sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

遥かなる信濃路

目まぐるしかった東京の一日が終わって、今日は木曽へ向かう。
ホテルのクローゼットにはファブリーズ的な消臭スプレーが備えられえていた。
これは「着た切り雀」な自分には嬉しいサービスである。
3日穿き通すチノパンに昨夜そいつをタップリ吹きかけておいたから朝から気分は爽快だ、チュンチュン。
 

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立川の駅からホテル方面に通勤客が波の様に押し寄せてくる。
平日の朝だから当たり前だ。
その波の中を1人逆らいながら歩いていると、2017年度国内総生産に全く寄与しないゴクツブシの気持ちがしてくる。
 
これまたビジネスパーソンでごった返す駅の殺伐コーヒースタンドでモーニングセット。ヒヨコの素と塩辛い肉片と食用油の浸み込んだ炭水化物、焦げた豆の上澄み液で流し込む。ま、こういう場所で出るものは日本全国変わりはない。
 

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ホームに降りてまだ秋浅い信濃路へ、8時丁度の「あずさ2号」で〜♪

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勇んで飛び乗ったら指定席は一番前の席だった。
窓は横にあるのだが、目の前は壁である。なんだか開放感がなくてツマラナイ。
スピリットオブセントルイス号のコクピットもかくやという感じだ。
(久々にわかりにくい例えが出た)
ただし隣の席は誰も乗ってこなかったから塩尻までは伸び伸びできた。
 
通路を隔てた反対側の席には若い夫婦連れ。
奥さんは1歳児と思しきを胸に抱えている。
幼な児がぐずらぬよう母親は一心にあやす。
窓側の旦那は一心に読書中で素知らぬ顔だ。
 やがて母親は疲れてか、うとうとしだした。
 
一人になったコドモがこっちをジーっと見る。
「変顔」をして相手してやるときゃっきゃと喜んで足をバタつかしている。
大方「おかーさん、おかーさん怖いよキツネザルがいるよ 」とでもいってるのだろう。
 
甲府の辺りで富士山が顔を出す。
 
昨日見た富士の裏側を今日見ている
 
どうも山頭火風から抜けきれない。
隣に誰もいないから気楽だ。
無闇に写真を撮る。オノボリサンである。
 

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列車は何処をどう走ってるのかわからない。
特急なんかだと駅は通過してしまうからなおさらだ。
わからないうちに諸共に着いてしまう。
そんな他人任せの所は楽ではあるが楽しくなかろう。
単車でジリジリひと街づつ文字通り「駒を進める旅」が好きな自分はそう思っていた。
 
しかるにここに文明の利器がある。名をスマホという。
こいつでGoogle Mapなるを表示するとたちどころに己の現在位置が分かる。
目の前の山の名前を知りたければ知れる。これがなかなか面白い。
 
バイクだとそうはいかない。「んっ?山?」でおしまいである。
その点列車は気楽である。「あれは地蔵岳かな、むほほほ」などと
車窓と自分がたどる地図を照らし合わせて子供のように楽しんだ。
 
トイレに立った時に反対側のデッキの窓から面白い形の山が見えた。
自分は首から下げてたカメラですかさずそれを撮る。
今回の旅はフットワーク重視なのでコンパクトデジカメを携えてきている。
 

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すると
「何か見えるんです?」
と声を掛けられた。振り返ると中年の女性が立っている。
「は?」
 テレビショッピングの健康器具使用後のAさん主婦(41)都内在住といった感じの女性は好奇心に目を輝かせて尋ねた。
「写真を撮ってらしたでしょう?」
「あ、はあ。いやあ山が」
「有名な山なんですか?」
「いえ、、、そういう訳では」
 
なんてことないただの山だ。
変なの、聞いて損しちゃった。
向こうはそんな顔をして戻っていった。
  

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自分は姿形や景色や色合いが面白いと思ったものにレンズをむける。
有名だったら撮って、無名だったら鼻にも掛けない、
そんな他人の価値観で動くのもつまらない。
 
「あれはマグソ岳といって、武田信玄が馬のフンを踏んでしまった言い伝えで有名な山でござる」
なんて出まかせを言えば良かっただろうか。
 しばらくすれば有名な「八ヶ岳」が姿を見せるのだけれどね。
 

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上諏訪で通路を挟んで隣側の夫婦の窓側のダンナが降りようとしている。
寝ていた子供が起きてしまってグズりだす。
スミマセンスミマセンなんてお互い謝ってる。
 
してみると、あれは他人同士だ。
であれば、女性はさぞや肩身が狭かったろう。
そんなら、自分は隣の1人席で寛いでいたんだから、あの母子と代わってあげれば良かった。まあすべて後の祭りである。
 

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自分も次の塩尻で乗り換えだ。
降り立つと、思ったよりも小さい駅で乗り換えも簡単だ。
阪急淡路駅の方がよほど込み入っていよう。
 
やはり少しひんやりとしている。深呼吸をする。空気が澄んでいる。
ああ、信州だ信州だ。俺はやっぱり信州が好きだ、と思った。
 
学生の頃、友達とグループで大阪から夜行列車に乗って白馬や野沢にスキーに出かけたものだ。あれはたしか急行「ちくま」である。
塩尻で東京からのスキー客が乗り込んで来たのをよく覚えている。
帰路ではここで釜飯弁当を買うことになっていた。あれもとびきり美味いというほどでもなかったが「旅の気分」を食っていたんだな、と思う。
 夜行のスキー列車など今では絶滅してしまった。
 
ここから木曽福島までは思ったよりも近く、特急で30分もかからない。
せっかくだからここで各駅停車に乗るのはどうだろう。
直角シート4人掛けで釜飯でも食いながらゴトーンゴトンゴトンゴトーン、
と時間を掛けて木曽谷を行く。酔狂で旅情があっていい様な気がしてきた。
予定外の事をすぐ思いついてしまうのが単車乗りのイケナイ所である。
 
早速乗換アプリで調べるが、ゴトンゴトンといっても所要時間はさほど変わらない。
その各駅停車が来るのは1時間後である。見回してもプラットホームに駅弁売りは、いない。
さていかにせん、と思案するうちに特急「しなの」がシュワっとやって来てしまった。
仕方なくそれに乗る。イケナイ計画は夢と消えた。
 
「しなの」はやたらと重心のひくい車両であった。
これは木曽谷を右に左にかわしながら高速で走る路線のロール対策だろう、
などと考察しているうちにシュワンシュワンともう木曽福島だ。
 

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アッと言う間だ。普段は列車で30分というと永遠に近い長さに思えるのだが、、、
時間感覚がずれているようだ。
長野県に入ると体内に埋め込まれた「信州のんびり回路」が作動し始めるのだ。