sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2012信州ツーリング4日目 天空の里

朝早くに起床。天気はまずまず。

 

狭いベッドから抜け出し、起き抜けの重い頭に熱い湯を、とシャワーをひねったら

出る湯は春先の小雨ほど。裸で震えながらユニットバスを飛び出る。

階下に降りてバイキングの朝食。

トレーにへばりつくように残った生気のない食べ物をかき集めて腹に収めた。

 

風情のない上に利便も事欠いて無味乾燥、、、

 

ま、行き当たりばったりの旅だとこういうこともある。。。。

というかむしろそれが当たり前だと大人ならわきまえている。

 

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第四楽章 アレグロモルト


 

 

これまでは運が良かったのだろう。

地図を持たない自由な旅、土地の人との心温まるふれあい、

隠れ家の様なうまい蕎麦屋や秘湯を発見・・・

まずおおかたは雑誌やマスコミの作り出したイリュージョンだ。

 

「自由が幸せ、とは限らないさ・・・」

 

by スナフキン

 

しかし、これでこの後は高速で帰るだけでは寂しかろう。

コンクリートに囲まれて寝て、コンクリートに囲まれて走る。

そんな一日が最終楽章では味気ないではないか。もちっと快活壮大にいきたいものだ。

多少強行軍でも南アルプスを走ってみよう。あとは高速道路でワープすればよい。

 

 

そういうカードを切れるのはやはりバイクの性能の恩恵でもある。

250のオフローダーが気軽で良いとは言ってみても長距離の高速走行は辛い。

 

 

南アルプス 分杭峠しらびそ高原


路地裏から町中を抜けてR152に入ると朝もやの中の山道で身体が冷える。

 

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今日は中央構造線沿いに走る。

この大断層は今もなお地殻同志の強大な圧力がせめぎ合う只中にあるのだろう。

全てが荒削りで寂寞とした不思議な雰囲気が漂う。

 

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分杭峠は近年パワースポットブームで大にぎわいらしい。

この辺りは磁場がゼロ、というが自分にはむしろ逆に

「近付きがたい場所」ではないかと思えた・・・

 

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そもそも鈍感な自分だから体中に貼り付けたピップエレキバンが反応したのかもしれない。

 

国道を離れると延々続く狭隘な山間路がだんだんと厳しさを増す。

南アルプス、といえばどことなく牧歌的なイメージがあるがこのあたりの谷は深い。

 

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しらびそ高原には西欧風の大きなロッジがあってそこだけは別世界が開けていた。

 

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確かに四方に開ける展望がすばらしい。天気もよい。

遥か太平洋から雲の軍勢が押し寄せてくるようだ。

自分がJUPITERの指揮棒を振るならここがよかろうと思った。。。

あり得ない事だが。

 

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道中の山の端の紅葉を愛でつつ走る。

 

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赤や黄や緑のグラデーションが見事で、色の具合が栄太郎飴を思い出させる。

 

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その先に進むと太古の隕石クレーターの跡(?!)などがあったりと秘境の度合いが増してくる。

地球にモノリスを埋めるとしたならこの場所だ。とあり得ない妄想が飛躍する。

 

 

 

天空の里


 

ここは「南アルプス エコーライン」だそうだ。

そんなハイカラな呼び名がふさわしい整備の行き届いた道は残念ながら短い。

 

路面は荒れ、ことに崩れた山肌からの落石が酷い。

ただでさえ狭い一車線の走行ラインは四輪の轍より僅かに広いほどに過ぎない。

 

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一速で上り下りするような急坂のつづら折、ガードレールのない箇所や、

ダートのコーナーさえある。

 

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高原のドライブウェイと勘違いしてたら泣きを見るだろう。

「蛇洞林道」の方が余程イメージにあっている。

 

そんな道の先に「下栗の里」はあった。

その先に駐車場があると知らず、ええいままよとここに停めた。

リッターバイクなら蟻地獄は必至だったろう。

 

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ビューポイントまでは幅1メートルほどの山道。

登る人と下る人は譲り合わねば通れない。

すれ違いざまに「どうぞ」と「ありがとう」を交わし徒歩で登ること約15分。

すでに革ジャンは脱いで腰に巻いている。

 

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登山道の右手が開け、そこから「天空の里」が見渡せる。

標高1000メートルほど。40度の急傾斜の山腹に数十世帯の家々。

 

 

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車のある現代でも冬は雪に閉ざされるだろう。

ここに住む人達の暮らしを想像するのも難しい。

それでも生まれ育った土地への想いがいまなおこの村に連綿と続いている。

 

「絶景」とか「癒される」とか、

そんなヘナチョコな都会もんの身勝手なブームで踏み荒らしてるだけではないだろうか。

一方、民宿や食事の出来る大きな施設もあり、村の人達がボランティアで車を誘導している。

「秘境の景観」が過疎を防ぐ「人集めの手段」となる現実もある。

 

 

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そんな事をぼんやり考えながら転がり落ちる様な坂を下った。

前を行く郵便カブのコーナーリングが流石の巧みさである。

 

天竜川のほとりを快走し中央道の手前の道の駅で休憩。

やっぱりまた蕎麦を食べる。馬鹿なので一つ覚えで押し通す。

これが意外に美味かった。

大根おろしが辛いのが疲れた心身に目覚ましとなる。

 

 

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手を見て少し驚いた。革手袋の跡が左手だけに残っている。

何百回となくクラッチレバーを握った証なのだろう。

今日はさすがに肩と首が凝り固まっている。

 

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「今日はもう充分」

大自然は満喫した。その雄大さも、少しばかりの厳しさも。。

ごちゃごちゃした都会の喧噪やジャンクフードが恋しくさえもあった。

 

だが走り続けねば帰れない。

 

さすがにさらに一泊を敢行するには気力体力財力共に乏しくなってきている。

明日は天候もすぐれない様だ。

ツーリングマップ上の露天風呂の誘惑を振り切り中央道へバイクの進路を向ける。

 

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帰路


 

高速に入る。

土曜ということもあって追越し車線の列が走行車線よりも長く、時に流れが遅くなる

という日本的休日の風景。

いた仕方なく「ご免なすって」ズビズバと数台ずつ斬り捨てる様に抜いて行く。

小型軽量が身上のモンスターは歓喜に身を躍らせるかの如く加速する。

 

琵琶湖あたりで日が暮れ、ついに渋滞につかまった。

 

ようよう家に帰り着くと、中学生の次男が声変わりしていた。

トリップメーターが示す数字などよりも、その事実に

自分が長旅をしていたという実感を得た。

 

どこも故障せず走りきったモンスターに、

旅を支えてくれた信州の道や山や人々や食べ物に、

そして留守を守ってくれた家族に、

 

感謝

 

 

・・・そして自分に乾杯。

 

 


 

翌日、

なぜか無性に食べたくなってチキンラーメン

サッポロポテトバーベキュー味をむさぼり食った。

 

自分は清浄な信州の地には住めない身だと悟った。

 

四日間持ち歩いた明宝ハムは・・・まだ食べていない・・・