sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

モンスターの余命

それにしてもメカニック氏には感謝する。よくぞ見つけてくださった。さすがである。

チラ見しただけで「アこりゃたぶんコンピューターだね。修理?無理無理、バイク買い換えた方が早いよ」なんてそこいらのバイク屋で普通に交わされている会話だろう。

 「コンピューター、回路部品、ハーネス、端からチェックしましたから」

さぞ面倒な作業だったろう。プロ意識を見た思いがする。そのメカニック氏がセルを回す。

キュキュカ ズドン、ドルンッドッドロドン ドガズシャ ドンドルン

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おお、モンスターが息を吹き返した。時々咳き込む労咳病みの用心棒みたいなアイドリングだが、いつも通りなアイドリングである。

こんな嬉しいことはない。一度は走馬灯を半回転しかけた自分である。シオシオのメソメソになっていたのだ。祈りが伝わった。神仏に祈願もせずお百度も踏まなかったにも関わらず。これぞボウズ丸儲けである。ちょっと違うか。ともかくもう一度モンスターに乗れるのだ。ウズウズしてきた。

ウホウホ喜んでいたらメカニック氏は冷静に釘を刺した。

「…なんですがぁ〜」

「んん?」

「さっき言った箇所は全て今後の不安材料と思ってください」

「え?あそうなん」

「今度はそいつらが次々と壊れていく…よくあることです」

「…次々と」

「これからトラブルの嵐となっても全然不思議じゃない」

「…嵐」

「もうイタリアン・クラシックバイクなんだ、と言う認識でお願いします」

「うう〜ん」

無論、今まで以上に大事には乗るつもりだ。アホなDIYはもう止めておこう。あちこちの部品が一斉に寿命を迎え出す、というのもフラ車で身をもって経験してきた。20年後の耐久性を見込んでバイクを作るドカでもあるまい。

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しかしイタリアン・クラシック、というと若い頃に憧れたイモラレプリカなんかを思い出してしまう。ピカピカに磨いて湯水の様に金をつぎ込んで腫れ物の様に扱う、なんて文化財の動態保存みたいのは自分には逆立ちしたってサル真似すらできない。

確かに18年落ちのドカである。この後モンスターは何度モデルチェンジしたか知れぬ。そういう意味では"クラシック"だろう。この型のモンスター乗りは以前は周りにも沢山いたが今ではあまり見掛けない。

メカとはその後少しお茶を飲みながらバイク談義を楽しんだが、もともと容量の少ない自分の頭は「トラブルの嵐」という言葉で一杯だった。"嵐"どころか"比叡おろし"あたりでもヤワな自分は膝を折るだろう。甲斐性のない自分にこのバイクに乗り続ける資格はないんじゃないか…

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しかし思い直した。

一度は覚悟を決めた自分だ。もう怖がることもない。たとえあと50kmでも100kmでも生き返ったモンスターと走れるのならそれは望外の喜びではないか。

今後のモンスターとのバイクライフはアディショナルタイムみたいなものだと考えよう。オマケである。余禄である。オートバイの神様からのプレゼントかもしれん。雲になったあ奴の差し金なら、粋なはからいだ。

今後はエンジンを掛けるたびに「一期一会」だと思うことにする。

カッコイイなんて思われなくたって別にもう構わない。

モンスターが壊れるか自分が倒れるか、はたまた財布がカラッケツになるか。

いけるとこまでいってみよかいな。

 

ヨシ、近くの堤防の土手までちょいと試運転だ。

自分は一旦ガレージに収めたモンスターをまたぞろ春の陽光の中へ引き出した。

快調快調!ツインエンジンは打てば響く。あの"お転婆娘"なモンスターが帰ってきた。

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「チョット!年寄り扱いすンじゃないヨッ!」

 

マーシーが唄っている。

 

オートバイが走っていく

ただもう走っていくんだ

 

  爆音を轟かせ エンジン焼け付くまで

  走り続けるよ 遠い道の上

 

    ここより他の場所へ ここより他の場所へ

    憧れの場所へ きっと往けるはず

    

       ひとりぼっちのオートバイ

       忘れられない夢を見たよ

 

                     オートバイ/真島昌利