sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

春の陽に誘われて

先週の前半の話である。

どうも、暖かい。
知人のバイク乗りの近況にも満開の桜が彩りを添える様になってくる。
何処でもいいから自分もバイクに乗って出かけたい。
身体中から生え出した「バイク乗りたい」の芽が気温20度を越えると満開になるのが単車乗りというものである。

 

ところが、腰の調子は相変わらずだ。
少し具合が良くなると、油断して机に向かって一心に作り物をしたり、倒れたバイクを引き起こしたりと、無理をしてしまう。それじゃあ一向に治らないと医者も呆れ顔である。

バイクのキーホルダーを手にしたまま、行こうかなヤッパリ止そうかな、などと首をひねっている様子は冬眠ボケの山ネズミそのもの。

そう言う時はとりあえず、オイルの点検などをしてみる。空気圧を調整する。エンジンを掛けて電圧を計る。そうやって淡々と運行前点検をしているうちに気持ちが静まってくるのを古い単車乗りは知っている。

ブーツを履いて革ジャンに袖を通す頃にはもう覚悟は決まっている。
ガレージのシャッターを開けて目に眩しい春の陽光の下にモンスターを引き出す。
またがる時は、できるだけ足を高く蹴上げて勢いよくまたがる。
またがってしまえばもうこっちのもんである。

ドラララッと闊達に回るツインエンジンを存分に謳わせて、車列を離れて前に出ると、堤防の先に広がる青空と目の前のまっすぐな道路。
「コノ道全部俺のもん!」
という中学二年生的青春気分になれる。

When I was younger so much younger than today~

走り出したらやめられない止まらないのカッパエビセンライダー。
堤防をどんどん抜け久々のワインディングもそつなくこなし京都山城まで行ってようやくイタリア製の騒々しいツインエンジンを切った。そこは蕎麦屋の店先である。

カウンターに座ると「定食売り切れ」の札に「あちゃあ」となるが、その代わりに「季節限定タケノコの天ぷらと蕎麦」のしおりを見つけ小躍りしてそれを注文する。長身のニヒルな男前の店主によれば昨日山に掘りに行って来たばかり、とのことである。このあたりはタケノコの産地でもあるのだ。

f:id:sigdesig:20190420181837j:plain

山盛りのタケノコの天ぷらと男っぽいハードな食感の蕎麦を食して腹も心も満たされる。ここの蕎麦は丸抜き、二八、十割と三種類あるが、前回どれを食したのかいつも覚えていない。この程度だから自分はいつまでたっても蕎麦通になれない。なに蕎麦通になれなくとも蕎麦好きで沢山だ、と開き直ってしまう。

 f:id:sigdesig:20190420181805j:plain

店を出て走り出すと対向車線の選挙カーから綺麗な女性が笑顔で白手袋の手を16ビートで振ってくれる。あたりには黒い単車に乗った自分一人きりしかいない。美人独り占めでなんだか照れてしまうが、単車乗りだろうが猿だろうがなんでもいいから愛想良くしておけ、ということなんだろう。あいにく選挙区違いだ。

続いてため池の傍までいって遅い花見
満開の桜よりもちらほらと花をつけた程度の枝ぶりの妙についカメラを向けてしまうのは地味な性格のせいだろうか。

f:id:sigdesig:20190420181954j:plain

写真を撮っていると

「よう、何してんだよう」と黒猫が寄ってくる。
一匹寄って来たかと思うと続いて三毛と白いのとがやって来て三匹に取り巻かれる。
「食べ物をおくれよう」「おくれったら、よう」
「あいにくなんにもない」というと
「ちぇ、甲斐性なしか」とぷいと向こうへ行ってしまった。

なんだか人の懐目当ての奴ばかりに愛想を振りまかれている気がして来た。

いつものカフェへとバイクの鼻先を向ける。
今日の日替わりコーヒーはグァテマラ。
ここのコーヒーは一口目がクリアで、後から香りが立ってくる感じでお気に入りだ。
などと言うてはいるものの、産地の味の差はよく分かっていない自分である。
かろうじて分別できるのはモカくらいなものだ。
そんなだからいつまでたっても珈琲通になれない。
なに、珈琲通になれなくとも珈琲好きで沢山である。

f:id:sigdesig:20190420181909j:plain

 

帰りに住設機器のショールームに立ち寄った(からかろうじて今日は仕事をしていたことになる)カウンターの向こうに3人並んだアイドルユニットみたいなうら若い女性達にトイレのカタログを所望するという蛮行である。

その内の一人が瞳をキラキラさせて「お小遣いをくれたら上げるわオジサン」いやそんな事は言わないで満面の笑みで応対してくれた。

こんなポカポカ陽気なのに黒づくめで革ジャン着こんでカッパの寝起きみたいな髪で飛び込んで来たオッサンに不審な顔一つせずに冷たいお茶まで出してくれたのだからプロフェッショナルの極みである。
とはいえ、自分が帰った後どうだったかは定かではない。今頃どこかのSNSで「ウケル〜季節外れの革ジャンオヤジがやって来た〜」にイイネが48個ついている、なんて可能性もなくはない。そんなすこし遅い春の昼下がりでありました。

 

f:id:sigdesig:20190420181720j:plain