sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2013信州ツーリング その3 「夜霧よ」

暮れなずむ蓼科の山道に街灯などありはしない。
対向車も前走車も滅多といないから前後左右は真の闇。
バイクのライトだけが頼りである。

おまけに濃い霧が出てきた。

「♪夜霧よ今夜も、ありがとおおう〜なんて唄ってる場合ではない。
夜霧の峠道」なんざ単車乗りにとっては悪夢そのものだ。

次のコーナーが深いか浅いか、路面状況などが全くわからない。
ここらの山道は舗装が冬の凍結で傷めつけられて荒れている。
突然顔を出す路面のギャップや大穴を咄嗟にかわしていく。

その上、ひどく冷え込んできた。
さすがは蓼科だぜ」なぞと粋がって独り言を言ってみるが、
ヘルメットのシールドとメガネが吐く息で曇ってさらに視界が狭くなる。
「こらアカンわ」とジイさんのカブみたいにとろとろ走る。

この速度ではなかなか峠を抜けられない。路肩に寄せて地図を確認してみる。
すずらん峠」
妙に乙女な名前だ。これまたおそらく後付けの観光用ネーミングだろう。
昔は「菩薩峠」だとか「天狗谷」だとか呼んでたに違いない。

すると、後方からヘッドライトが二つ。
天の助けとばかりに一旦やり過ごしてそのすぐ後ろにつく。
四輪の明るいヘッドライトに頼るコバンザメ作戦だ。
おかげでなんとかその後の峠道を切り抜けた。

夜もとっぷり暮れた頃、白樺湖に着いた。
もはやレストランなどを探して食べに行く気もとうに失せている。


ヨロヨロと入ったコンビニでサッポロビールと焼きそばパンを買う。
何ようこんなものならどこでも売っているじゃないのよう。
全くその通り。いやはや面目次第もござらん。どっかからの声に平謝り。

素泊まりのホテルの部屋のユニットバスで今日三度目のパンツを脱いで冷え切った体に
シャワーだけで済ませた。これ以上湯船に浸かったらフヤけてしまう。
コンビニ袋の中のやきそばパンをビールで流し込んだらあとはもう寝るほかない。

長野県は白樺湖のほとりで一人かもねむ、の単車乗りにまで「浮世」は追いかけて来る。
携帯電話のある世の中だから仕方ない。浮かぬ顔で布団に潜り込む。

秘湯の温泉もグルメな食事もありつけなかった。
雰囲気のある写真もろくに撮れなかった。
走って気持ちのいい道もなかった。
当然、SNSでも投稿の半分はスルーされた。

それがこの日のツーリング。
しかし、嘘偽りのない自分の本当の姿でもある。
いいところだけを切り取って表面ヅラだけを取り繕いはしない。

よれよれコートのポケットにゃ
傷んだリンゴ、一個だけ
それでもおいらにゃ十分さ
ぜいたく言えない身分だぜ♪

今夜の寒さは身にしみた
そろそろねぐらを作らなきゃ
まだまだ命は惜しいから
温い寝床を探そうか

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