sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2012信州ツーリング三日目 八ヶ岳

三日目の朝、目覚めてまず部屋の障子をからり、と車山の木々と今日もまばゆい日差し。

「好天は最大の僥倖なり」

野武士ライダーから貰った言葉をゆっくり咀嚼する。

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天に向かって一礼。「いつもありがとよ」。。。。




ゆったりゆくも道は道


信州の標高1300mの朝、なのだが昨日より重ね着するほどはではない。

そういえばドアに掛けられている部屋札の名前は

「更衣(きさらぎ)の間」

その下にさらに小さな文字で説明書きがある。
「古くは衣更着と書き、更に衣を重ね着る季節を更衣(如月)と呼んだ」
なるほど。

個人経営の宿はそのオーナーの趣味や教養がそこここに映しだされるのがおもしろい。
昨夜の本棚にならんだ古書といい、別段オーナーと直かに接しなくとも
その「人となり」が感じられて、
宿泊する者に人肌の温もりが伝わる。

リビングホールにTVがなく、静かな音楽が流れている。
初日のロッジもそうだった。それだけで自分などは居心地が良く感じる。

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ここのオーナーは養蜂業を営んでいた様で小さな「はちみつの展示室」がある。
ならばと朝食の食卓のクローバーのハチミツをパンにつけて食べてみた。
あっさりした甘みでクセがない。これはイケる。

何の気なしに飲んだオレンジジュースがまたとびきりだった。
嫌な甘みも酸味もない。まさにオレンジを絞った味。
いちいちウムウムと味わっていたらもう九時半だ。

「宿で朝食など食わずにビーナスラインで日の出と富士山の写真を撮らないと駄目だ」
と友人に言われた事がある。「それからビーナスを攻めまくらんといかん」のだそうだ。

ヤレヤレ。ま、人それぞれ。
「アイツは駄目だ、オレが正しい」などと
価値観の押し付け合いでは単車に乗ってる甲斐がない
彼は彼の道を往けば良い。
私の道はまた別にある。

とハチミツのついた指をしゃぶりながらチェックアウト。

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大きな庇の下に入れてもらったモンスターは夜露をしのげた様子。
明宝ハムも無事だ。落ち葉の積もった土の上でバイクを取り回す。
こんな時は軽いバイクでまだ良かったと思う。

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走り出すと尻のポケットにペンションの部屋の鍵を突っ込んだままだった。
あわてて宿に引き返す。
どうも今回は朝イチからギャグをかまさないと始まらない様だ。

車山高原のメイングランドには椅子やテントが準備されている。
この週末、シトロエンルノーなどでここら一体が溢れるのだろう。
緑色のBXで一才と三才の子供を後ろに乗せてここまで来たのは遠い記憶だ。


もう一度ビーナスライン。富士見台にあがる。

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そうしたら雲海の向こうに富士

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こちらは御嶽
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傍らの年配の女性達が「富士山が見えるなんてラッキーな」という。
成る程昨日は見えなかった。毎年の様にバイクでここにきて、
それを眺めている自分はなんと恵まれているのだろう。

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富士の手前に見えている八ヶ岳雄大な裾野が朝もやに煙っている。
今日はあの辺りを走るのだと思うと軽く心が躍る。

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蓼科のメルヘン街道を独り寒々と


朝陽をあびた紅葉がきらきら光る道を通り抜け、
蓼科高原をかすめて麦草峠に向かう。

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木立の中をウネウネ曲がる道。脇の道路標示には

「メルヘン街道」
「どのへんがメルヘン?」
「知らへん」

などと大阪の人間は1人でも常にボケとツッコミは忘れない。

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標高2000mを越えるとさすがにガスがかかり寒さを感じる。
峠の休憩地ではデカ尻に遭遇。
宿命の対決・・・なんかはしない。
こちらはもうカタナではないのでね。

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険しくも雄々しき山、八ヶ岳



山を下りて佐久甲州街道八ヶ岳に回り込むころには風はことのほか温和になる。
例によって変な道へ迷い込んでしまったりしつつも清里へ。

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さすがに「清里」。駅にいくと高原の避暑地♡の雰囲気。
さらにどこからかDingDongと鐘が鳴ったりして。
もう気恥ずかしくて気恥ずかしくて素通りしてしまう。

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ただし周辺の道と景観は素晴らしかった。
天気もとても良く、停まっていると日差しが暑いほど。
荷物の中の明宝ハムが・・・

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八ヶ岳と紅葉と橋とモンスター
これらをどうやって一枚の絵の中に収めようかとアレコレ苦心、、、
してたらオジさんに声を掛けられる。

「バイク、イイなあ、気持ちいいだろうなあ。いや私もバイクに乗ってたんですがね。
これからどこに?決めてない?宿も?気ままな一人旅ですネェ、イイなあ」

こんなロクでもない私の様な男でも、他人様に羨んでもらえる、
単車に乗っててこそだと思う。

目的地も責任も義務もなく
まるで子犬の様に、
その辺をポロポロと軽やかに走り回った。

昼はとっくに回っている。
どの飲食店も妙に外観が洒落のめしていて入る気にならない。
かといってコンビニで得体のしれぬ宇宙食みたいなものを買うのも嫌だ。

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普段は冷凍だインスタントだとジャンクフードの多い自分だが、
この二日間、自然の滋養に満ちた手作りの食べ物が続いている。
なので商業主義と化学調味料にまみれたものを体内に入れたくない。

地図を見ていて二年前に行った蕎麦屋が近いと気付いた。

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少々足を伸ばして 富士見高原で新そばのざる大盛りをいただく。
珍しく機転の利いたルーティングで清浄な食事をかろうじて続けられた。
高い木立に囲まれた道は走っているだけで心が透き通るような心持ちになる。



走り続けるか?帰途につくか?



小渕沢の道の駅に取って返し土産物を物色。。。。していたら、
レジで先ほどのオジさんにまた出会った。
不思議な旅の縁ですね。お互い笑顔を交わしてまた別れる。

今日もまた、走行距離はほんのわずか。
飛ばした訳でもない。どの道もそこそこ気分よく走れた。
この道の駅には足湯があってそれにつかってみた。

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湯を挟んではす向かいには
携帯で商談しつつタブレットを叩いているスーツ姿の営業の二人組が
足湯につかっている。働いてるんだかサボってるんだかわからない。

事務所に仕事の電話がかかってきてやしないか、ふと気になる。
今から高速に乗れば今日中に大阪に帰ることは可能だ。
しかし湯の温かみが足から腰、そして脳天へと伝わり、
もう金輪際動きたくなくなってきた。

「もうちょっと走るかね」

足湯につかったままの自分の毛ズネ見ながら自問する。

「そうだね、帰るのもなんだし」毛ズネがそう応じる。
「となると、もう一泊か」
「どこか適当に宿をとってそこでノンビリしよう」

自分は毛ズネの言われるがままに宿を手配した。

したはいいが迂闊にも甲斐駒ケ岳木曽駒ヶ岳を混同していて、
この後スッタモンダすることになる。
結局高速に飛び乗る羽目になってしまった。




魔法が解けた。地上に降りた。



宿も中途半端に町中の駅前のビジネスホテル素泊まり4500円。
まあ、部屋さえあれば文句は言えない。

しかし露天風呂だけは抜け目なくしっかり入ってきた。

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走るより眺めの良い露天風呂が優先。
こりゃツーリングというよりもう「湯治」だね、チョイナチョイナと仁王立ち。

帰りに駒ヶ岳の夕暮れでなんとなく「じわあん」ときたので
わざと幹線道路から脇道にそれてみる。

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すると軽トラの人から「道でも間違ったのか」と声を掛けられる。
それは大阪ナンバーの単車が田んぼの横をウロチョロしていては不審だろう。
自分は素直に「都会もん」にもどってバイクの鼻先を翻した。

くだんのホテルは路地裏だった。
初日と二日目は動物の心配だったが、今夜は明宝ハムよりバイクが心配だ。
部屋はラジオ体操さえ憚られるほどの狭さ。外に出ても特に旅情のそそる店もなく、
結局チェーン店のラーメン屋で妥協しコマーシャリズムの軍門に下った。

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こんな事もあろうかとスキットルに入れて鞄にしのばせて来たバーボン3杯分で
ともかくも酔いだけは得た。
すでに「うつくしき食物」の魔法は解けてしまったから、
これも隠し持ってきたニッスイ魚肉ソーセージをなかば自虐的に齧ってしまう。

さてルーティング。

下道で地味に帰るか、南アルプスを縦断し中央道でひとっ飛びか。
まあ、明日起きた気分だな、とまた先送りして床に就く。

何だかこのままずっと旅をし続けていくような気がしてきた。


危ない危ない。