sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

驟雨紀行 1

写真でも撮ろうかと久々に腰にミラーレス一眼を下げてバイクで出掛けたものの、
小春日和との天気予報は見事に外れてどんより曇り空。
安易に国道沿いを縫っていたからでもあるが、
 そうそう都合良く、フォトジェニックな景色に巡り逢えたりはしないものである…

 

 
ルミックスのGM5にオリンパスのコンパクトズーム、
という速写ペアをここまで活かせず、ズルズル走りきた。

山間部に入り、北上するにつれてゾクリと冷え込んでもくる。

その上これは、、、雨の気配
進行方向上空の雲の色、
肌に当たる空気の匂いや湿っぽさから、それを敏感に嗅ぎとるのだ。
 
自分も峠の手前で踵を返した。
最初に決めた目的地はあっさり放棄する。
もともと目的地などはバイクに乗るための口実に過ぎないのだ。

少し手前に小ぎれいな道の駅みたいなのがあった。
少し早いがそこで温かいものでも食って暖をとろうと算段した。
 
入ってみるとそこは道の駅ではなくキャンプ場かなにかの管理棟に併設してある食堂の様だ。
だだっ広く薄暗い管理室に作業服の中年男性が2人、何をするでもなく座して雑談中。
 
食堂側にまわりこむ。
管理室よりも狭い厨房のカウンター越しに割烹着のおばさんに「天ぷらうどん」を頼む。
食堂は厨房よりもさらにせせこましく殺風景だ。
占有面積の優先順位から察するに、ここはさだめし公営の施設だなと踏んだ。

果たして
「天ぷらうどん」はこういう場所でお定まりの温かいだけが取り柄な食い物だった。
油くさい天ぷらの二つ三つの下には腑抜けた様なうどんがだらしなく漂っている。
ツユといえばカツオブシの香りは遥か遠くにさえ感じない。
ハイミーとかヤマサフレーブとか 「いの一番」を湯で溶いて醤油を垂らしただけかと思った。

薄汚れた木の瓢箪に何ヶ月も詰め替えていないだろう七味を手に取って
この野郎これでもかとばかりに振りかけて辛みだけで食べきった。
 
自分の他には客が二組。
どちらも老夫婦。
あまり言葉を交わす事もなく夫婦で静かに食事をしている。
かといって仲が悪いわけでもない。
ほとんどの会話のネタは寄り添うた何十年かで使い果したのだろう。
それはそれで、日本的な光景でもある。
 
平日の昼間だから、まあ、そんなものだ。

「外のモンスター、貴方のかしら?」と
MVアグスタに乗った綺麗な女性ライダーが声を掛けて来る、
なんてどっかの漫画の中の話だけなのだよ。
などと、真っ赤になったうどんのだしをすすっている。

席を立って外に出た。
案の定、雨が降ったようだった。
バイクのシートの露を手で払う。
 
すると前の道を一台のアズキ色のバイクが血相変えてすっ飛んで山を下っていった。
そやつが来た方向を見ると大きな雨雲がせまって来ている。
あれにぶち当たって引き返してきたのだろう。
さっき追い抜いていったあのKawasakiにちがいない。
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半時間程前、この山あいに入った直後のことだ。
 
信号で前方のクラウンに追いついた。
車線は狭いし、寒いので無理して抜く気は、無い。
そのとき後ろに付いたのがあのKawasakiだった。
 
間近に近づいて来たから抜くのかと思うと、また距離を取る。
こちらの真後ろに延々ひっつく。ミラーの死角に入ってる自覚がないのか。
どうもカンに触るライダーだ。先日のモンスターガールとは真反対だ。
 
しばらく嫌々三台で連なって走っていた。
 
工事中で片側交互通行の信号待ちにでくわした。
好機到来、
自分は左の路肩からゆっくりとそのクラウンの前にすり抜ける。
とシグナルが青に変わった。
後ろにいたバイクが右外から闇雲に突っ込んでくるのがミラーに映った。
 
クラウンだけでなくこっちも抜こうという魂胆か。
しかし遅すぎる。
そのタイミングでは、奴のライン上には自分の方が先に到達している。
三角コーンで半車線に狭まった箇所で交錯することになる。

ミラーで睨みつけながらやんわりとラインを右に寄せて、
無謀な追い越しを事前に牽制する。

ヤレヤレこんな工事中の狭い部分でリスキーな追越しをしかけるか。
抜く気なら今までいくらでも抜けるストレートがあったろう。
どうやらあまり先読みが効かない頭らしい。

こういう手合いとの同行はロクなことがない。
クラウンを十分引き離したあと、頃合いの直線部分で左に寄せて減速、
右手の人差指でチョイチョイと合図を出して先に行かせる。

案の定、挨拶もせずにブっ飛んでいった。
ゴジラみたいな形をしたアズキ色のKawasakiだった。
 
そのあと、自分は峠の手前で引き返して例の「公営天ぷらうどん」を食ったのである。
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雨にぶち当たって逃げ去るKawasakiの後ろ姿を見送る。
あいつ、やはり先読みはきかなかった様だな。。。
 
さて。
オレも逃げるか。
このままとって返すのもツマラナイ。
かといってこんな投げやりな公営うどん屋にもう一度戻って時間を潰す気になれない。
 
ここから少し南下したところにたしか一軒カフェがあったはずだ。
いつか行こうと思っていた事を思い出した。
 
そこにいくか、、、
 
雨は少し小降りになってきたようだ。。。。