sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

「モラトリアムの彼岸から」デボワチーヌD510 エピローグ

今回、デボワチーヌD510を作っている間中いつも脳裏に浮かんでいたのは、このキットを買って作り始めた二十歳前後の学生時代の"とある風景"だった。

それはいつも決まって学校の円い図書館の前の中庭で、授業が終わるとピロティのスロープを降りて掲示板を見てからそこへと抜ける。次の授業のため坂を登ってここへやってくる学生たちと出会う場所でもある。

あのころの自分たちといえば、ここでなにをするでもなく、ただ所在無く時を過ごすことが多かった。自分の前には"時間"が無限に横たわっている様な気がしていた…

f:id:sigdesig:20210223110054j:plain

レンガの壁にもたれ煙草を吸っている革ジャン姿はディランが好きなスナガワだ…

いつも怒った様な顔のキタノが口をとがらせて足早に過ぎていく…

大きなクスノキの木漏れ日の中、色白のスミちゃんが微笑みながら手招きしている…

あの春の陽射しの様な気怠い暖かさに包まれたモラトリアムが無性に懐かしい。 

f:id:sigdesig:20210223104536j:plain
今、眼前にあるデボワチーヌD510はあの時に完成していてもおかしくはなかった。

デボワチーヌを作っている間は、いつまでもあの頃の光景が見続けられる、そんな気がした。製作記事が妙に低徊して長かったのは、完成を先に延ばしたい気持ちがどこかにあったからかもしれない。

今の自分は知っている、俺の時間は無限になどないのだ、と。

若い自分からのロングパスをなんとか継ないでゴールへ蹴り込んだ。そうして、からくも還暦前に完成させることが出来た。体力も気力も何もかも若い頃には及ばぬ歳老いた自分だが、いくばくかの"決断"の力だけは備えられたようだ。

そう思えば感慨もひとしおである。  

f:id:sigdesig:20210223110520j:plain





 

 

にほんブログ村 その他趣味ブログ 模型へ
にほんブログ村