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万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

ブルーのジャンパー その2

これは自分が若かりし頃、英国でひと月ほど過ごした折にロンドンの荘厳極まりないバーバリー本店で買い求めたものだ。出どころとしてはこれ以上の本家本元は考えられまい。

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バーバリーロンドンでそのジャンパーを試着した自分の相手をしてくれたのはマーク・レスターのその後、といった感じの金髪の男性店員で、同行の女子共は一発でトロンとした目になった。自分は何よりそのジャンパーの控えめな出立ちが気にいったが、プライスタグを見てひるんでいた。

するとその哀愁のマーク・レスター仮称)が

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「このジャケットはとても綺麗なブルーで、サイズもよく合っている。買うのは良い判断だ」

とやや赤味のさした頬で囁くような声で言うのである。

「イイじゃなあい」

「買いなさいよお」

同行の女子連中もトロンとした目のままで後押しする。

ここで買わなかったら

「ああらイクジがないのねえ」と一生言われそうな勢いである。

手持ちのT/C(ポンド、当時)の残額がいささか心もとなかったので

「日本円、ダイジョブカ?」

と聞いたら

「勿論。ここはロンドンのバーバリーである。全世界の通貨が使える」

と片方の眉と口角を上げて澄ましている。

滞在中ずっと懐に秘めていた日本国銀行券壱萬円札をここぞとばかりに数枚手渡した。マークは聖徳太子像(当時)をしげしげという感じで眺めている。何か太子にまつわる史実を言ってやろうとしたが咄嗟にはからっきし出ない。

「和を以って貴しとなす」

を英語でどう言えばいいか、などと考えている内に会計は終わった。

マークに見送られつつ店の外に出ると同行の女子共が

「い〜い買い物したわよね〜え」

「ね〜え」

とトロンとした目のままで羨ましがる。脳内には"メロディ・フェア"が鳴り響いているに違いない。マーク・レスター効果恐るべしである。

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だからこのジャンパーは三陽商会が版権を得てライセンス生産していた日本のバーバリー製品よりもむしろ由緒は正しいかもしれない。そんなことを言ってもかえって嫌味なだけだから誰にも言わないが。