時折、タバコを買う。
自分では吸わない。
いつも机の引き出しにタバコの箱があるのはそのせいだ。
一年に一度、とある墓前に供える線香の替わりだ。
タバコは火をつける時に必ず一口吸いこむ。だからその味が舌の上に残る。
革ジャンのポケットにタバコを突っ込んで、バイクで出掛ける事がある。
いい景色に出会って、何もすることがないのも手持ち無沙汰なので、
一本とり出して火をつけてみたりする。
あとは指先にはさんだまま、吸わずにその景色を眺める。
タバコが灰になると、またバイクに跨つてどこやらへと走り出す。
やっぱりタバコの味が舌に残つたまま。
だから淋しくはない。
一人でも。
いい景色に出会わなければ、手をつけずに帰ってくる。
そうして一年経つと、何本か減って少しひしゃげたタバコの箱が手元に残る。
だから淋しくはない。
一人でも。