.7mmx4門、20mmx1門の重武装に530km/hの最高速。フランス政府がこのD520と模擬空戦させるため実用段階の"九六艦戦"を試験的に輸入していたら、結果は全く逆のものになっていただろう。

…つまりはそういう事である。日本の航空機開発は欧米に対してそれだけのタイムラグがあったのだ。

 

f:id:sigdesig:20210320175650j:plain時系列を無視し、純粋な技術ステージでD510と同列に比較するなら二号艦戦かこの四号となる。実際、D510は中国空軍でも使用された。成都-重慶で九六陸攻の撃墜記録も残っている。この両機、実際に戦場であいまみえていた可能性もある。

のんびりした戦間期の機体、と言ってもやはり戦闘機は戦闘機。漂う匂いに猛々しいものが混じるのは隠せない。 

 

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模型BGM  私的ベスト10

ベスト10といってもそれぞれに順位があるわけではない。”私的10選”と呼ぶ方が正しいかもしれない。なのでシーン別、作業別にあげていこうと思う。前回の理由(主張しすぎる)から大御所、大家は出来るだけ避けたつもりだ。 

ポール・デスモンド Paul Desmond "Easy Living"

EASY LIVING

Easy Living

超有名な"Take Five"のサックスプレイヤー(…なのでデイブ・ブルーベックではなくこっち。Take Fiveは長いドラムソロが模型にはtoo muchとも思う)小川を流れる花びらのようなアルトサックスに、ジム・ホールのギターが子犬のように絡む心地よさ。筆使いが滑らかになりそう。塗装に限らず模型作業全般に。

 

・スリーサウンズ The 3 Sounds  "Moods"

ムーズ

"Moods"

模型にはサンドペーパーがけなど地道で単調な作業がいつだってついて回る。そんな時はスリーサウンズの 明るく軽妙、ファンキーで小粋なピアノトリオ。めんどくさい戦車の転輪だって楽しくできる…かも。

ヒラリー・ハーン Hilary Hahn "Hilary Hahn Plays Bach"

ヒラリー・ハーン デビュー! バッハ:シャコンヌ

 Hilary Hahn Plays Bach

とはいえ緻密な作業だってあるのが模型作り。いや、そちらの方が多いかもしれない。リベット打ちやスジボリなどは気を落ち着けて望みたいもの。アップテンポよりはクールなBGMが欲しい。そういう場合はこちら。超絶技巧にして正確無比なバイオリニストによるバッハは凛として澄みきって雪解け水のごとし。"ヒラリー・ハーン パガニーニ カプリース"で検索して動画をご覧になるのが早い。

 

・カレン・ソーサ Karen Souza "ESSENTIALS"

エッセンシャルズ

ESSENTIALS

アルゼンチンの歌姫。聞き慣れたPopsも雰囲気たっぷりにしっとりウエットな溜息系。技巧よりも質感を重んじるウェザリング工程をきっと豊かなものにしてくれる。"Get Lucky"は作品完成時に流すと至福の高揚感あり。  

 

ケニー・バレル Kenny Burrel  " Blue Bash"

 Blue Bash

Blue Bash

奥行きがあってお洒落で都会的サウンド。ブルージィなギターとオルガンが格好ヨシ。リラックスしつつもふつふつとヤル気が湧いてくる。ハードル高めのディティールアップにもチャレンジしたくなるはず。他に Midniht Blue なども(オリジナル盤推奨,ボーナストラックは蛇足 )

 

・ウィリアム フィッツシモンズ William Fitzsimmons  "Goodnight" 

Goodnight

Goodnight

繊細かつ優しく漂う男性ボーカルと不思議な電子音は鎮静効果あり。完成を目前にして”はやる心”を抑えつつのデカール貼り作業などに。

 

  ・カレル・ボエリー・トリオ Karel Bohelee Trio "Last Tango in Paris"

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 "Last Tango in Paris" ラスト・タンゴ・イン・パリ

 

ブルー・プレリュード

"Blue Prelude" ブルー・プレリュード 

ひたすら美しくも知的で静謐なピアノトリオ。ヘッドはクールでハートはホット、ボディはシャープ、と言うことなし。デカールの透明ニス部分のカットなど、集中力を求められる工程を自信を持って乗り切れそう。CDで買って机にジャケットを飾っておきたい…?

 

アン・サリー Ann Sally  "Voyage"

ヴォヤージュ

ヴォヤージュ

ナチュラルでフラット。アタシちょっと歌ってみようかな、的なライト感覚が魅力。脱力系ヘタウマ筆塗りのサラッとした模型作りに。…なので個人的には最近よく聴く。

 

トム・ウェイツ Tom Waitz  ”Small Changes”

Small Change

Small Change (Remastered)

シャイなゴリラ男が唄う喜怒哀楽のブルースソング。マスキングテープで下地ごと剥がれた、などヤサグレた気分にどうぞ。5曲目あたりで「ああもう模型なんか作ってられるか!ビールでも呑んで寝ちまおう」となるネ、きっと。 

 

 ・和田弘とマヒナスターズ  "マヒナと誘惑の宵"

マヒナと魅惑(ムード)の宵 ダイヤモンド・アニバーサリー 和田弘とマヒナスターズ

マヒナと魅惑(ムード)の宵 ~Selection~ Vol.1

知らないのにどこか聞いたことがあるような昭和な音楽。独りで模型を作っているのがたまらなく寂しくなる寒い冬の夜中、こういう音楽が小さなスピーカーから流れていて欲しい。キットは隼とかの日本機、ロシアのSu-85などだとなおヨロシイ。

 

最後の方はいささか苦し紛れになってきた。いずれにせよこれらは最近の自分の個人的な嗜好にほかならない。カレル・ボエリーは模型を作る時に限らず普段から事務所BGMの定番だし、夜になって自室でグラスを傾ける時にスピーカーから流れるのは、物憂げなカレン・ソーサのアルトヴォイスだ。一人旅の夕暮れ時、イヤホンから響くトム・ウェイツの唄に不覚にも涙することもある。

一応アルバムも挙げたけどどれも曲によっては模型作業に向かないものもある。何かの参考になれば幸い、ならなくても面白がってもらえればそれだけで十分嬉しい。

 

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模型BGMの考察

少し前のことだが、同好の士と模型を作るときに音楽は何をかけるかという話になり、つい膝を乗り出した。こういう話題は罪がなくていい。

そもそも模型製作は根気のいる作業だ。リラックスできて集中度がアップするBGMが欲しい。

「そこでやはりバッハですよ」と意見が出た。

なるほどそれは精神安定に効果がありそうだ。土星の衛星軌道をまわるボーマン船長も同意するだろう。しかしバッハと言ってもいろいろある。

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バッハ:ゴールドベルク変奏曲~アニヴァーサリー・エディション(DVD付)

ゴールトベルク変奏曲は落ち着きそうだ。しかし逸話通り眠くなるかもしれない。マタイ受難曲だとピンセットのパーツを飛ばしただけでおお神よ!と泣き崩れてしまう。平均律クラビーアあたりが良さそうだ。ニットのセーターを着てコーヒーの香りを楽しみながら書斎のマホガニーの机で優雅に帆船模型などを眺める知的で上品なオジサマ像が浮かんでくる?

それはしかし、工房主の実態からはほど遠いのだよ。寝癖頭に首元の伸びたTシャツでチーズカマボコかなんかカジりながらモグラみたいに背中を丸めて小汚い72の大戦機をセコセコ作ってるのだ。

さらにそもそもの人間が品性お下劣にして乱雑低俗、そのうえ助平ときている。高尚かつ精巧怜悧なクラシック音楽との相性はあまりよろしいとは言えない。

J.S.バッハ:マタイ受難曲

さらにさらに、模型製作場所及び立地条件の問題が発生する。

我がsig工房は築数十年の間口の狭い木造家屋の最下層の陽の当らぬ穴蔵同然の一角だ。前述の様に上品ならざる工房主の生育した土地柄であるからして、当然猥雑フンプンたる界隈に位置する。猫しか通れぬ狭い隙間を隔てて建つ隣家は何とカラオケスナック「かずちゃん」だ。その喧騒は推して知るべしだろう。

いやしくもこの場所に工房を構えて創作活動にふけらんとするモデラーは、夜ごと背後から聞こえてくる酔漢の唄声に耐えねばならぬ。いくら上質なバロック音楽をかけたところで「大阪デぇ〜生まれたぁ〜女が〜きょォオ〜」などと調子っ外れにガナられてはどうしようもない。チェンバロの繊細な音など地下鉄のホームの子ネズミの鳴き声のごとくかき消されてしまう。

ようし、それなら大音量のシンフォニーで対抗しよう。

ブルーノ・ワルター: モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」&ブラームス:交響曲第4番

モーツァルトの”ジュピター”。いかなワルターでも静かな第二楽章では"大阪の女"に敗退するのでいきなり第四楽章"モルトアレグロ"からいく。(門外漢の自分は威勢のいいシンフォニーはこれと"運命"くらいしか知らない)チャッチャチャー・チャラチャラチャラチャー、調子乗りの工房主だからつい指揮者になりきってタクト(タミヤ平筆)を一心不乱に振り回してしまうのは抑えられない。もはや模型どころではない騒ぎとなる。

音がデカいといえばロックだ。70年代80年代に青春を過ごした者なら誰だってロックのCDの一枚や二枚はタシナミとして持っていよう。それストーンズだKISSだブルーオイスターカルトだ。ヘッドバンキングし過ぎて老眼鏡が鼻からずり落ちた。これじゃリベットも打てないぜベイビー。

Living In A Ghost Town

ジャズなら落ち着くだろうジャズだジャズジャズ。今時はラーメン屋から歯医者から按摩屋に至るまでBGMはジャズである。しかしジャズならなんでもいいというわけではもちろんない。

例えばサラ・ボーンの激しいスキャット では髪の毛をかきむしりたくなる。セロニアス・モンクじゃあ調子が狂って「俺がプラモ作ってる時はピアノを弾くな!」と口を尖らすだろう。コルトレーンはモノによっては模型部屋が"野犬の群れに襲われた養豚場"と化す。

アセンション

総じてジャズ・ジャイアンツ(大御所)は個性と自己主張が強い。気弱なメガネオタク風情が模型に没入する事など許してくれるはずがない。

ラップ系は論外だ、リズムも音程も全くない、どっかの成金趣味のチーマーが、のべつ幕なしに喋りたおす、それを聴きながらアンテナ線張る、メンタリティは自分にゃない…あ〜イラつく。ラップ要素を忌避するとなると今時の音楽はだいたいダメということになる。

そこで往年の70年代POPSにさかのぼる。カーペンターズABBAやフォーク、歌謡曲など耳慣れた音楽に走ることになる。こんな時にサブスク音楽サービスは話が早い。「甘損、モモエちゃんの唄をかけて」と言っただけで「山口百恵をシャッフル再生します」と直ちに応えてくれて"ひと夏の経験”を聞くことができるのだ。

ひと夏の経験

しかし最初は懐かしいもののすぐに飽きがくる。"ひと夏の経験”でもひと夏に三度も聴いたらなんぼ甘い罠でもこの先20年位なくてもいいような気分になる。

サブスクのプレイリストにはシーン別のものもある「雨の日に聞きたいジャズボーカル」「恋がしたくなるJ-POP」などなど。中には「激おこガールズロック」とか「元気が出るED」などという意味不明なものもある。しかし残念ながら「タイガー戦車を作る時に聞く口笛ワーグナー集」というプレイリストは見当たらない。 

こうなりゃ自分で作るしかない、というわけで、次回は「発表!模型BGM ベスト10!」

 

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