sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

上手いライダー

近県でのグループツーリング、峠を下って行くときの事だ。
SNS繋がりで寄せ集めのメンバーで各々がお互いをよく知らない。
 
先頭は軽量かつ大馬力なスポーツネイキッド。
これが「速い
右に左に腰を落とし、果敢にコーナーを攻め落として行く。
後ろにピタリとつけたもう一台は同車種の上級版。
プライドもあるのだろう、これまた「速い」
二人は段々ペースが上がっていく。
 
おいおいおいおい。。。
 

 

速い二台に続き、少し離れてハーレーのスポーツスター、ややあって自分の順。
ハーレーはすぐに遅れるだろう、まあ我々はゆっくりいきましょうや、と
タカをくくっていたらとんでもない。
驚いた事にこのハーレー、このペースにさらりとついていく。
 
上手い
 
自然なリーンウイズで、ステップを擦る様なバンク角もとらない。
センターラインにもインにも十分な余裕を持っている。
勘どころではきちんとブレーキランプを灯している。
 
それでいて
膝もすらんばかりで突っ込んでいく先頭のイタリアンネイキッド二台から
はさほど離されない。
いやそればかりかコーナー後半では間合いが詰まってさえ居る。
同じ軌跡をたどる当方もついていける。
 
ターンインのライン取りと進入速度、トラクションが絶妙なのだ。
無理なく常にアクセルオンで安定して回っていく。
 
先頭二台はノーブレーキで突っ込みが速くてバンクが深い。
見た目は派手だが、コーナーの途中で失速していくのがわかる。
登りとちがってパワーでごまかせない。
違う点はそこだ。
 
そしてこのハーレーライダー、そんな先頭二台に対しすこし車間距離をとっている。
 
下りでこのペースだ。万一に備えてだろう。
団子状態で突っ込んでブラインドコーナーの先に遅い四輪がいたらどうなるか。
一台目二台目は直線でブレーキングでかわせても三台目四台目の我々後続はバンク中
での対応を強いられる。
 
自分もそれはわかっているから、ハーレーに不用意に近づかない。
もし距離を詰めたら彼はあっさり進路を譲るだろう。
 
ハーレーライダーの一挙手一投足に目を凝らし、
体重の掛け方、視線の送り方、などを学びとることにした。
 
しばらくそうやって走っていたら、
わずかな直線区間で、そのライダーのヘルメットが矢庭に真横を向いた。
「え?」自分は戸惑いつつもなんとか片目でその視線の先を追った。
 
左手の眼下に「うみ」が広がっていた。
広々とした景観だった。
一瞬、それまでの「バトル」に殺伐としていた心が、「ツーリング」に戻った。
 
このペースで走りながらも、そのライダーは景色を見る余裕があったのだ。
それだけの広い視野を持って、
しゃかりきになって走る前後の三台を余裕で相手していたのだ。
自分のレベルでは路面とコーナーに全意識を集中させないとこのペースはキープ出来ない。
 
段々と体が強張り視野が狭まってくる。
直線でミラーを見ると後続集団はいつの間にか消えている。
 
なんだかこんなに飛ばしていること自体、馬鹿らしく思えて来た。
そろそろペースダウンして「オイラ、いち抜ーけた」しようかな、
と思っていたところで丁度そのステージは終わった。
 
交差点で止まった時、自分は思わずそのハーレーライダーに賛辞の声を掛けずには
いられなかった。
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休憩時に目の前にあるそのハーレースポーツスターと、
端をたっぷり残したブロックパターンのタイヤをまじまじと眺めながら考え込んでしまった。
 
どんなバイクでもあったとしても、
乗り手の技術と経験次第で、速く、愉しく、安全に走ることが出来るのだ。
 
今まで、自分が速く走れないのをバイクのせいにしていた。
やれ前輪の接地感がないだの、ギア比が合わないだのと
文句ばかり垂れて来た。
 
モンスターは、ドカティは、言ってしまえばアグレッシブなバイクだ。
速度を上げて走ることを前提に設計されている様に感じるときがある。
鞭を入れれば入れる程マシンはエンジンは歓喜の声をあげて応える。
マシンとしての限界は自分の技術限界よりもっと高い所にある。
 
先頭のライダーの走り方は、そういう観点でのアプローチなのかもしれない。
 
この先、自分の限界をマシンのそれに近づけていくには、さらなる練習が必要だろう。
モンスターがポテンシャルを存分に発揮させられたら、
先頭の「速い」ライダー達の様に峠道でフルバンクさせ、速度計の針を三桁に貼付ける事が出来るかもしれない。
 
だが自分にとってそんなことは何の価値もない
 
ならば、このモンスターで自分が出来ることはもうあまりないのではないか?
もっとゆったりしたバイク、例えばSRなどに買い替えるべきではないか?
そんなことを考えながら山を下っていく。
 
その後もこのグループはペースが速いままだった。
こんどは順番が替わり自分の直前はカワサキのレトロなW800だ。
アレもいいなあ、ゆったりと走れるだろうなあ。。。

と思いきや、W800のライダーはノーブレーキ、棒乗りでパタンパタンと
バイクを倒し先頭の例の「速い」ドカライダーについていこうとする。
荷重もライン取りもへったくれもない、ただバンク角とタイヤ任せの走り方だ。
 
おいおいおいおい。
 
バイクだけゆったりした車種に変えても駄目なのだ。
問題は「ライダー自身」にある。
 
次の休憩で気付くとご夫婦でタンデムのリッターマシンの姿がない。
この人も実に「上手い」ライダーだった。
メンバーに聞くと「用事があるから」と途中で抜けたらしい。
 
ははあ、そういう事か。と合点がいった。
自分もしばし考え、このグループから離脱する事にした。
「何とかも方便」自らの危機管理は自らで、それがバイク乗りだ。
 
先頭のライダーを責めるわけではない。
自分だってついこの間まで峠道で気付けば後続がいない、
なんてことはちょくちょくあったのだ。
 
誰でもそういう事はある。
器の違い、あるいはちょいとまだ「青い」だけだ。
 
速い」ライダーではなく、「上手い」ライダーに、なりたい。
 
この時以来、そう思う様になった。