sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2011 信州ツーリング 2日目 Monster in ビーナスライン

二日目の朝、朝食時のテレビで今晩から下り坂との予報を聞く。
どうやら明日は雨模様らしい。
しばし落胆・・・しかし

「今日を楽しもう」


と気持ちを切り替え、ルーティングを変更。
さすがに信州、9月初旬でも冷え込む。シートの夜露をグローブで払って出発した。

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見知らぬ土地の朝


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昨夜露天風呂からシルエットで見た飛騨の名峰が朝もやに浮かんでいる。

朝から道に迷って市街地をぐるぐる回るはめになった。
平日だから街中をゆくと登校中の地元の小、中学生たちとすれ違う。
彼らには荷物を積み込んだ大阪ナンバーの黒いオートバイは


非日常的存在だ。


自分とは縁もゆかりもない、たまたま通っただけの遠くの小さな町の日常
そこでも人々は生活し、その「人」なりの人生を「生」きている。

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少し行くと、聞いた事のある小さな光学機器の会社に出くわした。
空気がきれいな長野には光学、精密機器の工場が多いと中学で習った。
沿道には小さく古いパン屋がある、木製のガラス戸の店は農機具を売っている。

かたや幹線道路沿いにはジ○スコやヤ○ダがでかでかと全国どこも同じで大きく平板な顔をさらしている。
そんな景色を見て走るより、一歩脇道にそれ、そこの人々が生きる大地の上を
二つのタイヤで踏みしめた方がなんとなく面白そうだと思った。



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少し混雑したが、ようやくバイク向きの道になり

菅平高原

に入っていく。

前には大型バスやトラックなどが喘いでいる。
延々つづく峠道を牛歩の列の後ろについていくほど自分は従順には出来ていない。
まとめて抜いて左手で挨拶。アクセルのひとひねりで足りるのは排気量の恩恵だ。

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心地よい高原の風を味わっていると道を通り過ぎ、一面のキャベツ畑に迷い込んだ。

頼りのiPhone様はむろん圏外。

別のアプリに地図はダウンロードしてあるし、圏外でもGPSは作動する。
が、面倒なので、もうそのまま迷ってみる。
次にこの地へ来たとしても迷った道を通る事はないだろう。
一期一会、そう思うと迷ったついでに写真などを撮ってみる気にもなる。

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名も知らぬ一輪の花。どこだか分からぬ道端で。←なんてキャプションだろ

そんな当方を

白いオープンカー

のドライバーがジロリと一瞥をくれて追い抜いて行く。
さっきバスの後ろの渋滞をまとめて抜いた何台かに混じってたかもしれない。
ハハッ、デカ尻も渋滞には勝てないか。

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前にも後ろにも車はいない。むろん人もいない。
「打てば響く」のエンジンを静かな白樺林にこだまさせ、
右に左にモンスターは駆け抜けていく。

これは最高の気分だ。


この気持ちを「なう」したくてもやはり圏外。
電話もメールもtwitterも出来ない。
最初は不満を覚えたが、

そういう諸々に縛られないのが「自由」というものだ


自分がバイクに乗り始めた頃にはeメールどころか携帯電話などもありはしなかった。
山中でキャンプすれば数日間は実社会との繋がりが断ち切られるのは覚悟の上、
というかむしろそういう境涯を求めて旅に出たはずだ。

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街を見下ろしながら斜面を下りる。

あまりの雄大さに何の変哲もない道端に単車を止めた。

正面に見えるのは蓼科山だろうか。

(ここは島崎藤村「破戒」に出てくる"とある山"にほど近い。
文豪の筆で美しく描写されている"あの景色"そのものだった、とこれは後年気付いたこと

朝から地図を見たり写真を撮ったり以外では止まっていない。
その度に水筒の水で喉を潤すだけで、3時間以上を腰を下ろすこともなく走っている。
この快走ならまだまだ走れそうだ。
高速なら一時間でもう休憩したくなるのだからバイクとは不思議な乗り物だ。

蓼科 車山ビーナスライン


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蓼科へと登る高原道路は白樺の林を抜けて真っ直ぐ続く。

途中の蓼科牧場で休憩。

天気は引き続き最高で空と雲が美しい。

空と雲が好きだ。
空と雲が好きな人が好きだ。

まだ午前中なのでアイスクリームを食べる。
シャンパンは午後になったら女の子用だそうだから、
男ならアイスも午前中に限る、という事にする。

なんとか将軍は同意しないだろう。

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女神湖のほとりから白樺湖畔のやや観光地然とした雰囲気を横目に走り抜ける。
懐かしの車山高原を眺める。
フレンチブルーミーティングはまだ先だろうか。
そして優しくたおやかで曲線美の

「女神の道」

ビーナスラインに登って行く。

空はますます青い。
こうして今日の良い天気を存分に楽しめたら、どんなに明日が雨でも平気な気がする。

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一本の白樺の木がある小さな展望台に自分はモンスターを休めた。

厳然とした八ヶ岳


雲の向こうにふわりと麗しく富士


振り向けば泰然と御嶽が望める。


いまからあのはるかに見える御嶽までひたすら行くのだ。


ふもとのあのロッジには人と木の温かみが待っている。
メシも美味いし酒も旨いだろう。アコースティックなJazzがしんなりと流れるだろう。

思えば昨日は高速をぶっ飛ばし、人外魔境の雲上の志賀高原道路を走り、
素っ気ないカタツムリの殻の様なビジネスホテルの冷たい一室で寝た。
そう思うと昨日のハードボイルドに傾いてた心持ちも表情もいくぶん柔らかになる。

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霧ヶ峰まで来て地図を開く。

折角来たのだからビーナスラインをいったりきたり、
存分に楽しんで諏訪から高速に乗ろうか?

いやリゾートツアーじゃなくて「旅」なのだから・・・

やはり一本の「道」として接したい。


今日は全部「下道」と決めた。時間はかかるだろうが・・・

傍らを修学旅行のバスが通り過ぎる。
見上げると窓からメガネの小学生が手を振っている。
大サービスで両手を振り返してやったらメガネ君、大はしゃぎだ。

ふと見ると相棒のモンスターは相変わらずクールに佇んでいる

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「早く行こうぜ」



次元かお前は・・・

真綿の様に溶けた雲が頭のすぐ上を通って行く。

再びビーナスラインを走りだす。

コーナーではバイクと自分との一体感を楽しむ。
ひとつコーナーをクリアするとまた新たな景色が目の前に広がる。
眼前の絶景が左右に流れていき、ヘルメットの中にその場の風が飛び込んでくる。
そしてまた次のコーナーが迫る・・・

これを繰り返すうちに単車乗りの心はひとりでに陶然としてくる。


景色と風とスピードを一緒に味わう



これがバイクの醍醐味だと思う。
玉子掛けご飯の様なものだ。混ぜて食うから旨いのだ。。
とわかるようなわからんような変なタトエを思いついた。

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ここはカクテルの様なものだ、などと言えば格好いいのだろうが、

この時はタマゴカケゴハンと思ったのだからそう正直に書いておく。
netだからといってウソはいかんよ。



諏訪湖 高遠


和田峠から山をおりると意外に早く40分ほどで諏訪湖に着いた。
混雑する幹線を外れ、湖畔の道をモンスターでゆるりと流す。
溢れる太陽を湖面が照り返す。エンジンの鼓動が軽やかにswingしている。

遊歩道の適当な場所でモンスターを木陰にいれた。

回して良し、流して良し。停めて眺めてまた佳し。
まったく小股の切れ上がったバイクだよオマエは。
ただ他人とペースを合わそうとすると途端に扱いにくいゴテ娘に変貌するのは何とかならんかね。

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バイクの横に実に5時間ぶりの腰をおろすと真正面にある富士山に気付いた。
なんという僥倖か。
ここで昼休憩と決め、鞄から取り出した食料と


富士と諏訪湖を楽しむ


それでも自分にはご馳走だ。

観光客で一杯の高級なうなぎ屋に一人で入るのも億劫だったから丁度いい。
「諏訪の由布姫」もここからの富士を眺めたのだろうか。
にわかに「隻眼跛行の勘助」となって魚肉ソーセージにかぶりつく。

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画面中央 うっすらと富士 お判りになるだろうか

諏訪から茅野

向かう幹線道は混み合っていて途端にモンスターはもうご機嫌ナナメ。

なんて扱いにくいバイクだ、イタ公め、と自分も掌を返す。

アウディのでかいスポーツカーが意地悪く路肩を塞いでくれる。
そのボディはハエがとまったら滑り落ちそうなくらい一分の隙もなくもの凄い。
隙もないが味気もない。
凄味もある分、嫌味もある。

さっさと幹線道を離れてまた山道に入っていった。


ここから高遠を抜けて伊那に達する。


今までの高原道路とはちがって日本的でひなびた谷あいをゆく。
これはこれで風情があって良い。

少し速度を落としてのんびり走るのが似合う道だ。
一昨年、伊那高遠あたりは「ありきたりの道だ」と書いた。
謹んで訂正させていただく。

やはり高速を降りて主要幹線道だけ走っててはその土地のことは何もわからない。

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「高遠そば」

と書かれた看板に単車乗りのソバ好きの腹がぐうと鳴いた。

大体昨日から食い物がヒドイ。
ま少し人間的にあつかってくれろと舌も言う。
「うなぎ屋」は気が引けるが昼下がりの蕎麦屋ならと、
ずかりと踏み入ると貸し切り状態。

西側の大きな一面の窓から南アルプスが見える。

道路と駐車場に対して妙な角度がついた建物だ、と思ったが、
こういう仕組みかと合点がいった。

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出て来たソバはしゃっきりとして、噛み応えがある。
つゆもダダっ辛いだけじゃなく鰹の風味がどっしり効いている。

美味い。


一枚食べおわると亭主がすかさず二枚目を持って来る。

「おかわりなんかゆうてへんで」
と言わんばかりのセコ関西人丸出しの間抜け顔に
「一人前で二枚です」・・・らしい。

それを二回に分けてゆがいて出す。
のびない様に、見飽きない様に。。。

蕎麦は蕎麦らしく人間は人間らしく扱ってくれるのだ。
これに葛羊羹がついて千円札で釣りが来る、当節得難い店だ。

伊那を抜けたら給油・・・のつもりが止まり損ねてガソリン警告灯もつく始末。
権兵衛峠トンネルを前に、

「まあこの先はおおむね下りだから何とかナルダロー」

と地球の引力までアテにしだした「馬鹿頭」。

二年振りの


「木曽へようこそ」



の看板。うれしくなる。


開田高原 御嶽 


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そしてようやくのことで地蔵トンネルを抜けて開田高原

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御嶽

偉容は神々しく頭上に太陽を頂いている。

雲一つ掛からずはっきりそのシルエットをみせている。
二年前の自分があれほど焦がれたのに全容は見れなんだ。
なにか拍子が抜けてしばらくへたり込んだ。

そのありさま、

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なんとなく、古代の人が御嶽を神と崇めただろうことが素直に頷けた。

今日の走行は約300km。

高速なしのほとんど山岳路。さすがに疲れていた。
それでもロープウエイ駅までの厳しいワインディングで御嶽を登る。

まるで修験者の様だ。


この二日間で嫌になるくらい一車線のヘアピンカーブを通ってきた。

少しリアブレーキをあてながら、肩の力を抜いてリーンアウトで淡々とこなしていく。
速さは求めない。泊まりツーリングでは絶対に転倒できない

そこで旅が終わってしまう、
バイクライフも終わるかも知れない、
へたすればライフそのものも。。。


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二年前と同じ様に写真を撮る。

バイクはエンジンやその他が少し変わってるが、

モンスターはモンスターだ。
俺は俺で、御嶽は御嶽だった。


太陽が御嶽の山頂に落ちるのを見届ける。

こんどは露天温泉のやまゆり荘へ向かう。
露天風呂の扉を開けると間近に念願の御嶽。
湯船につかると竹垣で見えなくなるのでやっぱり仁王立ちするほかない。

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御嶽に日が沈む。
群青の空に一筋の雲が茜に染まる。

ほどなくロッジに到着。

今日はほんとに良く走った。
二代目モンスターもご苦労様。

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二泊三日だと中一日は

24時間まったく家から離れて旅を満喫できる。

センチメントも無頼もなくなり、
ただ道とバイクと自分があるのみのツーリング二日目の終了。