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万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

モノアイ モデラー

片目がきかないモノアイ状態ではたしてプラモデルは作れるか?

まずは試してみよう。

作りかけの1/48の英国の軍用車両を引っ張り出してきた。

最初にパーツを切り離す。これからしてが難儀である。遠近感がないのでランナーと部品の間にニッパーをうまく割り込ませられない。

次はなんとか切り取った部品のパーティングラインやバリ落とし。これも以前の様にヒーヒーシャコシャコと軽やかにはいかない。指の感触を頼りにソロリジョリ、ソロリジョリと削っていく。

塗装も同じことだ。筆が空振りしては苦笑、をなんども繰り返す。これまた右手の中指をパーツにあてておいてそれで距離を推し量ってはズル〜リズル〜と塗っていく。

筆先のコントロールもへったくれもない。タイヤとホイールすら塗り分けられない。去年の今頃はハムスターの前歯みたいなパーツに極細面相筆で機番を左右対称に描き込む、なんてことをしていたのだが、あんなの夢のまた夢だ。

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1/72ヘルキャットの脚カバー、こういうことをしているから眼を悪くするのかもしれない。

部品を取り付けるのは最後にして最大の難関である。

ピンセットで空振り連発の末、首尾よくつまめたパーツにチョン付けしようとした接着剤の筆がベッチャリついてしまう。本体に接着する時も目測を誤って全然違うところに持っていくから痕が付く。もうベチャベチャのグジョグジョである。

なんだか小学生が初めて作るプラモデル、みたいになってきた。

泣きたくなる。

これはリハビリから始めなければなるまい。

 

で、思い切りハードルを下げた。

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「フルタ 軍艦コレクション」の「ロドネイ」
彩色済み、砲塔やマストなど10個くらいのパーツをはめこむだけ。スケール表示はなく、だいたい12cmくらいか。手のひらに乗る。手乗りロドネイ。

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食玩やないかい!」との声が聞こえそうだ。

「プラモ屋で買うたからプラモなんじゃ!」と屁理屈をこねてみる。

「ほったら八百屋で買うたスイカは野菜なんかい!」と屁理屈で返されそうだ。

まあかろうじてセコイヤチョコはついていないから食玩ではないのだよ、消費税も10%払ったし。

むろん、今までの自分なら「パーツに色ついてんのはプラモやあれへん」などと言うだろう。しかし今は独眼流の身である。新たなルール、身体の状態に合わせたルールがあってもいい筈だ。今の自分にとって「フルタ 軍艦コレクション」の「ロドネイ」はその難易度において十分プラモデルなのである。

それが証拠に、こんなオマケみたいなのにも手こずっている。10個ほどの部品をはめこむのにどれだけ時間がかかったか。色が塗ってなかったら丸一日では出来なかったと思う。

出来上がるとまあ、ロドネイには見える。こんな格好した戦艦なんて後にも先にもロドネイとネルソン以外ない(リシュリューとかもあるか・・・)

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副砲がうまく収まらない。実際は艦尾の砲塔は後ろ向きに付けねばならんところを、組立図の記載が間違っていたのである。

スナップキットは組むのは簡単だが、いったんハメ込むとキッツキツでなかなか抜けない。副砲と甲板の間に精密ドライバーの先を差し込む。当然片目だからこれまた五里霧中である。やっとの事で差し込んで「うんにゅーふんにゅー」とか言いながら副砲を抜いて正しい方向に差込み直す。ヤレヤレである。

クレーンや艦尾のポールなども尋常ならざる苦労の末に収めたが、ナンボナンデモ太すぎる。(実感を削ぐから後でみんな抜いてしまった)

調子に乗ってウエザリングをかましてみた。

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グンゼのウエザリングカラーは臭いが少なく無臭モデリングには持ってこいである。甲板にはグランドブラウンを、艦橋などの構造物や船体にはマルチブラックをと使い分ける、などという芸の細かさを見せてみる。

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さらに調子に乗ってガッシュのミディアムグレイで軽くドライブラシをしてやった。

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メリハリがついて立体感が出る。

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ちょっとモデラーが作ったみたいでしょ?

事務所のパソコンのディスプレイの下に置いてみる。

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ええやんコレ。

やるやんフルタ。

できるやんオレ。

これまで何気なくスイスイ〜ス〜ラリラッタとやっていたことがいちいち苦労の連続だった。しかし片目ゆえのその苦労そのものに本質があるわけではない。成果物としてのフルタのロドネイの出来などもむしろどうでも良い。このロドネイを作って面白かった、楽しかった、自分なりの工夫を自分なりに精一杯した、というところに価値があるのだと思う。

机の上のロドネイを眺めながら「世界の艦船」"特集・英国戦艦"なんてのを納戸の隅から引っ張り出して読んでいる。こんどはキングジョージ5世を作りたい、次はマストを真鍮線で作り変えてやろうか、なんて考えてワクワクしている。

これこれ、これこそが「模型作り」の醍醐味なのである。

 

モノアイ・モデラーの誕生である。