sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

信州ツーリング3日目 妻籠・馬籠

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三日目の朝が来た。

まず、からりと部屋の窓を開けるとかろうじて雨は降っていない。
天気予報を詳細にチェックすると昨日よりは好転しているので一安心。

体の疲労はあまり残っていないが、旅の終わりの朝特有の気怠いもの憂げな気分で
和室の部屋を見回すと、旅の荷物や着替えが一夜で散乱している。。。



「旅の衣は鈴懸けの。。」



それはそれで打っちゃっておいてぺたらぺたらと食堂に降りて卓に付いた。
うまい手作りソーセージの朝食を食べているとロッジの奥さんが尋ねる。

「今日はどちらへおいでですか」

「いやまあ、あとはもう帰るだけ。気が向けば妻籠、馬籠でも回ろうかなと・・・」

「馬鹿頭」なので、思いついたまま返事をすると

「あ、それはいいですね、この天気だとかえってしめやかな風情があって・・・」

きちんとした説明をつけてもらって自分のツーリングテーマをぼんやりと思い出した。

「風情と趣きを求めて、無理せず無茶する」


いやまあ馬籠や妻籠で無茶はせんだろうが。

部屋に戻って荷物をどんどん振分けバッグに詰め込む。
プロテクター付きのアンダーウェアとジャケットを着込めばこんなふにゃけた体にもぴしりと一本筋が通る。
窓を開けて外を見ると辺りはさわさわとした霧雨に変わっている。

「旅の衣は鈴懸けの、露けき袖のしほるらん」


と六法を踏んで(うそ)こじんまりとまとまった荷物を手に、最後にきれいになった宿の部屋を見わたし

「世話になりました」


と軽く会釈、自分の泊った部屋に対する仁義でこれはなぜか慣例だ。

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朝霧の中、オーナー夫妻が見送りに立ってくれた。

「じゃあ、また来年」
「はい、お気をつけて」

左手を上げてそれに応えつつ通りに出てアクセルをひねる。目の前に開ける道は霧で濡れている。

霧の開田を後に


二年前と同じ様に、村のよろず屋さんでそばを買ってからとなりのトウモロコシ畑にいく。

開田のトウモロコシは今が旬だ


9月の半ばには終わってしまう。
年柄年中食べれるものとは味が違う。
仕事を遣繰り算段して片付けたりロッジのオーナーに無理を言って宿泊日程を変更してもらったのも、
信州ツーリングの最後にここで朝穫りのモロコシを買ってバイクに積み帰って家族みんなで食べる為に他ならない。
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「とぉーもろこしをください」

と言って入る。おばあさんが一人小屋の中。

「はいはい、何本いるの?4本?はい分けてあげよ」

見回してもどこにもトウモロコシはない。

「ちょっと待っててね、切りに行くから」

とバケツを抱えて畑に消えていったらばあさん背が低いのですぐに見えなくなって、
なかなか帰ってこない。
たった四本なんだから適当に手近なのでいいのに、良く熟れた食べ頃のをきちんと
よってくれているのだろう。

あたりは霧が垂れ込めている。
じいさんが小屋の裏で何か野良仕事をしている。

ばあさんがようやくもどってきた。
切ってくれた、四本のトウモロコシを無理矢理バイクに括りつける。

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後から来たワンボックスのお客さんが話しかけてくる。
どこかの都会から何千本も買い付けにきたそうだ。

「イベントでね・・・大々的に・・・もう全国的にさ・・・」

そういう話か。。。なんだかな。良い様な悪い様な。

ばあさんさぞ魂消るだろうかと思ったら、変わらず
「はいはい、分けてあげよ」をやっている。
四本でも何千本でも変わらない。
おじいさんと二人で何千もキビを切るのは骨が折れるだろう、
そう思いながらバイクを出した。

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御嶽を拝むどころかあたりはとっぷり霧の垂れ込める開田高原をそろりと走り出す。
3000m級の山にしては水資源が豊富だそうだ。
霧もよくかかり、それでおいしい野菜もとれる。
高原としてはどことなくしっとりと落ち着いた雰囲気を感じるのはそのせいだろうか。

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話の種にと開田ソフトクリーム。

開店とともにずかずか入って来てソフトをひとつ注文する。

アイスは午前中に限る。

女性店員や次ぎにやって来た家族連れの訝しげな視線を尻目に外のベンチでかじりつく。

無精髭の中年男が一人でアイス食って何が悪い。

寒いので少し腹が冷えたがミルクの香りが芳醇にして美味かった。

さていよいよ地蔵トンネルを抜ける、その前につい

「あぁ帰りたくねぇー」


が口をつく。

木曽川に沿って走る中山道に出る。
狭い谷あいを電車と道と川が場所を取り合う様に縫って走る。
ここはいつもなんとなく気分の乗らない道だ。
南木曽の手前では雨が本格的になり、ついに安物のカッパを着込んだ。
左右に迫る山の間に垂れ込めた雲、だけど前方には晴れ間も見える。

15分程雨に降られると妻籠、もう雨は大方やんでいた。



妻籠、馬籠


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妻籠の宿場町、むこうの山が霞んでいる。
時折はらりほらりと降る雨が雰囲気だ。
ロッジの奥さんのいう通りだ。
軒下で雨をさけつつカメラ片手にぼんやりゆっくり昔の宿場町を見て歩く。

奈良井の宿には以前泊まった事がある。

その頃は妻籠、馬籠に比べ知名度が低く、ひなびた感じが良かったのだが、
今年何とかいうTVドラマの舞台になっているとかで観光客であふれているらしい。
それで今度は妻籠、馬籠が人気が少なく、かえって気分が出ているとか。。

良い様な悪い様な。

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端から端まで歩いて足がくたびれた。腰をおろせそうな店先も見当たらない。
昼時だがさほど腹は減っていない。
減らない腹に何かを入れる道理は無いと缶コーヒーだけすすってバイク置き場に戻る。

隣にカワサキのW650。

今回のツーリングではこの車種を良く見かけた気がする。
旅のイメージのあるバイクだと思った。
雨に濡れた佇まいがとてもいい。

片や戦闘的でスキのないデザインの我がモンスター、
古いサイドバッグを括りつけて旅の気分を出してはいるが

「流れ旅のお尋ね者


が精々なところか。


以前奈良井に来た時はSR500だった。

あれも古い日本に良く合う単車だ。
あの時も中山道は雨、フロントのドラムブレーキに手を焼いたことを覚えている。
アイツで東海道中山道を通って木曽まで下道で一人旅をする、というのも悪くないな。
などと馬鹿なことをふと考える。

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そのまま一山越えて馬籠に向かう。

峠の茶屋はどうやら閉めたらしい。


カラリと晴れてきた。
しっぽり濡れた石畳は見られなかったが、代わりに眼下の雲海と山々が目に冴える。

雨なら雨で風情を味わう、晴れたら晴れたでうれしく思う



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ここも妻籠と似た様なもんだろう、と思っていた趣きはしかし随分違っていた。
あちらが谷あいの宿場町ならこちらは山腹の門前町といった感じだ。
そして妻籠は見事に「時代劇セット」の様に統制されていたが、
馬籠は微妙に「昭和」な住宅が点在する。

同じなのはそこに人々が住みながら古い町並みを維持しているという点だ。

文化財の保存という観点が生まれるもっと以前、妻籠も馬籠も微妙に時代遅れとなった時期もあったはずだ。
その時点で、頑なに伝統を守るでもなく、利便を求めて最新流行を追うでもなく、
そこにあるものを黙々と使い切ろうとした人々が多くいたのだろう。

自分はむしろそこに住む人々の伝統と利便のジレンマ的な心情をすこし思った。

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石畳のずいぶんな坂道を歩き通してようやく腹がすいてきた。
おやきを買ってやっぱり外のベンチで食べる。

中身は何かと問われれば何の変哲もない野沢菜である。
一緒にうつる足下の古びたブーツ。
味があるなどと言われて照れくさい。

くたびれたブーツは単車乗りの勲章だ。


足に馴染んでないとギアシフトが瞬時に決められない。
わかってるライダーの言葉は嬉しい。

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時計を見ると、14:30。
渋滞や日没をさけて帰り着くにはそろそろ尻を上げる頃合いだ。
バイクの元に戻るとカッパはもう乾いていた。

帰路



あとはつまるもつまらぬも高速に乗ってひたすら行くばかり。

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休憩のSAのバイク置き場にはほかに先客のバイクが少し離れて二台停まっている。

一台は、またいたよ、W400だ・・・とひとり苦笑。

布製のバッグをカラビナで下げたりしてるのでフレームは傷だらけだ。
どことなくツーリング慣れしてない感じがあって却って興味を引く。
どこへ行ってきたのだろうか?
ライダーは何を見、何を感じてきただろうか。。。

もう一台は同じKawasakiのマーク。
樹脂製の流麗なケースを3つもつけたピカピカに輝くでかいツアラー。
良く見てなかったので車種は覚えていない。
W400の仲間では多分ないだろう。

腹が空いた。
何を食おうかと考えるのも億劫でまたもホットドッグとコーヒーをかじる。
いまどきはどこで食っても

フランスパンぽくて
手作りソーセージぽくて
マスタードぽい。

なんだか洒落のめしてる。

自分は本当は

黄色い軽自動車の箱バンで売っている安物のホットドッグが一番好きだ


へなへなのコッペパンに、
下衆いカレー味のキャベツと
ぶにゅぶにゅに茹でた魚肉ソーセージを入れて
甘ったるいケチャップと
酸っぱいカラシが掛かったあれだ。


さすがにあんなのは最近見かけなくなった。
妻籠や馬籠ほど古くもないから誰も保存しなかったのだろう。

今ごろ懐かしんだって遅いのサ。



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そんなこんなで夕刻、自宅に着いた。

信州に比べると家の前の道がいやに狭く感じる。

ガレージに入れた相棒を見れば、
かくも小さなエンジンにタイヤが二つくっついただけの乗り物だ。

行程約1200km。

こいつにまたがってきたのだなあ、と改めて思う。

バイクから荷を降ろしていると

「あん?どっか行ってたン?」

と長男が相変わらず間の抜けた問いを投げてくる。

「おおトォーモロコシを買いに行ってたのだよ、さあ皆で食おう!」

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