それでは「サエッタとフォルゴーレ製作記」のはじまりはじまり。
その前にまずは実機について軽く解説。。。
マッキMC200"サエッタ"(雷電)
なんとなく「零戦の福笑い」といった趣きだが試作から初期型まではこの水滴風防だった。パイロットの評判が悪く下の画像の開放風防へと改良(?)される。
開放風防に逆戻りしたのはこの機体に限らずG50も。イタリア人は開放的なのがお好き、だとか、時代に逆行する麺馬鹿の好例だとか、よく揚げ足とりに使われる。実のところ、どうもプレキシガラスの製造技術の問題もあったようで視界が歪んだりしたらしい。日本では九六艦戦2号で、ソビエトではI-16で同様の例がある。
前2回のブログにもある通り1930年代末のイタリア空軍初の全金属低翼単葉戦闘機競争試作「R計画」の採用機である。ただし失速トラブルで足止めを食ったのも前述の通り。
実戦投入された当初は敵の機体もI-16やグラディエーターだったから何とかなったが、優速なハリケーンやP40B相手となるとかなり難儀しただろう。うまく旋回性能を活かすポジションにつければ対抗するのは不可能ではない、といったところか。たった840馬力で最高速500km/hは巧みな空力設計とは言えるが、その程度の速度と12.7mmx2門の武装では連合軍戦闘機相手ではいかんともしがたく、さらに俊足のスピットファイアなどが登場するとサエッタはもはや対戦闘機戦には用いることが出来なくなった。
マッキMC202"フォルゴーレ"(稲妻)
簡単に言ってしまえばMC200サエッタにドイツのメッサーシュミットBf109のDB601液冷エンジンを積んだもので、胴体のリファインもあって優に100km/h近い速度向上を果たし、イタリア戦闘機を一気に世界レベルまで引き上げた。この新型の液冷イタリア戦闘機に遭遇したスピットファイアやハリケーンの英軍パイロット達は、すぐさまそれが高速と運動性能を兼ね備えた侮りがたい機体であることに気付いた。ただし強化されたとは言え12.7mmx2門 7.7mmx2門の武装は依然として不足気味だった。
写真で見ても鈍重なサエッタから流麗なフォルゴーレになる様子はさながら「サナギマン」から「イナズマン」に変身したかのようである。
さてでは模型でこの2機を比べてみよう。
上:MC202フォルゴーレ 下:MC200サエッタ
エンジンが空冷か液冷かという前に胴体の高さがまるで違うのがよくわかる。
翼の高さを合わせて重ねてみるとこんな具合。
MC200は前方視界を確保するためにコクピット位置が異様に盛り上がっている。これまた前方視界にこだわったイタリア人の愚の骨頂とされることが多いが、この時期のハリケーンやF4Fなどでも採られた手法だ。
F4F
ハリケーン
MC200 まチト盛り過ぎの感は否めない。
これらに比べるとスピットファイアやBf109は「前方視界なんかいらんわ!もっと速よしてんか!」とばかりにコクピットを低い位置に埋め込んだ。当然、空気抵抗は減少する。
Bf109
この「速度>視界」となりつつあった世界の潮流をカストルディ技師はMC202フォルゴーレに取り入れてコクピット位置を下げている。
左:MC200サエッタ 右:MC202フォルゴーレ
前から見ると前影投影面積、着座位置がこれだけ違う。視界も空気抵抗もトラックとスポーツカーの差ほどあるだろう。
しかし、空冷でありながらMC200の方も意外とその胴体幅はスリムに仕上がっていると気づく。こうやって比較できるのが同スケールのプラモデルを作る楽しみだ。
どうも設計者のカストルディ技師は本心ではMC200サエッタに空気抵抗の少ない液冷エンジンを積みたかったらしい。シュナイダートロフィレースでM33,MC72と液冷で名機を生み出してその名を馳せてきた彼としては当然か。しかし「R計画」自体が「空冷エンジン縛り」であったので従う他はなかった。空軍省は当時のイタリアの液冷エンジンの信頼性に懐疑的だったようだ。
ひょっとするとカストルディは将来の液冷エンジンへの換装も視野に入れていたのではないだろうか、と思えるほど機首が絞り込まれている。サエッタのまともなキットを作るのは初めてだからここまでとは知らなかった。ブリキの工具箱みたいなG50フレッチアとは随分違って30km/hの速度差も頷ける。
エンジンをつけてみると、途端に旧態依然とする。P-26ピーシューターあたりのタウネンドリング時代を引きずっているようでもあり、尾部にいたるまで空気の流れを過剰に意識した曲線の多い造形なども合わせて、なんとなく零戦や雷電に通じるものも感じられる気もする。
この後、時代はNACAカウリングとスムースな胴体へと移行していく(ex.FW190)から、やはり空力コンセプト自体は古いのかな、という気もする。しかしノスタルジックにも思えるこのグラマラスなシェイプもなかなか趣があっていい、、、などと思いはじめたらもうあなたはサエッタの「とりこ」となっている、、、かも。