Smoke in the 坪庭
べっべっべ〜ん
べっべっべべ〜ん
べっべっべ〜ん、べっべ〜ん
70年代を高校で過ごした人なら放課後の軽音楽部の部室から繰り返し聞こえるエレキギターのリフ、といえば誰もがわかる、あのアレ。
そうDeep Purpleの"Smoke on the water"である。
今回の「どこにも出れんウィーク」で暇を持て余したブログ主が坪庭で燻製をすることを思いついた顛末に、”Smoke in the 坪庭"という相変わらず馬鹿なお題をつけたのだ。
スモーク(燻製)は何度か経験はある。いずれも大型のスモーカーやダンボールなどを使ってアウトドアのはなしだから煙が長時間にわたって出てもお構いなしだった。自分のようなせせこましい街中の狭小な家に住む人間がやるとなると「ご近所さん」の問題が出てくる。
ベランダや庭でBBQやサンマを焼くなら食材の臭いで何をやってるかはそれと知れるから「BBQか、近所迷惑だなあ」程度で済む。しかし燻製はそうはいかない。「桜チップの華やかな香り」などと思っているのは当人だけで、その実ただの”木の燃えた臭い”に他ならない。何も知らない隣人にしてみれば漂うキナ臭い煙に「スワ近所で火事か?!」となるのは必定である。良識のある市民ならそんな世間騒がせな真似はしない。
別に燻製くらい大げさな仕掛けでなくとも中華鍋と焼き網と蓋があれば台所でだって出来るのだが、気をつけないと”木の燃えた臭い”が鍋にも蓋にも台所にも染み付いてしまう。良識のある家庭人ならそんな軽挙妄動はしない。
なんとかして誰にも迷惑を掛けずに家で手軽に燻製ができる手立てはないものか……と探せば家庭用のスモーカーはあるにはあるようで……
しかしこんなのわざわざ高い金を出して買ってひけらかすのは自分の美学と財布の両者が厳として許さない。はて困った。
メスティン
「自宅 燻製」というワードでネット検索の旅に出る。するとその最果ての地で「メスティン」というクッカーに行き当たる。メスティンとは四角いアルミのコッヘル(クッカー)の一種でスウェーデン軍御用達の飯盒だ(…しかしスウェーデン人はコメを炊くのだろうか?)
実は自分も一つ持っている。
別段取り立ててスゴイものというわけでもなく、まあ取手がついたアルミの弁当箱程度のシロモノだ。むろん値段の高いオリジナルではなく中華製で、たしか1,000円もしなかった様に思う。四角いのでパッキングし易いというメリットはある。そういえば以前オプティマスの8Rを持っていたがあれも箱状になっていた。瑞典人はなにかパッキングに特別のこだわりでもあるのだろうか。
コヤツはしかしなかなかに火力が安定せず、取り扱いが難儀な曲者ストーブであった。
赤ガスも使えるので阪神大震災の時に世話になったが、それが最後のご奉公となった。
それはともかく、メスティン(ぱちもん)を引っ張り出してくる。これも古くから持っているエスビットのポケットストーブと組み合わせて避難袋に忍ばせてあった。
蓋ができるのであまり煙が出ない、小さいので短時間の燻煙ですみ、出来上がる具材も少量、というからオヤジの"坪庭燻製"にはもってこいである。蓋のあるクッカーなら別になんでもいいようなものだが、ちょうどぴったりサイズの網が燻煙する食材を浮かすのに好都合、というわけだ。
いざ燻す
さてジェリーマウスとなってトム猫の目をかいくぐり冷蔵庫からチーズとソーセージをせしめてきた。スモークチップは事前にホームセンターで購入してある。仕事で材料を買いに行ったついで、なので不要不急の外出ではありませんよ。こういう言い訳をいちいちしなければならないのだから面倒なご時勢である。
チップは適当にばらまく。アルミホイルは焦げつき防止。そこらへんにあったナットを下にかまして網とチップの間隔をかせぐ。
チーズは溶けるので後で投入することに。おつまみ用に秘蔵しているカルパスと素焼きミックスナッツも追加してみる。
火をつけてしばらくするとイイ匂いが漂ってくる。燻煙は5分から10分、ということでコレを聴きつつ待つ。
べっべっべ〜ん、べっべっべべ〜ん、べっべっべ〜んべっべ〜ん
一曲聴き終わってご開帳。本当は途中で蓋を開けないほうがいいそうだが、、、まあいいんだよ、細けえこたあ。。ソーセージから油が落ちている。切り込みは入れなくてもいいだろう。
カルパスはこの段階ですでにカリカリだったので取り出し、チーズを投入してもう一回Smoke on the water。一曲5分半ほどだからちょうど目安にもなる。
写っていないが多少煙は上がる。上がる煙がシャクのたね。隣は何をする人ぞ。
「雅び」なはずのお茶室の坪庭でワイルドなスモーク。流れる曲は70年代ハードロック。おっさん菜箸でドラム代わりにジーンズのフトモモを叩く。。。なんたる違和感。
燻製出来上がり
べっべっべ〜ん、べっべっべべ〜ん、べっべっべ〜んべっべ〜ん、でけたでけたでけた。おー美味そーう。fire in the sky~
しばらくさましておいて煙臭さを飛ばす。
とりあえず試食してみよう、いただきまあす……うほほほ、ウマ〜イ。
ソーセージも……おう、いけるやん。コレはバーボンが欲しいぞう。バーボンないのかバーボン、バーボンを携えし者に余は一国を与えん。
試食のつもりがペロッと完食……今晩の酒のアテはどうすんだ。
ところかまわず燻製
なあに"どこにも出れん"は継続中だ。時間はたっぷりある。
……てなわけで再度、"Smoke in the 坪庭"第二弾。
今日も冷蔵庫を物色するジェリーマウス、するとチクワを発見!すかさず1本ちょろまかし、さらにゆで卵もちゃっかり用意する。
相変わらずの違和感。
日本庭園に紛れ込んだフロウシャといった趣きも否定しきれない。BGMは高田渡の「生活の柄」の方があってるかも。蓋の汚れ防止アルミホイルはメンドくさいので省略。いいんだよ洗えば。草に埋もれて寝たのです、ところかまわず寝たのです〜
チクワだ!
タマゴだ!ソーセージだ!ナッツは焦げちまったゼ。Fire in the sky~
チーズは食べ易い大きさに切り、かさ上げと断熱用にブリキの小箱をかますという小技を繰り出す。
む、ややハードなスモークとなった。ガスバーナーではちょっと火力が強すぎるのかも。次はアルコールストーブでいいか。
スモーキン バーボン
調子に乗って作ったはいいがこんなに沢山食べきれない。夕食時に家人らにお裾分け。無理やり「おいしい」と言わせて悦に入る困った道楽オヤジ、というよくある家庭風景を展開してしまう。
ネット情報では「一晩おいた方が味が馴染んでよい」ということであったが、時間が経つと酸味が勝つような気もする。理屈はともあれ、やはりその場で食った方が旨い、外で食った方が旨い。自身の体に煙の匂いが移っていてキャンプで焚き火した気分になっているのも大きい。食べ物の「味」なんて気分が半分だと思っている。なんたらグルメだの星がいくつだのという世界はどうか知らないが……
そして当然こうなる。
旨い旨い自分で作ったもんはみな旨い。ガハハハ、大満足。