sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

たこフェリー

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淡路島と明石を連絡している「たこフェリー
若かりし頃、大阪から淡路島や四国へのバイクツーリングでは良くこれに乗ったものだ。

それがこの11月半ばで運行休止となる・・・

その「たこフェリー」に乗って淡路島をツーリングしてきた。


その日は最近の自分には珍しく天気には恵まれず、名神高速に入ると工事渋滞。
冷たい雨が降ってきた。今日は「天」も味方しない、か。

さて、
久々の顔ぶれはホンダの1300、カワサキの1200、それとBMの1200。
どれも200km/hオーバー楽勝のイカツイ面構え。
4台並ぶと当方だけ場違いな感じで笑ってしまう。
細い車体、旧態依然としたむきだしのエンジンと丸目玉のヘッドライト。
・・・まあ自分はそれが好きで乗っているのだけれど。

その日は他に白バイのコスプレやら、リアルなトカゲ(フィギュア)を乗せた
バイク(!)やらに遭遇した。世の中には色んな趣味のバイク乗りがいるものだ。
まあ、どんな格好してどんなバイクに乗ろうが、その人の自由だ。
それぞれ好き勝手にやってくれればいい、こちらも好き勝手にしている。


久々に乗る「たこフェリー





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船旅は格別だ。

汽笛が鳴って岸壁から離れるともう後には戻れない。
不思議と今まで走ってきた陸地(・・・といっても明石だが)に惜別の念が湧く。
甲板で轟々とうなるディーゼルエンジンの煙と匂いと潮風に吹かれ、
やがて未だ走らぬ新天地(・・・といっても淡路島だけど)が眼前に近付く。
期待に胸は高鳴る・・・もう気分は大海原を進む「海の男」なのだ。
・・・たかだか瀬戸内海の20分航路だが。

それが橋を渡ればほんの5分。

旅情、趣き、味わい・・・「古い」ものは「新しく便利で合理的なもの」に取って代わられる。
それが時代の流れというものなのだろう。
そういえば今日のホンダ1300とカワサキ1200の二人とは数年前に取り壊す前の余部鉄橋
見に行った。あれも新旧交代の図式だった。
懐古趣味という訳ではないが、そんな風情を解する「齢」になってきたのかもしれない。

たこフェリー」は「明石海峡大橋」の真下をくぐった。

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少し走って洲本で昼食。
淡路名物、淡路牛を使った「淡牛パスタ」とやら(??)
を食う頃にはようやく冷えきった腹も落ち着いた。

昼からは風の強い西海岸。
今日はカワサキが初走行、慣らし、ということでだろうか。
隊列を組んで前の四輪のペースに合わせて走る。
抜かないし、前が開けても加速しない、ただ淡々と。
この遅くも速くもないペースはドカにはとても走りづらい。

淡路島の海岸沿いの道は防波堤が低くて時折道路が波シブキを被る。




退屈しのぎにしばし思い出に耽ろう。


SRに乗っていた頃、
四万十川を遡り四国中を1週間ほどキャンプツーリングをした事がある。

途中で天気が崩れ出し散々な目にあった。
清流四万十川は濁流になり、川の中州のキャンプ場で夜半に雨脚が強まってきた。
心細くなって、何度も水かさを見に行き、まんじりともせず一夜を過ごした。

四国カルスト台地では突然濃い霧に包まれ視界ほぼゼロ、這うような速度で進んだ。
英語で「スープの様な濃い霧」と表現するが、なるほどそのスープはコンソメではなく
ポタージュなのだな、と半泣き顔で納得がいった。

最後には台風までやってきた。

なんとか四国を縦断し、鳴門海峡大橋に辿り着くころにはあたりは暴風雨。
突風で右に左に1車線も流される、激しい雨で路面の継ぎ目の鉄板で横滑りする。
眼下の灰色の海は大荒れ、半泣きどころか全泣き顔だ。
未だかって本気で「死ぬかな」と思ったのは生涯この時をおいて外にない。

もう身も心もボロボロになりながら淡路島を北上、なんとか岩屋にたどりつき、
この「たこフェリー」に乗って「これでもうあの辛い場所にオサラバ出来る」
と思ったら全身の力が抜け座席にへたり込んだ。
映画「プラトーン」で最後にチャーリー・シーンベトナムから帰還するヘリに
命からがら間に合ったシーンを思い起こしたのだから、ちと大袈裟だ。




その思い出の「たこフェリー」で今日はノンビリと明石に帰る。

これが最後だろう。

瀬戸内を行き交う貨物船が夕陽に美しいシルエットとなって浮かび上がる。

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この11月で下ろされる船会社の旗がマストにへんぽんと翻っている。
そのはるか何千メートルか上空を、キラリと光る白い十文字となったジェット旅客機が
こちらの何十倍ものスピードで追い抜いていった。

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自分は、古いバイクで古いフェリーに乗って雨や寒さに震えている。

それも一興。