モンスター始動セズ、
の報を受けたショップのメカはすぐに駆けつけてくれた。
セルを回す、が掛からない、そぶりもない。を実演し再度、症状や近況などを伝える。
メカニック氏は冷静に、
「調べないとなんともですが、やはり電気系。回路かリレーか、、」
「電気系、ですね」
「あと、コンピューターの可能性もあります」
「…コンピューター…」
「だとすると、ちょっとオオゴトになります」
「オオゴト…」
「イモビライザーの関係でメーター周りとセット全交換なんで」
「全交換…」
オウム返しするほかない自分である。
「ええ、新品セットで○十万…」
「…」
「中古パーツも意外と高くって…それも程度のイイのがあればですが…」
「…」
もはやオウム返しすら出来ない自分である。
「それと、今コロナでイタリアの物流が壊滅状態でして…」
どうも”イタリア”という枕詞がつくと”壊滅状態”で結ばれるのが当り前の様に思えてくる。
傍の無言のままうずくまっているモンスターを見やる。
「前回乗った時は、調子良かったんだけどなぁ…」
絞り出すように言ってみる。
「や、イキナリくるのが電子部品なんで」
「…」
「…というか、"ドカ"で今まで何事もなかったのがむしろ不思議なくらいです」
「…」
「何年式でしたっけ?」
「初年度登録は確か2004年…今年で…18年目かぁ」
「う〜ん…」
今度はメカニック氏がおし黙ってしまった。
こちらも言葉が出ない。もとよりモンスターは沈黙したままだ。
無言劇のなか、悲観的状況が露わになってくる。
「まっ、とりあえず持って帰って調べてみます、が、時間はください」
「うう、何卒ヨロシク頼みます」
とコウベを垂れつつ運ばれて行くモンスターの後ろ姿を見送るほかない。
あれが今生の別れになるのかもしれない…
モンスターがいなくなったガレージでそう考えた。
振り返ると昨年はほとんど乗っていない。
コロナ禍もあったし、右目の病気ということもある。
そろそろ潮時なのか…
乗り手の零落ぶりを察してモンスターの方から自ら命脈を絶ったのだろうか。
モンスターで始まった2回目のリターン・バイクライフである。
モンスターを失えばそれが我がバイクライフの終焉となるのかもしれない。
だとすれば…
言いようもないほどの寂しさがこみ上げてきた…