イトイの「いつだったか知った寓話」とやら(うまい言い方だ)
は私の知ってるのとはちょっと違うようだ.
何十年も必死に働いてそれなりに成功をした実業家がいた。
ようやくのことで取れた休暇で海へ釣りに出掛けた彼は、
地元の若者を雇って沖に舟を出した。
ようやくのことで取れた休暇で海へ釣りに出掛けた彼は、
地元の若者を雇って沖に舟を出した。
素晴らしい天気と穏やかに広がる海に浮かぶ古びた小舟。
さっそく二人で糸を垂らす。
獲物は、しかし一向にかからない。
男は退屈しのぎに若者に話掛ける。
「君はこの舟しか持ってないのかね?」
若者は釣竿の先を見ながら言った。
「ああ。そうだよ」
いささかぶっきらぼうな答えに男は少し機嫌を損ねた
「駄目だな、一艘だけじゃ。新しい舟をたくさん持つんだ」
若者はぼんやり釣り糸を眺めたまま、
「なんでだね?」
「馬鹿だな、こんなに良い場所なら宣伝すれば釣り人は沢山来る。みんな良い舟に乗りたがるさ」
若者は竿をあげた。餌がなくなって針だけになっている。
「そうかな。それで?」
男は答えた。
「そのとおりにすれば君は儲かるんだよ!」
若者は針にエサを付け直しながら面倒くさそうに尋ねた。
「へえ。で、儲かったらどうなるんだい」
男は信じられないといった表情で続けた。
「金持ちになって、たくさんの人を雇える。君は毎日のんびり釣り三昧だ」
若者はアクビをしながら、
「ああ、毎日釣り三昧なら、今でもしてるがね」