そして昨年の初秋、クエロ20がやってきた。ヤア!ヤア!ヤア!
ああ、小さいな、が第一印象の実物は我が眼にはしかしなかなかの質感に映った。革調のグリップやサドル、真鍮製のベル、あえてダウンチューブに配されたシフトレバーなどなど、この辺り、70年代の国産サイクリング車に乗っていたオールドボーイのハートにはグっとくるのである。
カラーは地味目のビターブラウンにしたが、小さな20インチタイヤにそんな光り物のパーツを付けてこまっしゃくれている様子は、なんだか七五三の晴れ着姿の孫娘を見るようだ。つい目を細めてしまう。
目を細めてばかりいないで跨ってみよう。
少し取り回すだけで前の14インチよりも随分軽量なことがわかる。自転車屋さんのオネエちゃんに合わせて貰ったサドルポジションは内心チト高いナと思ったものの、そこは平静を装い、さっそーーうと乗り出す。
おお、これは良い。いい、いいぞう。
踏めばスイスイーッと出て、一糸乱れずビシーっと走る。ペダルを踏めばリュウリュウと音を立ててスピードが乗る。クランクやホイルなど各回転部分の精度、真円度がいかにも高そうな感じだ。何より、こんな小娘みたいな自転車なのに駆動感というか疾走感というかそんな手応えをしっかりと備えている事に舌を巻いた。若かりし頃に乗っていたサイクリング車の硬質な乗り味が身体に蘇る。
イヤッフー!ハイヨーシルバー!
とご機嫌だったのも束の間、止まると足がつかずにとたんにアタフタ。さらにうっかり跨いで降りようとして膝頭をトップチューブにしたたかぶつける有様だ。高圧タイヤは路面の段差を正直に伝えてくる。前傾も強いのでその衝撃のたびにフラつく始末。誰だ「気安い」なんて言ったのは。慣れないうちは無理は禁物、サドル高を足付き重視にしておくが利口だろう。
自転車屋の店先までスゴスゴとって返して
「あのう、シートを一番下まで下げて下さい」と恥を忍んでオネエチャンに頼む。文字通り下の下の下、である。
「小んまいし、誰でも乗れるやろかいなブリヂストンやねんから」
などとタカをくくっていたが、どうしてどうして。
この小娘、なかなか手強い。
何の脈絡もなく、ヒラリー・ハーンを想い起こしたりして。