そしてここでトラブル発生!
なんと製作中の雷電が工房主の指先から離れ、高度1000ミリメートルの机上から墜落、まっさかさまにフロアに激突した。それも一度ならず二度である。やはり雷電「殺人機」のその異名は伊達ではない。
チャーリー、被害状況を報告せよ。
…ダメです、船長。下面にひびが入っています。
この段階での修理は少し危険ですね。
…うむ下面なら目をつぶるしかないな。他はどうだ。
何かが外れているようで振るとカラカラと音がします。シートか防弾ガラスか、床板ごと外れていたら目も当てられません。いずれにせよ修理にはキャノピーを外す必要があります。24時間は掛かるでしょう。
…12時間でやるんだ。それ以上は待てん。
まずはマスキングをすこし剥がして内部の状況を探ってみます…あっ計器板が…
キャノピーの接合部に位相光線ナイフをさしこんで剥がそう。
…慎重に慎重にだぞ。
船長、不幸中の幸いですね、被害は計器板だけで済んだようです。
…安心するのはまだ早いぞスポック。問題はどうやって付けるかだ。
…私に考えがあります。チャーリー、計器板の上にフォトン瞬間接着剤を塗ってくれないか。終わったらロミュランピンセットで防弾ガラスごとつまんで上に持ち上げるんだ…
やってみましょう…うまくいくかどうか…
よし。キャノピーを元に戻して…と…なんとか修復完了しました。
…よくやったチャーリー、今晩ジャニスとデートしていいぞ。
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そういえば最近よくモノを落とすようになってきた。
齢を重ねること五十余年、徐々に指先が不器用になるし手脂も失われる。どうも乾燥する冬は手荒れが酷い。今年はコロナ禍で手洗い回数が倍増したこともある。店先でのアルコール消毒もこれに拍車をかけている。指先は割れてガサガサだ。近頃ではiPhoneの指紋認証すら通らない。
夜ごと吉瀬美智子に膝枕されつつ優しくニベアを塗ってもらえればたちどころに治ると思うのだが、夢にもありえない。家人の使うQ10入りハンドクリームをこっそり塗ってみたら今度はスベスベになり過ぎる。どうもそういう美肌成分が含まれているのだろう。五十がらみのプラモマニアの手などには要らぬ効能だ。仕方なくキスミーだのオイラックスだの昭和の家庭の戸棚の引き出しにあるような軟膏を塗りたくっている。
また、「メクール」というものがある。馬鹿な商品名通り福助頭の経理係が助平顔で札勘定する時などに使うものだ。これを模型製作の前に両手の親指と人指し指に少しつけておくと具合がよい。ただしどれもあまりやりすぎると模型がベタベタになってしまう。さじ加減が必要なことは言うまでもない。