sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2011 信州ツーリング初日 Monster in 志賀高原

夏が終わり秋の気配がしてくる。

自分の中で

信州ツーリング ニ イキタイ」

という願望が首をもたげてくる。


あの透明で清々しい空気感、広々とした空・・・


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と言う訳で今年で三回目の信州ツーリング。

開田高原
ビーナスライン
と毎年すこしづつ足を伸ばし今年は

志賀草津高原道路

前の週に大車輪で仕事を片付けるが色々あって日程がなかなか定まらない。
ともかくも宿だけとって相変わらずの行き当たりばったりの出たとこ勝負の気まま旅が始まった。

ツーリング画像は下のリンクにまとめてあります。

クダクダしい文章が面倒ならば、こちらはすっ飛ばしてリンク先のみご覧下さい。
むろん両方とも楽しんで頂ければBlog主としてこれに勝る悦びはありません。



2011_志賀高原


空中の三分頭
(くうちゅう の さんぶあたま)


という言葉が有る。
昔の飛行機乗りが使ったものだが

空中では(飛行機の操縦に手一杯で)十のうち三くらいしか頭が回らない

という意味だ。

単車乗りも良く似たもので、走っていると両手両足は大忙しだ。
四輪と違ってちっぽけで不安定で雨ざらしだ。
天候や周囲の交通状況や路面に常に気を払わないといけない。

だから、たとえば単純な燃費の暗算が、走りながらではもう出来ない。
その上、標識は見落とすし道は間違うしで、所要時間の見通しはかなり適当だ。
普段からボンヤリだから、三分とは言わないまでも五分くらいしか頭は働かない。

そのくせ気持ちだけはいいものだから脳内は始終バラ色で、
何かと言うと、すぐに情に棹さして流されてしまう。
だから

「単車乗りの馬鹿頭」


自分などは、言うなればそんな所だと思っている。

高速走行


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いつもながら大山崎ICから高速に乗った。

こんな馬鹿頭でも三年目になると少しは考える。
高速道路の所要時間は出す速度よりも休憩の回数と時間に大きく左右される、
とハタと気付く。
今年からはなるべくPAよりもSAに入り、休憩と給油を同時にまとめることにした。

無駄を省いてスマートに行こうではないか。


走り出して2時間弱、無理せず養老SAにて早めの休憩給油。
朝食はコーヒーとホットドッグで手早く済ます。ケツを据えると長くなる。
一足先に出て行った妙齢の女性ライダーのハーレーとCB1100が様になっている。

太陽が上がり、快晴の9月。モンスターはプラグを交換してすこぶる快調。
気分このうえなくよろしく恵那山トンネルを抜ければ正面に南アルプス
定番の

「1000のバイオリン」


先ほど言った様に「馬鹿頭」だから歌詞が出てこない、
そこは適当にごまかしてたら途中から「わーわー」に変わる。
ナニBLUEHEARTSならなんでもいいのだ。

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右手に南アルプス連峰が中央道に並行して一列に居並ぶ。
まるで信濃路への案内役の様に自分とモンスターを向かえている。

この辺りで今年からナビとして装着したiPhone

「熱」

アラートが出た!
まだ一時間ほどしか走らないが、街中と同じ症状がやっぱり出た。
高速なら風で冷却出来ると思っていたが、

「チキンな単車乗り」

の生み出す程度の風速ではチトぬるすぎたか?

iPhone様は

「すぐに冷やして頂きたい」

とおっしゃっている。
有能な電脳秘書たるiPhone様に倒れられてはこの先が心細い。
いささかうろたえながらクールダウンのためSAに飛び込んだ。


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駒ヶ岳SAに停めたモンスターのタンクに金色の甲虫がとまる。
カナブンだろうか、ここはコガネムシということにしておけばなかなかに良い幸先だ。

隣のスペースに小さなスクーターが入って来た。
200だろうか?これで高速を大型トレーラーなどと対等に走るのには恐れ入る。
スクーターは便利なんだろうが、「旅の風情」にはなんだか物足らない気もする。
そうこうしている内にiPhone様の熱中症も治まったようだ。

岡谷JCTを越えて長野道に入る。ここからは自分にとっては未踏の道となる。
天気はもうどんどんと良くなり今度は左手に北アルプスを見ながら走る。
通り過ぎてしまうのがもったいなくなってきて。。。

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。。。プラッとパーキングに入った。
ガソリンもOK、疲れてもいないし、腹も減らない喉も乾いていない、トイレも大丈夫だ。
iPhone様は、もう懐中にいれたままだ。
何もする事は無い、写真を撮って、ただぼんやり景色を眺めた。
誰だ「無駄なくスマートに行こう」なんて言ってたのは?

理由はただこの目がきれいな景色を望んでいたから、でいいじゃないか。

「旅の一服」

こういう時にすることが無い、
煙草を吸えない不便な身体になってしまったのだ。
こんどからHOPEの一箱くらいはポケットに突っ込んでいくか・・・。

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千曲川を見下ろす姨捨SA到着。
いささか物騒な名前の場所だ。
夜にはあまり立ち寄りたくない気もする。

ここまで約450km。
5時間ほどの高速走行の燃費は望外に良く30km/lに迫るほどだ。

地図と首っ引きでここからのルートを考える。
先ほど熱で白目をむいたiPhone様に再度登場願っておよその所要時間と距離を検討する。
検索やルーティングはお手の物だ。バイクNAVIとしてはややひ弱なのは仕方ない。

何事も「予定は未定」に陥りがちな自分には心強い。

ここでついでに腹に何か入れておく事にする。
ご当地グルメと流行のスイーツ・・・
そんなものはこの面倒くさがりのソロライダーにはもったいない。
またもや

ホットドッグとコーヒーの「ハリースタイル」(勿論あのダーティ・ハリーだ)

ムシャムシャやりながらマグナム44ならぬモンスターをぶっ放す。
笑いたきゃ笑え。Make my day.



I'm in 信州


信州中野で退屈な高速道路をおりて志賀高原を目指す。
高速道路はいくら景色が良くてもいまひとつ別世界を眺めている様な疎外感がある。
その点、一般道は

今走るこの道が、目指すあの山々に直接繋がっている

と思えるそこが決定的に違う、心情的に。

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眼前に広々とひろがる景色、

雄大な山々、高い空、白い雲。澄んだ空気。

来た、来た、これが信州だ。

「I'm in 信州」


俺は信州に来たゾ!と傍らの鼻垂れ小僧の肩をつかんで揺さぶって叫びたいほど。
胸一杯の高揚感がこの時やってきた。

「馬鹿頭」だけに無闇に情緒方面だけが発達して始末が悪い。

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志賀高原

学生時代スキーで来た事はある。ある筈だが何の記憶もないので感慨もない。
一晩中、夜行バスに揺られ、朝着いたら一面の雪景色。
一日中滑り倒してホテルに泊まって土産屋に繰り出して部屋で飲んで騒いで
数日後にはまた夜行バスで帰る・・・

あれは「リゾート 、レジャー」であって「旅」とは言えないのかもしれない。



今は真夏の志賀高原
天気は文句なく快晴で大阪のベタつく蒸し暑さからは信じられないほどの爽やかさ。
涼風がメッシュジャケットをつき通して、体中の毛穴という毛穴から塵芥をすべて清めてくれそうだ。

展望台にて信州の山並みを一望。
空の青さが尋常ではない。

蒼穹

という言葉にふさわしい。

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ここにいたって「馬鹿頭」は極まった。

今や単車乗りの脳は至福のお花畑だ。

こうやってバイクをおりてカメラで撮った画像だけを眺めるとバスの観光客のそれとなんら変わりはない。
ただ違うのは、振り返る山々には

自らが登り、自らが下り、して来たつづら折の道が続いていることだ。

コーナーのひとつひとつを、
体を左に振り、右に振りし、シフトペダルをかき上げて通ってきた。

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ソロツーリングでは

「自分一人で全てを決める」


うまくゆかなくても他人のせいに出来ない。
他人の通った道やお奨めルートをそのまま辿ってちゃ味気ない。

暑さ寒さ、風雨にさらされ、一日に何百キロも駆け抜けて、
2000mもの高い山を一またぎする。
常に命懸けとまではいかないが、ちょっとしたことで
「死」はすぐさま隣にやってくる。これは大げさでもなんでもない。

ショットのウィスキーをストレートで一気にあおるような、
そんなヒリヒリとした現実感と、
少し遅れて胸に突き上がってくる芳醇とした達成感

・・・と、ここまで読んで鼻でセセら笑ったアナタは「馬鹿な単車乗り」じゃないのかもしれない。

馬鹿と単車乗りにつける薬は無いから、この先も当blogはこんな調子だ。


「単車乗り」ならきっと共感できるはずだ。
「呑ん兵衛」ならなおさらだ。
そう信じてる。

湯釜


少し走ると白根山の噴火口に出来た「湯釜」というカルデラ湖に着く。
下の駐車場にバイクを停めて徒歩で15分程の坂。
登るか登らぬかのうちに息が上がる。
日頃の運動不足か、かれこれ6,7時間バイクで走って来た疲労からか、それともトシか。

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登り切るとこの世のものではないような光景に息をのむ。

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絵に描いた様な水色の湖面がぽっかり開いている。

まわりの山肌は白茶けて木々はなく、なにか生気の感じられない、時間が止まった様な世界。
眼下の雲や山並みに空はいよいよ蒼く、あの世の入口の様にも思える。

湖底から噴出する硫黄が混じる酸性の強い湖水は、嘘か真か生き物の体をも溶かすという。

この火口湖が出現したのは明治。

噴火は太古の昔の話ではない。

数年前から噴火の兆しを見せ、火口湖より500m以内に一般人は入れない。
坂の途中の桁外れに分厚いコンクリート屋根の待避所がそれを物々しく語っている。

いささか神妙な面持ちで駐車場に戻るとなぜか数人の女性が軽いランニングをしている。
その出立ちと極端に細い体つきで本格的なアスリートの高地トレーニングと気付いた。

標高 2,161 m


とあるから、さきほどの
軽い上り道でも息が切れたのは

高度が高く空気が薄い

せいだったのかもしれない・・・
と自らの齢の事は棚に上げてしまった。

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しかし走り出せばこんな天空の道でもモンスターのエンジン
には特段のパワーダウンを感じない。
これもインジェクションのおかげだろうか。
神経質だったキャブを少し懐かしむ。

さっき譲ったカワサキの一団に追いついた。
一人だけが今度はお先にどうぞとハンドサイン。

Thank you!

お互いマイペースで行こうやとサムアップ。

こんな奇絶な景色はそう見れるものではない。
群れから離れて一人ゆっくり行くのも見識。

少し走っていくと腐ったタマゴみたいな臭いがする。
ゴロゴロとした岩場、ここが

「殺生河原」

というその名も殺伐とした場所。

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写真を撮ろうと道端にバイクを寄せるが、硫黄ガスの臭気に鼻がもげそうだ。
ふと見ると

「有毒ガス危険 駐停車禁止」

の立て看板。

ガスの噴気がそこここから立ち上がっている。

「殺生河原」。。。

シャレコウベがゴロゴロし、降り立ったカラスがバタバタ死んでいく・・・
まるで「カムイ外伝」に出てきそうなシーンを勝手に想像し、そそくさと退散する。

気温14度は、もはや肌寒い。

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志賀高原草津道路

なにか

天空の荒ぶる神の棲み処、


人が近寄っては行けない場所に近寄ってしまった、
そんな道だった。


夕陽の露天風呂



草津の手前で引き返し、宿で荷を下ろしたら少し離れた露天の温泉へと向かう。
道に迷って途中のなんてことのない道端にモンスターを停め、しばしiPhone様で検索。
眼前に横一列に広がる飛騨の山々

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少し離れた所で農家のおじさんとおばさんが畑仕事をしている。
二人のゆっくりした会話が風に乗って途切れ途切れに耳に届く。
羽虫が飛び交う。

ここがまるで自分の家のつい裏庭の様な錯覚にとらわれる。
信州に来るとなぜかかならず抱く帰郷感覚
自分のご先祖様はこの辺の出なのかもしれない。

陽が落ちて行くのをずっと眺めていた。

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すぐ近くだった露天風呂に入ると貸し切り状態。
禁断のカメラ持込みを敢行した。
夕暮れの露天風呂を独り占めすればとってもゼイタクな気分が満喫・・・
なんてのはTVのグルメ旅行番組の見過ぎだ。

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開放感と寂寥感。

疲労と満足と絶景と孤独とめまいと心地よさがないまぜになって脳がとろけそうになる。
エエ歳して家族や仕事を何百キロもかなたに置き去って、こんなところまで一人で単車でやって来て風呂につかっている・・・なんてぇ酔狂だ。社会のハミダシモノだ・・・
湯船で苦笑しつつ大声で歌う、今日は全編BLUEHEARTSできめる。

「はみだしもの達の
遠い夏の伝説が 
廃車置き場で 錆びついてら・・・
灰色の夜明けを
ただ黙って駆け抜けて 
あなたに会いに 行けたらなあ・・・」 
 
"Too Macn Pain" THE BLUEHEARTS

男風呂は確かにこのときは自分一人だけだったが、
隣の女風呂に誰かいてこの下手な歌を聴いて笑いをかみ殺してた、、かどうかはわからない・・・

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風呂を出ると秋の虫が、りいりい鳴いている。
真っ暗な夜の田舎道をパルパルと乾いたエンジンの音を響かせて走る。
食料を買いこみに入ったコンビニのレジで色白の美しい娘と今日の最後の会話を交わす。

「温めますか?」
「いや、結構です」

コンビニ袋をミラーにひっかけ、夜の冷気の中をバイクで宿に帰る。

昨年に比べて高速、山岳路ともに走った距離も時間も増えた筈だが格段に疲労は少ない
首を治してくれた整体のコモリ先生に感謝。
400kmかなたから手を合わす。
家族に無事を伝えるメールを、時折あいの手をいれてくれたフォロワさん達にもオツアリをリプライ。

明日のルーティングもそこそこに軽く一杯。
今夜はビールよりもウィスキーの気分。

濃厚な一日は、濃厚な酒で溶きほぐすに限る


宿の自販機で缶のハイボールを買って飲んだら薄くてネズミの小便みたいだ。
これでは中学生向きだ。
今度からポケット瓶を荷物にしのばせてこよう。

なぜかヨレヨレのブーツの写真をたわむれに撮ったりしつつ睡眠。

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信州ツーリングの一日目、終了。