sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2012信州ツーリング二日目 至福のビーナスライン

翌朝・・・

窓を開け放つと暖かな陽光が部屋に飛び込んで来た。。。

 

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階下におりてうまい朝食と林檎ジュースでお腹一杯。

味の表現が「うまい」一点張りで拙くてもどかしいが、言い表すなら

舌の味覚芽の一本一本に染み渡り、その感覚を揺り起こしてくれる

ここのは、そんな食事だ。

 

朝の気温を確認しに外に出る。少しヒンヤリとした空気が胸に入ってくる。

バイクを確認しに行くと振分けバッグに残していった明宝ハムをクマが襲っていて・・・

まさか、さすがにいくらなんでもこんな所まではクマ公出てこない。

 

それよりこの太陽は嬉しい。昨日よりも軽装で走れそうだ。

革ジャンを着込むとビシリと気合いが入る。

 

 

我が名は単車乗り。。。


 

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いつもの様にオーナーと奥様が見送ってくれる。

 

「エンジン、掛かります?」

 

真顔でそうからかうオーナーはフランス車のオーナーだったから同類項だ。

案の定、出掛けにエンストしてくれたモンスター。一同大笑い、ようやく和んだ。

 

スカイラインでも走ろうかと思っていたが見上げる御嶽は雲の中だ。

 

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昨日は雪が舞ってたという。

「またにしようや」としばらく裾野辺りをあてもなく回遊し開田を後にする。

 

 

中山道を少し進むと奈良井の宿がある。

 

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ここは昨年訪れた妻籠馬籠と違って宿場町の中まで車で入って行ける。

そう思ってバイクを半分突っ込んだところで観光客にひるんだ。

随分昔、SR500でここに泊まった時はもっとひなびた雰囲気だった様に思う。

 

 

木曽谷を通る中山道は奈良井から北は意外に明るく広い道が続く。

そこから塩尻岡谷。このあたりで道や周辺の視界がぐんと開け、

今回「信州に来た!」との実感はこの時に得た。

 

 

愛しのビーナス


 

 

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一年振りの逢瀬だ。

扉峠の上は風に流され雲が早い。

 

たおやかな稜線。まるで西洋画の横たわるヴィーナスの様だ。

 

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美ヶ原美術館に至ったのは正午過ぎ。

美術館は嫌いではないがここまで来て人工物を見る気はまだない。

昨夜からの滋味溢れる食事でまだお腹も満タンだ。

野沢菜のおやきだけ買って、外で標高2000mの景色を眺めながら頬張る。

 

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白くかすむ峰々の雄大さを遠くに眺めていると、

背景の美術館の現代的オブジェが、子供の作った粘土遊びのように

拙く、プリミティブで、純粋な偶像の様に思える。

 

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静謐の林 天駈ける女神の高原


 

 

先にはつづら折りの急坂路。武石峠に向けて段々と山深くなるから、

普通はここで折り返す。

 

自分はほんの少しだけ先に進み「例の」白樺の林へ向かった。

舗装道路を降りてモンスターのエンジンを止める。

 

 

 

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ここは白樺の他は何もない。

 

何もないところがいい。

 

つくづく何もない所が好きな男なのだ。

まあ当人も同じで、名もナイ、地位もナイ、金もナイ。

知力体力全然ナイ、夢も希望も、、、それはまあ、どうだろうか。。。

 

この歳になってこんな遠くまで独りでバイクでやって来ようとは

少なくとも10年前の自分は想像もしてなかった。

だから10年後の自分はまだまだ未知数だ、ということにする。

 

落ち葉の敷き詰められた林の小径からモンスターを道路に押し上げた。

 

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引き返して晴天の霧ヶ峰まで。道に映るわが影。

ビキニカウル越しのデジカメは今日は快調だ。

 

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ビーナスラインはここから車山までの間が佳境だと自分は思う。

「美の女神の道」との至福の時間をじっくり味わう。

 

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最近のお気に入り曲がBGMとしてもう頭の中で鳴りっぱなし。。。

   

Kristin Amarie "First Light"

 

青い空、白い雲、どちらも手を伸ばせば掴めそうなほどすぐ上にある。

 

ふくよかな高原のただ中を

 

 

左に・・・

 

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右に・・・

 

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下り・・・

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登る・・・

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前後左右の遠景に入替わり立替わり現れるのは北アルプス中央アルプス八ヶ岳

 

 

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巨きな神々のように連なる峰の見守る中を駆けめぐる。

 

 

和みの宿


 

富士見台に着くと富士御嶽も雲に隠れていた。

今日は「まだ」200kmも走らないかもしれない。

特に疲れてもいないが、それでも「もう」充分だ。

ま、明日もある。

車山高原が今夜の宿だ。

 

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このペンションはフレンチ・ブルー・ミーティング(全国からフランス車が集まる祭典)で泊った。

ここでトイレまでが間に合わず粗相をしてしまった長男は三歳位だった。

今では丈が180cmもありやがる。

思い出し笑いしながら懐かしい建物の部屋に入る。

 

荷物を下ろし、宿の女将(ペンションの場合はどう呼べばいいのだろう)

に近くの露天風呂を教えてもらって、再び軽装のモンスターで走り出す。

寒くてネックウォーマーを忘れて来たことに気付いた。

 

湯殿は高原を下って15分ほど。

 

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ここは露天風呂の下の渓流まで階段がしつらえてある。

折角だから川のすぐ傍まで降りてみた。

湯に火照った身体からほこほこ湯気を立てつつの仁王立ち。

紅や黄に染まった木々が夕陽に照らされている。小さな清流の瀬音。

こちとら丸裸なので臨場感たるや余りある。

 

湯から上がると気温は下がっている。帰りは湯冷めするだろう。

 

自分の脱衣籠の中を見るとヒートテックのハラマキがある。

なに、パンツや靴下よりマシだろうと、首に巻いてみた。

妙な温もりを感じないでもなかったが、

おおかた下足番の藤吉郎あたりが余の為に懐に入れて温めておいたのであろう、

などと思う事にしてバイクで車山まで戻った。

 

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車山高原の夕暮れにたたずむドカティ・モンスター。

by 腹巻きマフラーおやじ。。。

 

 

ペンションに帰り着くと物腰の柔らかい年配の宿の主人が挨拶に出てくる。

先ほどの女主人はその娘さんと思われる。食堂に行くと今夜もなかなかのご馳走。

 

ご馳走といっても絢爛豪華、贅沢三昧という意味ではない。

土地の作物を使っていて、きちんと心が籠っている。

それとやはり信州、味噌汁がうまい。

 

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また「うまい」が出た。グルメではないので美味に類する語彙が貧困で弱る。

何というかその・・・いや「舌」ではない。

一旦、胃にとどいてからじんわりと味わいが立ちのぼってくる、

そんな味噌汁だ。

 

居間には大きな書棚があって無性に嬉しくなる。これも昨夜の宿と同じだ。

蟹工船「破戒」などの蔵書を手に取る。

妙に凝った背表紙の字体などから戦後すぐの版とおぼしき稀少なものと察した。

さきほど見かけたご主人のものか。

 

部屋に戻って畳の上で大の字。これがやりたくっていつも和室を所望する。

ごろごろ寝返りを打ちながら地図を見て明日の道を考える。

今日と同じく雄大な眺めの場所をゆったりと走りたい」希望はそれだけ。

やはり初日の疲れが身体から抜けきらないのか。今日はガツガツ走らないで正解だ。

 

少し早いが床をのべて布団にもぐり込んだ。

 

ビーナスのちフロ、メシ、ネル。

 

女神の胸に抱かれる夢を・・・残念ながら見なかった。