断捨離途中、奥の方からブルーのジャンパーが出てきた。
実はバーバリー製だったりする。
胸元にこれ見よがしのロゴマークの刺繍など何もない。裏地もよくある派手なベージュのアレではなく、濃紺に赤とグレーのラインのチェック。その裏地はウールで暖かく、腕はサテン地で大変着心地が良い。学生の頃のイギリス土産だからもう35年以上前のものになる。
三年どころかもう何十年も着ていない。断捨離ルールにのっとれば処分対象に仕分けられてしまう老兵だ。
コイツをなぜ着なくなったかについては少し訳がある。
ずいぶん以前のことだ。呑みにいったある日、友人が自分の姿を見るなり
「プギャー、何そのジャンパー?!工務店のオッサンやんけぇー」
と嘲り笑った。
そのときに着ていたのがこのジャンパーである。確かに、濃いめのサックスブルーなので飲み屋の様な薄暗い所では作業服にも見える。冴えた青味や襟元からのぞく上品なウールのチェックの裏地などを気付けと言っても無理がある。もとより黙っていてもモノの値打ちを見抜ける類の趣味人ではない。
以来その服を着ていくと、
「来ィーよった!工務店のオッサンがァー」
と嗤われるようになった。
周りの人間もこぞって
「便所の修理ですか?」
「あ、工事の人は裏回って」
などと言ってからかう。
大阪というのはそうした土地柄なのである。
しかし自分はちょっと鼻白んだ。
「作業服ちゃうぞ一応バーバリーやぞ」
と言って脱いで見せてもお馴染みのベージュのバーバリーカラーではないので一向に押しが効かない。
「にせモンちゃうンかソッレー!!」
と酒焼けしたダミ声でカサにかかってツッコまれる始末である。
商店街の店先のワゴンの上の怪しげな処分品ならともかく、このジャンパーはむろん正真正銘の歴とした本物である。
なにしろ購入した場所が尋常ではない・・・