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万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

D510-12「デボワチーヌと英国式カラスグチ」エレール1/72製作記

[無臭筆塗り備忘録]:カラスグチコンパス

製図の世界では精密な円を描く為に「スプリングコンパス」というものが存在するという。通常のコンパスと違い、スプリングで支点にテンションが掛かっており容易にブレない仕組みだ。両脚の間のネジで半径の微調整がきく。プロ用だから精度は極めて高い。ただしそれなりにお値段の方も張って普通に数千円、良いものなら"萬"近くもする。

 

ウチダ KD型製図器 SE 穂替スプリングコンパス 烏口 1-730-7311

ウチダ KD型製図器 SE 穂替スプリングコンパス 烏口 1-730-7311

プラモに描く国籍マークの一番小さな丸の為だけに買う、となるとこれはもう「ゼイタクは敵だ!」と言わざるをえない。湯水のごとく金銭を投入できる”プラモ殿上人”ならともかく、羅生門あたりにうごめく”下人モデラー”の工房主にはそんな大それたことはとてもおぼつかない。

仕方なく洛外に出て朱雀大路、ではなくってヤフオクやメルカリなどをウロついてみる。するとカラスグチコンパスは意外な格安価格で出ていた。例の"ほぼ萬"クラスが中古送料込みで千円以下、となれば購入をためらう理由は見つからない。

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手に入れたのは10cmほどの小型のもの。ノスタルジックな見た目のこれは英国式らしい。両脚が一体でスプリング状になっている。手持ちのものと比べると先端が究極に細く、重みがあって至高の精度を持つ一品である。中古ゆえ少々錆びは出ていたがこれが500円そこそことは…下人モデラーとしてはなんとなく追い剥ぎをした気分さえしてくる。

考えてみればパソコンの普及により近年のプロの製図界ではCADが当たり前となっている。すでに80年代にミリペンが登場して以降でも円形のテンプレートがあれば事足りていた。現在ではプロ向けのカラスグチコンパスの需要はほぼ皆無に等しいのだろう。そんな絶滅危惧種のスプリングコンパス-カラスグチ-ニッポニアニッポンである。試しに万年筆用のインクをつけて戯れに円など描いてみたら…

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「おおう!」と思わず唸り声が口からついて出た。線の細さや精度が凄さまじい。感嘆することしばし、なんだか意味もなくこれを使って丸を描きたくてウズウズしてきた。優れた道具とは往往にしてそうしたものなのである。

しかるに自分の用途は筆塗りプラモデルの丸描きだからオーベースペックもいいところだ。

場末の賭場が元剣術指南の凄腕浪人を用心棒に雇うようなものか…

 

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