sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

立川の夜

武蔵小金井駅に戻る。
夕刻の駅は家路に急ぐ人たちで溢れている。
ここから「立川」はほんの数駅だ
 
駅を降りると非常に大きな街で驚く。
おまけに唐突にモノレールまで眼前に現れるから田舎者は恐れ入った。
まあ大阪にもモノレールくらいあるのだけれど、、、
 

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ホテルは駅からコンコースで歩いて5,6分の近さ。
ロビーに入ると大きな吹き抜けとシャンデリア。
このゴージャスロビーのソファで商談しているとエリートサラリーマンか
情報部員になったかの様だ。
 

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これで平日半額7,200円てホンマカイナ、布団部屋ちゃうやろな。
どころか案内された部屋は随分広い、と思ったらツインルームである。
片方のベッドには金髪ロシア美人スパイがこちらにワルサーを向けている。。。
というようなことはまさかない。
 
恐る恐る、部屋間違ってません?とフロントに問い合わせる。
単にシングル部屋が足りなかったらしい。 なので料金そのまま。
ホテル側にしてみればツイン部屋を遊ばせておくくらいなら1人客でも取った方がマシなのだろう。郊外のホテルの内情も厳しいといったところだろうか。
 
まあ幽体離脱か分身の術でも使えなければベッドが二つあった所で使い途はない。
とりあえず風呂に入った。さて腹が減った
 
夕食はコンビニでサンドイッチとポテトチップスかなんかを買ってサッポロ黒ラベルあたりで流し込むつもり、、、
だったのだが、それではどうにも「旅の気分」が物足りない。
昼飯の牛丼屋でそんな事を考えていたところである。
 
広いツインルームに一人でいるというのがどうもいけない。
傍の「空いたベッド」程、うら寂しいものはない。
シングルだとこんなことは今まで感じなかった。
 
気晴らしにどこかへ食べに出かけるとするか。
こんなに大きな街だから居酒屋の一つでもあるだろう。
本日の神出鬼没八面六臂の大活躍で足腰に疲労が相当溜まっている。
孤独のグルメよろしく歩き回るのは自重して、ここで安易に食べログを検索、
宿から歩いて5分のところにちょうど手頃な店を見つけた。
 
かように今ではネットやスマホの情報が誰でも手に入る。
自分がかって遭遇したような前世紀の遺物的ゲキマズ店は滅亡してるはずだ。
この店の評価は悪くない。
ただし、東京人の味覚の標準偏差値はわからないが、ひとつサイコロ振ってみるか。
 
ホテルを出ると夜風が風呂上がりの髪をスっと通り抜けていく。
手ブラで見知らぬ街をフラリと歩く夜もすがら。
この感覚が「旅」である。
 
大阪や名古屋など大都市ならどこにでもある様なビル街が続く。
自分は立川のことは何一つ知らない。
たしか飛行場があったかなあ、立川飛行機というメーカーもあったなあ、
九八直協のエンジンは日立か、キー94は戦争に間に合わなかったな、、くらいなもので、ほぼ無知である。
たまたま長野行き特急の停車駅だから宿泊地に選んだだけだ。
 
この街に何の関わりもない自分が歩いている
 
ちょっと山頭火風。
 
お目当ての店は難なく見つかった。
外からうかがうと店内は適度に混んでいて店の人は忙しそうだ。
カウンターは、とさらに覗くと綺麗に一列空いている。
よしよし、一人飲みには丁度頃合いな感じだ。
 
カラリと引き戸を引いてカウンターの隅っこに陣取る。
ビールを頼むと嬉しいことに黒ラベルだった。
 

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若い頃よりこの黒ラベル、苦すぎるアレも切れ過ぎるアレよりもお気に入りである。
ビールに続いてここの名物だという餃子と唐揚げとを頼む。
餃子は肉肉しくて良い。ちゃんと栄養も考えトマトも頂こう。

 

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おろしポン酢で食べる唐揚げ、これはなかなかの逸品と即座に膝を打った。
この唐揚げを出す店なら大阪でももう一度行きたい、と思うだろう。
 

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大阪大阪と威張っているが、最近の大阪の食い物事情は昔とはチト様相が違うと思う。
「食い道楽」の街では既にない。
自分は仕事の関係で梅田の「グランフロント」なるところによく行く。
最新の商業施設なのだが、ここで色んな店で食事をした印象が残念なことにおしなべて良ろしくない。
 
欧米のカフェやリストランテがそのままやって来たような内装やメニューで、
料理の盛り付けやお皿なども凝っている。当然、値段も高い。
ところが食べてみると見た目と内容の落差が激しくて驚く。
 
自分は偉そうに味を論ずるほどのグルメではないが、
ピザの上のイカが噛みきれないだとか、フライの衣の下側がベチョベチョ(おそらく冷凍チン)だとか、それはもう美味い不味い以前の問題であろう。
 
たまたま地雷店を踏んだのなら分かるが行く店行く店そんな有様だったとしたら
普通ならその一帯は「地雷原」のマークをつけて二度と寄り付かない。
ところが、件の「グランフロント」はいつも混んでいて、ネットの評判も悪くない。
 
見映えする内装や盛り付けの画像をSNSに上げてリア充だなんて言うらしいが、
見た目だけで肝心の中身、「味」が伴わない料理を高い金出して食っているのを「リアル」が「充実」していると言う不思議。
  
これが大阪の一等地の最新の食事情であると思うと「食い道楽」の街の看板もそろそろ
おろさねばならんだろう。
「安うて美味いんが当たり前や」
という大阪人の厳しい舌と財布は今は昔の物語なのか。
  
そんな事を考えながら一人で餃子とトマトと唐揚げを食べた。
黒ラベルの小ビンも丁度空いた。さて、と席を立つ。
おいしかったよ、ありがとう、なぞと店主と一言二言交わし、ノレンをかき分けて外に出る。見知らぬ街の夜はふけている。
 
少し歩きたくなった。
当てずっぽうに路地の角を曲がってみると所々に店の灯りが路地を照らしている。
モウ一軒行くかぁなどとご機嫌サン。
 
良い感じのお姐さんが立働く居酒屋がある。
カウンターはというと常連おじさんで一杯だ。
小洒落たショットバーもある。
窓から見えるマスターも小洒落ている。
コッチはなんだか話が合わなさそうだ。
 
まあ無理することもあるまいよ。
もう、足も腰もくたびれはててそう袖を引くからそのままホテルへ。
電池が切れたようにコトりと眠りに落ちていった。