sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

ショップで肩を押されたが

あちこち脱線しながらも、さてようやく新しい自転車を買う話になる。ただし、今回でもまだ購入には至らない。ここまで来たら気長にお付き合いをお願いするほかないのである。

 まともな自転車を買うのは久しぶりのウラシマ状態だ。実際に跨ったりお店の人に話を聞いたりしてみたい。そう思って近くの量販店ショッピングモールなどを回ったものの、目当ての小径車はほとんど折畳み式である。あのうち何台が実際に折畳まれることになるのか知りたい気もするが、余計なお世話というものか。

ならばと自転車専門ショップの高い敷居をおそるおそるまたいでみる、と今度はロードレーサータイプが所狭しと並べてある。各々の値札にはあらかじめ心構えをしておいたお陰で平静を保ったが、その数字の大小の差の根拠となると自分にはさっぱり理解が及ばない。店員は当方をちろりと見るだけでおよそ関心を示さない。宝石店に闖入した銀バエになったかの様な心持ちだ。プゥ〜ンとばかりにすぐ外に出る。

これを何度か繰り返す。なかに一軒だけ人間扱いしてくれるお店があった。
「ミニベロですね、こっちらです。。。で、奥様用ですか?」
といきなり聞かれて面食らう。
「ヨメは3年前に出て行きました。家族はミドリガメと金魚だけです」
そんな嘘を言ってもしょうがない。

展示されていたのはスポーティなルックスでタイヤだけ小さい。ウム、これぞ私が思い描いてた通りのミニベロであるぞよ。しかもとても洗練されている。アールヌーボー調のメーカーロゴ、金属製バッジ、フレームやシートなどの色彩が素晴らしい。
「もうヤバイっス、半端ないっス」
ロンゲのイケメン店員さんも豊かな表現力を駆使して同意してくれる。

その後、店員さんは装着されているパーツなども熱く語ってくれる。高性能パーツなどは我が身には年寄り豚の冷や真珠、なのでウンチクの一々をはあはあと聞き流しつつ、ちょっとまたがらせてもらう。ドロップハンドルなのでやはり相当な前傾を強いられる。ご自慢の革シートとやらも当然ハードな尻あたりだ。
「ううぬ、これはキビシいのう」
五十路ビギナーの腰痛持ちは不安を抱かざるをえない。
「ま、慣れますけどねスグ」店員さんは軽く言う。

同じメイカーでもう少しカジュアルなフラットバーハンドルのものもある。前傾は浅くなりセンターチューブも低くて乗りやすい。しかし色調がさらにシックでキュートで、明らかにご婦人向けと察せられる。

「娘さんに取られるかも、ッスね~ww」店員さんは笑う。娘、いませんが。

これは何となく肩を押されてる、と感じた。両肩を、それも前から。御洒落な自転車は御洒落な人にこそ乗って欲しい。ま、そういうことだろう。

かといって今更ファッションだけを決めて必死に乗るのは自分には受け容れがたい。普段はジャージ姿でバイクに乗る時(だけ)ヘルスエンジェルスあるいは英国紳士に変身するオヤジライダーみたいなものである。

もっとも十年以上もそのスタイルで押し通してきた古強者なら自然とそれも板についてくる。あるいはセンスのある女性や若い人なら様にもなろう。そこいらのオッサンが付け焼き刃でやるのが間違いなのだ。たいがいは滑稽なポンチ絵になって痛々しい。これは前にも言ったと思う。

そう思うとあの自転車屋さんの気持ちもわからないではない。というか、よくぞ止めてくれた、とすら思えてきた。実にその危ないところだった。そこいらのオッサンである自分は胸をなでおろした。

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