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万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2012信州ツーリング初日 「木曽まで下道で」

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「木曽まで下道で」


 

 「高速道路はいくら景色が良くても

 いまひとつ別世界を眺めている様な疎外感がある。

 下道は今走るこの道が目指すあの山々に直接繋がっている。

 そこが決定的に違う」

 

そうツーリング記に書いたのは昨年の事だった。

 

「アイツ(SR500)で東海道中山道を通って

木曽まで下道で一人旅をする、

というのも悪くないな。。。などと馬鹿なことをふと考える。」

 

ともまた、書いた。

 

一年間、その思いは自分の心の中でくすぶり続けて

「木曽まで下道」=「馬鹿なこと」ではなくなり、

いつのまにやら今年の信州ツーリングのテーマとなっていた。

SRは、、かろうじて買わなかった。

 

今年は諸々立て込んで開田のトウモロコシの時期はとうに過ぎ、新そばと紅葉の季節。

開田と車山、毎年ほぼ同じ場所へ行くのだから(自分に取っては墓参や里帰りに近い)

時期を替えて四季折々の表情を楽しみに行くのもよかろう、と相成った。

 

毎度毎度で恐縮ながらの信州単車紀行です。

 

(画像は下のリンク先にまとめてあります。

長々しい説明がご不要な向きはこちらでお楽しみ下さい)

 

[2012信州ツーリング_アルバム]

  

出発〜岐阜への山越え道


 

バイク乗りに「秋の信州は?」と問いを掛けると

一様に「寒い」と返してくるだろう。

霧、吹雪、路面の凍結、山の天気は侮れない。

十分な冬装備を用意し、主に南信州を巡る、とだけ決めて

「下道メインのぶらり旅」へと出掛けた.

 

「高速道路なんか乗らない」

「ナビの言う事なんか絶対きかない」

なぞと原理主義をふりかざすのも窮屈だ。

ハナっから名神に乗って混雑する朝の京都市内を回避することにした。

 

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湖西バイパスを降りるとマキノのあたりで寒さが増す。

比叡おろしというやつか、しんしんと身体の芯まで冷える。

コンビニでカイロを買い込み暖かい紅茶で暖をとりながら、

「滋賀でこれなら信州ではどうなるのだろう」と先行きに不安を感じる。

 

「まあ、むしろ下道の方が速度が低い分暖かろ。寒けりゃ止まるまでよ」

とタカとハラをいっしょくたにくくって、

木之本で国道303号に入り、山越えルートを往く。

 

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R303は道幅もあり路面もよくてなかなか気持ちよかった。

特に下道にこだわらずともバイクで岐阜までなら名神よりこちらの方が自分は面白い。

山中にぽっかり奇妙なデザインをした建物が出て来たら

それはおよそウルトラ警備隊の基地・・・ではなくって道の駅だ。

 

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休憩もそこそこにR303から県道40号、R157、R418と繋いでいく。

 

ずいぶんと遠回りなのは岐阜の市街地を避ける天の邪鬼ルートだからだ。

洋服の青山」や「吉野家」の看板を眺めて走っても普段と何も変わらない。

当然、ほぼ山間路となる。

幾度も迷いながら二つのタイヤを転がして行く。

道の分岐にくるたびに頭をめぐらして地形を見る。

 

時折顔を出す狭隘路のブラインドコーナー

雨の翌日は濡れ落ち葉や砂利やわき水のたまり場となる。

旅はまだ初日、停まらんばかりに速度を落とす。

オタオタとペースはまったく上がらない。

 

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並みいるリッターバイクの中に混じると

自分のモンスターの800ccなどは可愛らしいものだが、

こういうところへ連れ込むといささかその勇み足に手を焼く。

リアブレーキ、ハーフスロットルで鉄火肌をなだめすかす。

 

こうして下道ばかり、のんびりした速度で風景を眺めながら山路を走るには、

猛々しいドカや高出力の重量級マシンは自分などには手に余る。

車高の低いオフロード車、例えばセローやカワサキのTRあたりなら、とも思う。

最近は、何km/h出したとか一日で何百km走った、

という類いの数字の大小に心が動かない様になってきつつある自分だ。

 

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 「山路を走りながらこう考えた・・・」


 

1から2に至り3になるのは必然である。

1より2の方が、2よりも3の方が大なるも真理だ。

しかし1と2の間は1.0000001、1.0000002と無限に刻める

(・・・とそう代数の授業で習った)

 

ならばその無限の間隙をいちいち味わえばよいのではないか。

 

時間をかけ慈しんでようよう至った1や2と、ただ数を重ねて4や5になったのと、

どちらが「豊か」とも言い切れないだろう。

 

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そんな一銭の得にもならないソロバンを心中で弾きながら、

独り淡々と単車で走る。

 

絶景も快走路も、ご当地グルメも、特産品も見当たらない。

とりたててレポートすべきことはあまりない。

名も無き男が名も無き町の名も無き道をただただ走るだけ。

 

 

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山間路の合間に村落があり、それが途絶えてまた山間路が続く。

自然天然以外の色に出会わなくなる。目に入るものはといえば、

民家の板塀のカゴメケチャップ」の古い看板きりだ。

 

こうやって初めて走る道は心細くもあり、楽しくもある。

心の中の「年寄りの自分」が未知の世界に不安を感じ、

「若者の自分」が目を輝かす。

 

 

「名も無き道」から「名高い道」へ


 

 

R256郡上八幡を抜ける。

ここからは見知った道となり、おおよその所要時間も読めてきた。

道の駅「明宝」で休憩。

 

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明宝ハムで有名なここは「昭和のハムソーセージマニア(?!)」の聖地である。

冷蔵庫に並んだ赤いセロファンの数々に目がくらんでつい土産に幾つか買ったが、

要冷蔵だったのでこの後四日間持ち歩きに難儀した。

 

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昼飯にスタンドで明宝フライなるハムカツ串を試す。

ウマイ。もう1本おかわりした。

 

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聖地巡礼をおえ、ここから飛騨きっての快走路せせらぎ街道に入る。

 

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暖かな日差しのせいか、寒さは思った程ではない。

頬にあたる風は冷たさを増しているが、むしろ心地よい。

 

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単車乗りは全身を風雨にさらしている、

という事はまた、全身で周囲の景色を味わえるという事でもある。

少しスピードを落とせば上下左右ほぼ360度を眺めながら走ることだって出来る。

全周囲に流れて行く紅葉を楽しみながら、各コーナーを走り抜ける。

それはやはり単車乗りだけが味わえる素晴らしい気分だ。

 

その地の最高の景色を望むなら、

一眼レフを抱えて観光バスで景勝地に連れて行ってもらえば面倒はない。

脇目もふらずに走りを極めるなら、

サーキットに行くのが世間にかける迷惑が少なくていいい。

 

 

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自分は、といえばその間にある、

「走りながら流れゆく景色」がなんとも好きだ。

それを残したい。

 

そう思ってバイクのビキニカウルの内側にデジカメを付けてきたのが今回の目玉。

動画にするとなんだか走りだけが強調される気がしたので静止画を狙ってみた。

片手運転しないですむようにレリーズを左のホーンボタンの下に引っ張ってある。

 

それが、このせせらぎ街道でなぜかデジカメのバッテリーが切れてしまった。

 

なんとも無念なり。

 

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(目玉という割にはブレた写真が多かった。シャッタースピードや露出に再考の余地有りか)

 

"高き山"の地へいたる


 

高山市に入ると眼前遠くにいきなり飛騨山脈

白い頂の連なりが目に飛び込んでくる。

 

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独りヘルメットの中で小さく快哉をあげた。

このときばかりは老い若きもない。

 

もっとよく見える場所はないものかと探すうちに左手に開けた坂道をみつけた。

思い切って入り込んで昇りつめると、どこやらの中学の正門にいきあたる。

 

そこから飛騨の山々が展望出来た。

 

自分は信州の山のことは詳しくない。

その形がいかにも馬の鞍のようだから、乗鞍岳と呼ぶのだろう

(と思ったら果たしてそうだった)

 

 

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こんな景色を毎日見ている中学生とは羨ましい限りだ。

そう思って校庭の方をふりむくと丁度体育の授業中だろうか、

生徒の幾人かが物珍しげにこちらを見ている。

彼らにしてみれば見飽きた乗鞍などより、

やかましい排気音の単車に乗る妙なオヤジのほうがよほど珍奇かもしれない。

 

 

ここからはまた飛騨の山へ分け入る。

 

R361の道の駅、飛騨たかね工房で休憩。

 

すると綺麗なワインレッドのビーエムのバイクが一台やってきた。

駐車場はガラガラだのにわざわざ自分とモンスターの反対側、

建物からも離れた所に停めてからに、おまけにこちらを一顧だにしない。

よほど嫌われたらしい。

まあ気持ちは分からぬでもない。素知らぬ顔をして飛騨牛の串焼きに喰らいつく。

 

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「ドカなんてどうせバカみたいに飛ばすんだろう」向こうは思っている。

「BMなんてどうせ成金のスノッブ野郎だろう」こっちは思っている。

 

 

たぶんどっちも誤解している。

 

 

4年前、この谷あいの道は曇っていてあまり良い印象はなかった。

けれど、今回は晴天でとても気持ちよい。

単車乗りにとって、

天候というのはことほどさように重要なファクターだと気付かされる。

気温も暖かくここが10月下旬の信州とはにわかに信じがたい。

 

 

木曽 御嶽山


 

上機嫌で走っているとやっぱりいきなり山あいから御嶽がぬらりと顔を出した。

「木曽のオンタケサン」と親しみをこめて呼ばれるのがわかるような入道頭だ。

昨夜の雨で頂き付近は軽く冠雪していた。

 

 

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開田高原に入る頃、日がそろりと傾きかけている。

 

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今年もやまゆり荘によって、露天風呂にどっぷり。

 

途端に身体中の節々、それも特に傷めている左の首や腰やヒザに温泉の湯が

キューッと染み込んでいくような感じがした。

 

ほぼ下道の山間道ばかりで丸一日。

次から次へとうつろう、とりどりの景色に気は紛れたのか、

さほど長距離をこなした気はしない。

その実、身体の方は正直に疲労していたのだろう。

 

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内湯の湯舟に首までつかる。

茜に染まる雲とほのかな雪化粧をまとった御嶽を眺めながら、

今年もまた、やってきたのだなあ。。。としみじみ思う。

 

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宿にて


 

 

いつもの開田のロッジに到着。

 

「あ、どうも」

といつも通りあっさりとした出迎えを受ける。

オーナー、少しやせたかな?

さらにさらに渋みを増していてそろそろ禅坊主の域も遠くない。

 

開田の野菜をふんだんに使ったここの料理はとびきりうまいと思う。

ことに今夜のニンジンは格別だ。

奥様の手作りの林檎のシフォンケーキもこれまた絶品。

 

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食事後はお誘いを受け、他の宿泊客の卓でワインを傾け合う。

 

いずれも雪国と言っていい土地の人達だったから

こっちは「都会から来た男」の役まわりとなってしまう。

「そちらの冬はお寒いでしょう」

と水を向けると

「意外と京都の冬の方が底冷えで身体にこたえた」と口を揃えた。

確かに今回の信州ツーリングでもっとも寒い思いをしたのは

行きのマキノのあたりだったからこれは今もって同意見だ。

 

「夏も暑いし京都はロクな所じゃない」さらに畳み掛けられるが、

さすがに京都の気候までは責任持てない、と右に左に愛想笑いで受け流す。

 

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一人旅には声を掛けられればニッコリ笑って好意に応えられる社交性や寛容さも必要、

とわきまえている。

無論、すべて一人でやってのけるプライドと自主独立性が大前提なのは自明だが、

それだけでは単に尊大な隠遁者の現実逃避の道往きに終わる。

 

本当に偏狭で世間が狭い人間は、だから一人旅すら出来ないかもしれない。

 

なんだか酔った。いささか頂き物の赤ワインが過ぎた様だ。

布団に潜り込んで開田の夜は更けた。

 

<<つづく>>

 

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