sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

嫌、のち楽しい

いささか「嫌なこと」が続いた。
 
そんな昼前である。

頬杖をついて外を眺めていると、なんだか天気も良いようだ。
気晴らしにバイクで出掛けるか。
仕事? なくはないが、是が非でも今日やらなければならんことも、ない。
自らの精神の安定こそが自らのパフォーマンスを高めるのだ。

、、、と半ば無理矢理こじつけて単車のキーを手に取った。
 

 

ムシャクシャしたからバイクで飛ばしてこよう、
ということではいかんのであるからして、
落ち着いて身支度を整え、おもむろにタイヤなどをチェックする。
案の定、空気圧が下がっている。

モンスター
コ  イ ツ はエアには敏感だから、前2.6 後ろ2.9に補正。

ドッドロドロドロ ドッドロロ
とゆうっくりと通りに出た。
 
出たはいいが行き先はまだ決まっておらん
さてと、まずは北へ向かうか南へ行くか。
最初の四つ角であえて自分の瞬時の判断に任せてみる。
咄嗟に左のウインカーが出た。
 
きょうは北
 
北ならあの蕎麦屋だ、無口で若い亭主が一人きりでやっているあの店だ。
昨日はそばの当たりが良くなかったので、その口直しに丁度いい。
 
単車乗りは即決即断が肝要
綿密な計画なんざ小役人の帳面係にこそお似合いだ。
立てた尻から崩れていく。
済んでからグジグジ言うのは飲み屋の大将の自慢話で沢山だ。
後講釈なら誰でも語れる。
 
天気もいいからか平日なのにバイクをよく見かける。
国道の合流待ち、赤い新型モンスターの女性と思しきがペコリと会釈してくれた。
こちらも遅れてヒョコンと挨拶を返す。
すぐ後ろに付いてきたからしばらく一緒に走ることになる。 
 
一定の間隔をあけ、キチンと千鳥の位置をとり、しっかりとこちらのミラーに姿を映しこみながら、済まし顔で付いてくる。小柄だが肩の力は抜けていて停車発車でフラつきもない。
ミラーでチラとみるだけで、そのライダーが手慣れているか不慣れかどうかはすぐわかる。彼女は前者だ。

ライダーはライダーを知るのである。
 
もちろん、同様に後ろのライダーも前のライダーの一挙手一投足を観察して、
腕前と経験を推し量っている。
そしてペースを合わせるか、早目に抜くか、
あっぶねえなあチョイと距離をおくか、などと決めている。
当節は車種、服装はてんでアテにならない。
激ウマのTシャツ姿のアメリカンもいればドン亀のツナギのフルカウルSSもいる。
 
自分がドカに乗っているくらいだからな、無論その通り。
 
後ろのモンスターガール、と言えばシールドを開けてわずかにのぞく瞳は涼しい。
まあ、「るわしきは夜目、遠目、傘の内」とは昔からの言葉。
ライダーなら「フルフェイスの中」が付け足すだろう。

男も女もヘルメットは取らぬが花。
こっちはサングラスはしてるとはいえクリアシールドのジェットヘルだから
お面などとうに割れているのだが。
 
交差点で対抗車線の隼ライダーがミラーシールド越しにこちらに無遠慮な視線を向ける。
女性の方が新しい型とはいえ、同じドカである。
傍目にはペアにうつったかもしれない。無関係だよ無関係
 
振り向いて彼女に声を掛けたりしたら助平オヤジ丸出しであるから無言を貫く。
なんだかだんだん窮屈になってきた。
三四郎」の冒頭を思い出す。

自分は曲がるべきところで曲がる。左手を軽く上げて挨拶。
彼女はそのまま直進していった、か。
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蕎麦を食うと決めたらとにかく蕎麦を食うのが自分である。
今日は昨日と違って美味い蕎麦を堪能した。
さてさて天気もすがすがしい。
 
モンスターは快調に走る
まことに気持ちが良い。
とにかく走る、走りたい気分だ。
 
スロットルボディを洗って貰ってからは、なんだかエンジンに活気が出た。
ちょっとアフターファイアが多いのでシフトダウンは控えめにしよう。
 
いつもの切り返しコーナー、今日の切れ味は、、、ややニブかったようだ。
自分の腰が重いのか、はたまた下げたハンドルバーとシートの影響か。
こう?こうかな。これなら、どうだっ、と色々やってみる。
 
休憩の時にタイヤをチェックすると果たして、思ったよりサイドが接地している。
オーバーペースだ。
いかんいかん。自分は今、バイクとタイヤの性能に頼ってしまっている。
それを認識していないとしっぺ返しを喰らう。

モンスター
コ  イ ツ のしっぺ返しはチト痛いからな。

休憩はトイレだけ済ませてまた走る。
さらに北へ向かうともう寒くさえあって標識を見ると福井県
来週からはさらに気温が下がるというからそろそろ革ジャンの出番だな。
バイクには少し寒いが、いろんなものを慈しみながら走れる季節がやってくる。
 
楽しみだ。
 
 
名田庄
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P.S
しばらくたってからこの稿を読み直してみた。
バイクで出掛けた事はまざまざと思い出すことが出来たが、
最初に記された「嫌なこと」がいったい何だったかは綺麗さっぱり忘れてしまっていた。

まだまだ、捨てたもんじゃないな、と思った次第。