モンスターがいなくなった。
ガレージには小さなスクーター、ヤマハ・ビーノがポツンと残されている。その様子が、空っぽになったトラの檻の前で不思議そうに首をひねっているリスザルみたいに見えて可笑しい。
笑ってばかりもいられない。
その間に決めておかねばならないことがある。
覚悟、である。
モンスター始動不能の原因で最良と最悪のケースを想定してみる。最良のケースは小さなパーツや配線などのマイナートラブルでアッサリ治ってしまうことだ。この可能性だってもちろんある。けして甘い夢を見てる訳ではない。
最悪の場合はコンピューター。頭の中で大写しになったMr.メカノ・メカニックがこう言う…
「部品代だけで○十万…」
メカ氏が続ける。
「ちょっと現実的な金額じゃなくなってくるんで」
「モンスターが治るためならね、金に糸目はつけませんよ私は」
なんてカッコよくもお大尽なセリフはとても吐けない。 自分はコロナ禍にオロオロ歩く零細自営のオヤジである。では"現実を見据えて"となった場合どうするか。
であれば、もはや是非もない。
モンスターは"廃車置場で錆びつく”ことになる。
これは相当ツライ決断だ。
頭の中でToo much painと鳴っている。
マーシーが唄っている。
人っ子一人いない夜 オートバイが走っていく
シートの上はカラッポで 誰にもあやつられちゃいない
心を隠してきたんだ 心を隠してきたんだ
オートバイが走っていく ただもう走っていくんだ
オートバイ/真島昌利