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万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

縄文時代に遊ぶ

開田高原には古くからの民家が長野県の文化財として保存されている。
今回は「歴史的建築物を訪ねる旅」だから、、、、
「え、そうだったの?」
う、ウン、今回は歴史的建築物を訪ねる旅”でも”あったから、寄ってみたわけだヨ。
 

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外から見るとゆるやかな大屋根で覆われた横に広い家で、妻側の白壁に入り口がある。
この造りは信州ではよく見る形式だ。木曽福島の駅もそれを模してある。
車山で泊まったペンションも同様の建物だったことを思い出す。
 
なんとなく前川國男邸にも雰囲気が似ている。
大きな木製の棟飾りが独特でこれもこの辺りの建築の特徴の様である。
古民家をそのまま利用した蕎麦屋にもそれがあった。
このへんは商売柄、ちゃあんと目が利いてるのである。
立派な彫り物の懸魚がこの家の格の高さを物語っている。
 

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一見庄屋さんの邸、といった趣きだったが開田は木曽馬の里として栄えてきたから、
たくさんの馬を育てるいわゆる牧場主の邸宅であった。建物は江戸末期。築150年ほど。と、案内のおかあさんが出て来て軽く説明をしてくれる。
 

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木曽馬とこの地の人たちの結びつきがこの写真からうかがわれる。

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馬小屋が自宅の中、それも居間のイロリの真ん前だ。
土間を挟んでオウマさんと向かい合わせでご飯を食べるわけだ。
蚊も飛んでこない様な高層マンションに住む現代人には理解しがたい暮らしだろう。

 

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中に入ると意外と奥行きが深く、大きな地松の梁が圧巻である。
 

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富士山の欄間が気に入った。

障子の桟も小粋で手が込んでいる。

 

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案内のおかあさんに、蔵の方に別の展示物がありますので是非どうぞ、
と言われてそちらに入るとイキナリ人形の原始人がいて驚いた。
いや別段そこまで驚きはしなかったが、ギョっとはしたのだよ。
 
本当に驚いたのはこの開田に旧石器、縄文時代の遺跡があったと知った時だ。
黒い石器や須恵器、縄文の特徴的な火炎文様土器などがたくさん展示されている。
こんな小さな古民家の土蔵の中に、である。
 

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そういえば諏訪湖には縄文文化が栄えていたはずだ。
御柱祭はその頃の神話に依るものだったと記憶する。
確か霧ヶ峰あたりに矢じりなどに使うサヌカイトだか黒曜石だかの産地があった、
と高校の日本史の授業でも習った。(覚えてましたよナガオ先生エへへへ)
そういえば先ほど寄った御嶽の展望台にも地層の露見した柱状節理や褶曲があった。
 

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しかしこの開田は既に標高も高かったろうにあえてその地に縄文人が村落を持っていたのが不思議だ。
 (とその時は思ったがそもそも諏訪湖周辺自体、相当高地なのだ)
いずれにせよ今と同じ山の幸が豊かな地だったはずだ。
 
その後、弥生時代から平安までは人類の足跡は開田からふっつりと途絶える。
その土蔵の中の博物館には消えた縄文人の理由は明記されていない。
荒ぶる御嶽から逃れたのか、他の地の縄文人同様、大陸渡来の弥生人に駆逐されたか。
いや縄文時代といっても1万年も続いている。それなりの栄枯盛衰もあったろう。
 
とドンドンと脳内のいろんな情報の断片が繋がってくる。
一つ一つの「情報」が繋がって線となり、線がいくつか集まって全体像を浮かび上がらせる、そうしてそれは「知識」となる。
 
 
 

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脳ミソがひさびさに知的興奮しているのを冷ますためにもやまゆり荘で温泉に入ろう。
気がつけば日はすでに傾いている。
ほんものの温泉は一年以上のひさしぶりだ。存分に湯を楽しむ。
 
自分はこの一年間とても忙しかった。
常にゼンマイは一杯に巻かれていた。
これ以上巻けない、これ以上巻けない、これ以上巻けないよう、を繰り返し、
ついにはトドメを刺されてギチギチに固着してしまった。
ゼンマイを巻いておかねばならない状況を過ぎても元に戻らない。
 
それがビュワアアンと今一気に解放された気がする。
 
いつもの様に豪胆にも仁王立ちして御嶽と対峙する。
 
。。。寒い。。。
 

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そうしていつものロッジに着く頃にはちゃんと日が暮れているのだ。
ロッジで一年ぶりにオーナー夫妻に会う。
どんなに孤独な一人旅でも最後にこの宿があれば心が安らぐ。
 
案内されたのは珍しく洋室。
どうも筋肉痛がひどいので立川の薬局で買ったスティック状のサロンパス
みたいなのを足と言わず腰と言わず塗りまくって素知らぬ顔で食事の席に着いたら
「クンクン、ん?」
と一発でオーナーにバレてしまった。うむ、鼻のいい男だ。
 
そして夜のご馳走
こればっかりは文章で表現できない美味さだ。尻尾がついていたら存分にそれを振って
表現できたろうにと思うがあいにくと人類に生まれついたのです。
 
 

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一通り食べ終わってソファでオーナーと語らう。
さすがは開田だ、寒い。
薪ストーブに火を入れてもらう。
どうも都会もんは脆弱なのである。
 

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時折、薪がはぜる、ぱちぱちという音が柔らかく流れる音楽の合間に入る。
古いアナログレコードのスクラッチノイズの様だ。
他愛のないジャズの話、映画の話などを二人とりとめもなくして夜は更ける。
 
コンクリートにビニールを張った壁や床に囲まれた安普請の自分の事務所は
寒くて底冷えがする。
いつかこんな風なウッディで居心地の良い感じに改装してやろうと企てていた。
 
無垢の床材を敷き詰めて暖炉かストーブをしつらえる。
腰壁にきちんとした無垢の木の板を張ってその上は左官コテ仕上げだ。
事務机は取っ払って丸い木のテーブル一つにする。
暖かい音が出る真空管アンプと自作のフルレンジのスピーカーを置こう。
 
いや無垢の床材は反りが出る。薪ストーブ?普通の人じゃ無理無理。
鋳物そっくりのファンヒーターは?火が燃えてるみたいに見えるから。
いつの間にか、また見た目だけになっていく。
それに改装にはなかなか金もかかる。
そして、よくよく考えてみればお客さんなんて誰もこない。
 
計画は廃めにした。
 
其の分のお金で開田に行く方が得策だとわかった。
うまい料理や綺麗な空気、雄大な風景、オーナーや奥さんとの会話、
ここでしか味わえないものがあるではないか。
 

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