sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

驟雨紀行 2

街道には「コーヒー」と書いたのぼり、

一、二本が風にはためいているきりである。

その店は一本奥に入ったところをさらに左に折れたところにあった。

どうりで今ままで見つけ出せず、通り過ぎてきた訳だと合点がいく。

道沿いだろうと勝手に思い込んでいたに過ぎないのだが。。。

 

 

 

周りには民家、と言っても隣とは随分と離れている。

砂利敷きの駐車場にバイクを停めた。
 

店構えは、想像していたよりやや素っ気ない感じだ。

やたらと外観と雰囲気にこだわってテーマパークみたいな最近の飲食店

そんなのに慣れた”ぐるなびさん”方には少々物足りなく映るかもしれない。

ともかく中にはいろう。

さきほどの「公営うどん」の効力は早くも消え失せて、寒い。
冷えた身体ごと店の扉を押し開け、奥の方の席へ向かう。

 

少し年かさのマスター、カウンターの向こうから

「バイクは寒かったでしょう。どうぞ、遠慮なくストーブの前で」

 

と、襟裳崎みたいなことをいってくれる。

素直に甘えることにした。

一旦テーブル席に落ち着けた尻を薪ストーブの前のロッキングチェアに移し替える。

足をあぶりながら見回すと店内は意外に広くログキャビン風だ。

客は、誰もいない。

奥にはライブのステージ。ギターが何本か並んでいる。

 

冷えていた体がじんわりと暖まっていく。

薪の燃える匂い。

淹れたてのコーヒーの香り。

 

どこからか静かに流れるBGM

スローなスタンダードナンバーの女性ボーカルが

この心地よい空間を満たしている。

 

いい音だ。

 

そうやってストーブのガラス越しの炎を見るともなしに見ているうちに、

身も心もとろけた。

 

 

窓の外いつのまにか降り出した雨を眺めながら、マスターや奥さんと軽く会話を交わす。

ガレージには古いランクルジムニーが何台か置いてある。


「ここにあるのは古い車と、古い音楽だけですから」

マスターはまた唄の文句のような言葉をかけてくる。

古い車と、古い音楽 か、自分はそのどちらも好きだ。
ほわりとした陽が差している。

「良い雨宿りになりました、ありがとう」

 

そういって外に出る。

冷えきったバイクのエンジンに火を入れて帰路につく。

今からなら日没までには家に帰り着けるだろう。

結局、雨には遭わずに済んだ。

隣県にいっただけで距離もたかがしれている。

そもそも最初の目的地にすら達していない。

変なKawasaki野郎に心がささくれたりもした。

今日の収穫は走りでも、うどんでも写真でもない。

 

この心地よい場所を見つけたことだろう。

満足だ、自分はとても満足だ。

だからこれが今年最高のバイクツーリングだ。