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万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

烈風-7「文明の利器カラスグチ」ファインモールド1/72製作記

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工房主、烈風を雷電零戦などと比べて面白がる、の図。

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青畳色にもうぐいす色にも飴色にも見えるという伝説の塗料”ナゾの明灰白色”をガッシュで調合して下面に塗る。

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箱絵は全面黄橙色だがファインモールドの塗装図には濃緑色の例がある。海軍領収前なので機番もナシとの御託宣でこれは目の状態が思わしくない当方にとっては好都合だ。

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アクリルガッシュでの筆塗り塗装。今回は試作機、ということで褪色、外板のヨレ、汚れなどは(実際はあったとしても)イメージに合わないから省く。

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カウリングは黒で日の丸のフチが黄橙色だった、という説もあったようだが…ここは素直にファインモールドの塗装図に従っておく。余談だがこのキットには組み立て説明書のほかに実に詳細な実機解説書が入っている。堀越技師による当時の文語体のままの回想などが引用され、なかなか読ませる内容だ。

さて次は日の丸だ。

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赤はこの三色で調色した。

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片目が歪んでるので日の丸のフリーハンド筆塗りは難儀だ。今回は文明の利器、カラスグチ(烏口)コンパスを使ってみようと思う。コイツは製図用品の中に紛れ込んでいた。

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クルリ…ワオ!す、素晴らしい、す、ワンダフル、す、マーベラス

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喜んでないですかさず中を塗りつぶす。乾いて跡が残らないうちに。

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タッチアップ不要、5分ほどで日の丸の出来上がり。簡単かつスピーディ。「いままでの苦労は何んだったんだぁ〜!」と頭をカキむしりたくなる。

”今までの苦労”…はコチラ

いやもう”カラスグチ”を使わない日の丸マークなど石槍でマンモスに立ち向かう様なものだ。これを文明の利器と言わずしてなんと言おう。コンパス自体は古代ローマ時代からあったはずだが、”カラスグチ”の方はいつ発明されたのだろうと思って調べると…
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産業革命以前、18世紀初頭の欧州にはすでにあったらしい…ということはワットの蒸気機関の設計図あたりはこれで描かれたのかもしれない。モンテスキューやスウィフトも皆んなこいつを使ってプラモの日の丸を…なわけないか。

 

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烈風-6「キライはスキの始まりか」ファインモールド1/72製作記

烈風のタレ尻の謎を紐とくべく画像に補助線を入れてみた。f:id:sigdesig:20201210175739j:plain赤が基準線。尻も垂れてはいるが胴体後半がカーブして盛り上がっているのがわかる。

同じ堀越技師の設計になる零戦はどうだろう。f:id:sigdesig:20201210173240j:plain
同様の傾向ではあるが、盛り上がりはない。

同じ誉搭載機で比較。こちらは疾風。f:id:sigdesig:20201210175813j:plain
ほぼ直線。やや後方に位置するコクピットは微妙に持ち上げられ、視界も多少考慮されている。

紫電&紫電改
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このカワニシ兄弟はまったくの直線。紫電改ではコクピット位置がやや前進している。

以上を踏まえ、さてここからは工房主の勝手な推量。

肥大化した烈風の馬力不足は明白。堀越技師は軽量化と空力的洗練でそれを補おうとした筈だ。零戦の時と同じだが、過度の軽量化が剛性不良をもたらした反省もあり、空力により重点を置いた、と仮定してみる。

速度性能向上に空力的に望ましいのは風防後方に乱流が発生しない雷電の様なファストバック。しかし爆撃機相手の迎撃機とちがって烈風は対戦闘機戦が主だ。そこで後方視界を確保した上で、胴体後半を盛り上げ、風防後半のラインと巧みに馴染ませて気流を整えたのではないか…

f:id:sigdesig:20201211103138j:plain3次元で模型をあちこちから眺めていると、そんな堀越技師の狙いが伝わってくる角度が確かにある。ヌボーっとした印象だった烈風もそれなりに精悍に見えてくるから不思議だ。

となると…アオシマの烈風もそこまでトンデモなくもなかったわけか…f:id:sigdesig:20201207142625j:plain

「うーわカッコワルッ、烈風屁ぇぷう〜」などと笑ったのは単にブログ主がクソガキだったからだ。
「天狗になってた零戦の設計者がワガママ通しただけのデクノボー飛行機だ」なんて斜に構えたのは単にブログ主が了見の狭い中二病だったからだ。

齢を重ねた今ではたとえ一見ブサイクな機体であっても、その背景に当時の状況、設計者の考え、人間模様などに思いを馳せるようになった。少しは大人の階段を上がったのだろうか。

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これなんかも見た目はそうとうアレだが…800馬力で500km/h出せ、前方視界も良くしろ、なんて言われて苦労したんだろうなぁ、と思う…

模型を作ると今まで良い印象がなかった機体でもなぜか好きになってくることはよくある。単に愛着の問題だけではなく、その飛行機についての知識、理解が深まるのだろう。

…嫌いな上司やいけ好かない客のプラモデルを作れば少しは精神的に楽になるかもしれないヨ…

 

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烈風-5「ゆるいプロポーションの謎」ファインモールド1/72製作記

形になった烈風。見慣れないせいかそのプロポーションがいまひとつユルく感じる。

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流麗と言われればそうかもしれないが、浜に打ち上げられた瀕死のゴンドウクジラと言われればむしろそっちの方がしっくりくる姿だ。

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前方より40%の部分で胴体幅最大にする、という例の海軍航空廠の紡錘形理論による空力デザイン。コンパクトな誉エンジンのお陰かデカい火星エンジンに同じ空力理論を採った雷電、強風ほど極端なデブではないが…

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日本の戦闘機らしい小股の切れ上がった緊迫感に欠けるような…横幅14m、面積31㎡になんなんとする主翼の大きさだろうか。自社エンジンが採用される様にワザとふやけた設計でデカい機体にし、さらにそのエンジンが実用化されるまで三味線弾いて開発を引き伸ばした…なんてうがった見方をされたりもする。

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どことなくノベーっとしている。”身体はデカいが運動苦手な帰宅部のおさげのメガネ女子、趣味はケシゴム収集…”といった印象。

雷電紫電の”チビでデブだが体つきに獰猛さのある男子柔道部員、部室はエロ本だらけ…”とは少し雰囲気が違う。

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雷電

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紫電

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烈風を側面から
やたら背が高い垂直尾翼、間延びした胴体後部、垂れ下がっている様に見える胴体のラインなどなどがイマイチポイント。

垂直尾翼の背が高いのはこの機体が艦載機であることを如実に物語っている。大迎角でアプローチする着艦時に垂直尾翼が機体の影に入って方向舵が効かなくなる現象を避けるため。シーフューリー、ベアキャットも同様。

胴体が長く見えるのは妙に前の方にある小さなコクピット位置のためだろう。これも着艦時の視界を考えてのことだから仕方ない。

胴体の垂れ尻ラインだけがよく分からない…まさかファインモールドがチョンボした?

実機写真
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…というわけでもなさそう。
堀越技師はなんでまたこんなデザインをしたのだろうか…については次回。

 

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烈風-4「Oh!モーレツ」ファインモールド1/72製作記

長文は読みにくいからヤメロ、と言われていたのについうっかり長々と書き過ぎたので二分割いたします。

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たいへん美しい下面…零戦もそうだがここら辺のラインのこだわりはいかにも堀越技師。
しかし…これは生産性はあまりよろしくないかも…

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機首まわりもかなりの段差が…後先考えずゴリゴリ削る。

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単排気管からの排気を逃す窪みをリューターで掘って再現しなおす。

この窪みも堀越技師の美学というか完璧主義の発現というか…実際に量産に移されていたら工員は泣いたろう。艦上戦闘機だから大量生産はあまり考えていなかったのか。堀越技師の手記にある通り「日本は資源に乏しい国だから、贅沢な材料を大量に使うよりも手間暇掛けて性能を上げよう」ということならば、それはそれで一つの見識だろう。

堀越技師が烈風の設計図に向かったのは1942年秋くらいではなかったか。それはまだ零戦32型が実戦投入された頃だ。このあと初飛行まで丸二年を費やすことになる。。。

一方こちらはアッと言うまに士の字になった我がsig工房の烈風。f:id:sigdesig:20201210102911j:plain当sig工房では記録的な、わずか1日という猛烈スピードだった…

 

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オー!!モー烈!

  …はいはいコレがやりたかったんですね、わかりますわかります

 

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烈風-3「下面の名誉革命」ファインモールド1/72製作記

完成すればほぼ見えないサ、といつもはスルーするコクピットだが…f:id:sigdesig:20201207171937j:plain
計器盤はデカール貼り付けスタイルだったのでプラ板を重ねて球状のリューターで掘ってみた。なかなか加減が難しく狙った所に穴が掘れず…

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まあ、穴に黒を塗り、透明レジンを軽く流し込んでやればそれらしくなる…だろう…計器板の手前には雷電と同じスタイルの防弾ガラスが付くので目立たない…かな…。A7M1は当初防弾装備は一切なかったという。防弾ガラスがある、ということは2号機以降?
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シートベルトはいつもの様にマスキングテープを適当にシワくちゃにして貼る。バックルやベルト穴もいつもの様に0.2mmのシャーペンで描く。 

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それよりも問題はこの隙間。アチコチすり合わせたのだが、これくらい空いてしまった。

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下面にはこんな大穴が…余は何か作り方を間違ったか?オズボーン。まるでトーリー党ホイッグ党の間かというほど大きなミゾではないか。

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仕方ない、余は胴体幅を少し広げることとする。…国王陛下、胴体が割れております!

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下面ならば何ほどのこともあるまい。主翼上面付け根のフィレットが最優先だ。

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見よ、被害は最小限に抑えられたであろう。

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陛下!全てのシワ寄せが下面に集中したと議員たちが騒いでおります!

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ふん、下々の議会など知ったことか。プラ板ギロチンをグサりだ。
残った部分?ニッパーで荒くカットして瞬着でも流し込んでおけばよかろう。

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…もはや王の悪政には我慢ならん、紳士諸君、革命だ!ウイリアム公を呼ぶのだ!

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かくのごとし、名誉は守られた。機体下面の権利はここに章典として記されるのであった…

 

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烈風-2「大きな烈風の機の下で」ファインモールド1/72製作記

では烈風製作スタート。

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フタを開けて見るとその機体規模に驚く。デカイ。特に主翼が広大である。寸法諸元は全長11m弱 全幅14m!(これは"天山"とほぼ同寸でまさに艦攻並み)主翼面積30.9㎡ 全備重量約4.4tとヘビー級。

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それにしてもデカイ主翼。最高速640km/hの要求に対していかに2000馬力の誉エンジンでもこれでは…

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下は同時製作の雷電主翼。横幅10.8mのこの主翼に火星エンジン1800馬力の組み合わせでようやく600km/hの最高速…まあ雷電には若干メタボの疑いがあったけど…

さて、ファインモールド社の特徴としてハセガワタミヤと違ってエモーショナルなモールドが挙げられる。
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大戦中の日本機特有の外板のヨレが表現されている…

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…といえば聞こえはいいが、金型の作りが荒くたいだけなんチャウん、と思わないでもない。試作機やし実戦配備どころか10機もでけてへんのにこんなシワシワやろか、と思わずにはいられない。とはいえ、いっそひと皮剥いて筋彫り全部彫り直そかいナ、なんてことは思いもしない。結局、もうエエわこのまま作ってもたろ、と思うほかない。

f:id:sigdesig:20201207170708j:plain二号零戦(32型)の手直しと雷電の製作に追われる中、烈風の仮組みをするsig工房、の図。そのうちデカールやパーツなどどれがどの機のだったか混乱してくる。

当時の三菱飛行機はこんな感じだったのだろうか。しかも二号零戦は航続距離不足で叩かれ、雷電は振動が収まらず、烈風は海軍からの無理難題に悩まされる。身体疲労もさりながら、その精神的苦痛は並大抵ではなかったろう。あまりのハードワークに堀越技師、曽根技師など倒れる設計者が続出し、遂には今でいう過労死する方まで出たという。

戦っていたのは前線の兵士だけではなかったということか。

 

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烈風-1「一石二鳥の皮算用」ファインモールド1/72製作記

”烈風”といえばご幼少のみぎりに”アオシマ”の72を作ったがなんだか間延びした格好で「ホンマにコレが幻の烈風ぅ?」と小学生ながら懐疑的になった思い出がある、とは以前も書いた。

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これが電人ザボーガーのパチモンなどを得意にしていた昭和のアオシマ特有の屁の突っ張りプラモなのか、はたまた全盛期を過ぎた名設計者の最後っ屁飛行機なのか、一切を白日のもとにさらけだすべく、自分は次の製作アイテムをレップゥーに決めた。(…下品で済まぬ)

さすがに今更アオシマを買う蛮勇を振るえるブログ主でもない。幸いにも現在では”日本軍の味方”ファインモールド社から1/48、1/72でプラモ化されている。当方のチョイスは当然オキラク1/72。残る選択は誉を積んだA7M1か、ハ43の正式採用型A7M2か。烈風唯一の実機写真が残るA7M2 ハ43搭載型が正道だろうが、突貫設計作業で取って付けたインテイクによる機首のラインがゴツく、堀越ファイターズ特有の流麗さにいささか欠けるのが痛い。

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かたやA7M1は飛んでみたら零戦にも劣る極悪低性能で全日本海軍が号泣したのだが、別に自分がそれに乗ってベアキャットと空戦するわけでもないから気にする事はない。全面黄橙色の塗装は最初だけで濃緑色の機体もあったらしいから地味好みな自分でもOKだ。(試作機は8機作られたらしい。いずれにせよ写真が残っていないから伝聞からの推測となる)

A7M1は強制冷却ファンなど雷電との共通点もあるから並べて作れば興味深いだろう。完成したら同じ誉エンジン同士で紫電改などと並べ比べたりするのも趣向である。(将来「誉搭載機大集合!」てなこともやりたいなウヒヒ)ということでA7M1に決定。

 

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またまた二つの模型を同時進行することになった。雷電に烈風、その上に調子に乗って製作途中で挫折していた”零戦32型”まで引っ張り出してきて当時の三菱設計室のテンヤワンヤを味わおう、というおバカな趣向をおっぱじめたから自分でも呆れるくらいのバカである。

ところが前述の通り無観客の”内覧会”がめでたく開催される運びとなってさすがのバカも焦り出す。「とんだ思い違いだったよ、これじゃ間に合わないじゃないのサ」と再びジブリババアになって慌てて零戦雷電を箱にほり込んでフタをし、全生産力を烈風一本に絞り込んだ。

その結果を先に言えば、雷電よりも烈風が先に完成してしまったのである。 ここでは製作記と言う観点から烈風を先に記すことにし、次回からは”烈風製作記”が本格的に始動します。

 

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