sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2010 モンスター in ビーナスライン 2

2010/10/19

さて二日目、車山高原は快晴。

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ここまで晴れるとは。
誰かさんが「雲の上」で見守ってくれている、のかどうかは知らないが、
ともかく「ありがとさんさん」

富士 御嶽




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車山の高原を駆け上る。すぐに展望台を見つけた。
赤いSUZUKIのツインに乗ったライダーが写真を撮っている。
会釈だけして少し離れた場所に止めた。

正面八ヶ岳、右後方に富士山が見える。

やがてSUZUKIが出て行くと入れ替わりにどこかのおじさんが四駆から降りて来て
「おお、ドカだね」と話しかけてくる。
BMにお乗りだそうで、その最新のブレーキに惚れて
古いBM2台をお売りになって乗り飼えたそうで、
「なんだかんだ言っても古いもんは古いやね」
という言葉には苦笑だけ返しておく。

ま、写真を撮ってくれたので「ありがとう」は言って別れる。

少し上の富士見台という展望台に向かう。

見回すと富士、北アルプスの峰、そして御嶽が・・・
去年は間近までいったのだが雲隠れ、今年は日程が合わずお目にかかれなないと
諦めていたが思いもかけない所から「挨拶」をすることが出来た。

こうして他と比べてみると御嶽は連峰ではないことがいまさらながらわかる。

富士山以外では日本で3000m級の単独峰は御嶽のみだ。
すらりと端正で他の山から離れまったく別の場所に忽然とそびえ立つ富士。
対して御嶽は北アルプス南アルプスの山々ににぎにぎしく囲まれて、
しかもそれでいてどれにも属さず豪壮で雄大な姿で独り悠然と立つている。

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似た様な男を、自分は一人知っている。


古いロータスやミニなどの英国車の集団がタイヤを鳴かせて曲がってくる。
自分は四輪があんなにクイックに曲がるのを初めて見た。
次のはごついバイク達、列になってこれまたどえらいスピードですっ飛んで行く。
セレブなパワーエリート達の大名行列

ぽかんとそれらを眺める旅ガラスの真っ黒け。
ま、もう遭遇することもないだろう。こちらはこの一時間で20kmも走ってない。
ほんの5分おきに現れる好景地に、ついバイクを止めてしまうからだ。

しかしそうやって止まる度にさっきの赤いSUZUKIに出会うから面白い。
お互い声を掛けるでもなく、小さく会釈を交わして又別れて行く。
ソロライダー同士、相手の空間と時間と「想い」を尊重する、と言う感じだ。

「袖触れ合うも旅の縁」もよし。
「黙して一礼、いずれどこかで」もまたよし。
「目もくれず一瞬で駆け抜ける」・・・のもそれはそれでまたよし。

ビーナスライン



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天気も上々。とても気持ちのよい道が続く。
高速コーナーを好むモンスターにもぴったりだ。
景色と道をそれぞれ楽しめるちょうど良い速度を探りながら、
一つ一つのコーナーを慈しむ様に駆け抜けて行った。

このへんから頭のネジがカランカランと音を立てて外れて行くのが自分でもわかった。
今行ったら私の落とした大小のネジがビーナスラインの道ばたに沢山転がっているだろう。

自らの心の中に何の不安も不満も驕りも妬みもない。
澄んだ空気と心地よい太陽と雲、日本アルプスの山々に囲まれてただ自分とバイクと道がある。
彼方から御嶽も見守っている。


無理と無茶


土曜日とあってバイクが増えて来た。

どこかでブルーのモンスターとすれちがったな、と思ったらわざわざUターンしてきたのか
こちらの後ろにピタリと食らいついてきた。
悪いが折角信州まで来てそんな気分にはなれない、だいたい膝擦るような装備の人と
張れるほどの腕も趣味もないよ、とチョイチョイと「お先にどうぞ」のサイン。

結構なスピード、ではあるが決して無理している様には見えない。
荷物もなさそうだしこの道に慣れてはいるのだろう。

「無茶している」のは見ていて度肝を抜かれる。
「無理している」のは見ていていたたまれない。

自分では全く「無理」をしていない、が、他人からみれば「無茶」
そう見えても構わない。

「あくまで自然体、世間の評判や枠組みを気にせず生きよう・・・」


おい、そう言う事か?・・・返事は、無論かえってこない。


美ヶ原の白樺林にて




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頂上の美術館から5分もくだらないうちに素晴らしい白樺に囲まれた。
あっという間に通り過ぎてしまったのでUターン。
落ち葉の狭い坂道を何度も切り返す、
こんな事は普通のツーリングなら仲間うちからの文句は必至だったろう。

しんとした白樺の林だった。
とてもきれいだ。

夏と違って秋の太陽はやや低く弱い。
斜めからのしっとりした日差しに白樺の白銀色の幹が柔らかく照らされ、
林の奥の方まで続いているのが見える。
どのくらいここにいただろう。

バイクはみんな素通りしていく。

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一台の車が止まって老夫婦が降りて来た。

白髪の奥さんが白樺林の中を落ち葉を踏みしめて一人で歩いていく。
両指を胸の前で軽く組み合わせ、目を細めながら白樺を一本一本覗き込むようにして
見上げている。
旦那さんはというと、少し離れた所でそれを見守っている。

まるで一幅の絵のようだった。

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自分も嫁さんも髪が真っ白になったら一緒にここに来れるだろうか、と思う。
などと口では絶対云えない様なことでもブログでは書いてってしまうのは
まだ頭のネジがいくつか外れたままだからだろう。

美ヶ原高原道路



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白樺平を越えて美ヶ原高原道路を目指す。
狭い道を耐えながら降りたり上がったり曲がったりくねったりを繰り返すと突然高い所に出た。
車も殆ど通らないのでちょっと走っては止まって景色を見回す、を繰り返す。
バイクに跨がったまま腰のポーチから取り出して小さなカメラを構える。

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このあと脳みそスッカラカン状態はピークに達した。

走りながらふと地図を見る地図がない、いやタンクバックがない。
どこやらに置き去りにしてきたらしい。エライコッチャと大慌てで引き返した。
(この信州ツーリングでこの時ほど本気でコーナリングした事はない)
余程血相変えて走ってたのだろう、対向車線の軽トラが合図する。
バッグはその軽トラおじさんが拾っていてくれていたのだ。

「あ~、ありがとう~」

この旅では「ありがとう」ばかりだ。
気付けばその他はあまり喋っていない。

・・・こんな素晴らしいことがあるかい?

武石峠周辺の道は急峻でせせこましい。
延々くねくねが続くのでもうどうにも嫌になってしまって、山中の小さな池のほとりで
バイクを降りて休憩した。

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誰も通らない。

有名で壮大な御嶽山も「独り」ならこの名も無き小さく物静かな池も「独り」だ。
御嶽が「単独峰」で偉いならこの池も山中で「単独池」で偉くなくってはならない・・・

と考える私も独りだ、だから無論偉いのだ。

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モンスターも独り。えらい偉い。

そういえば、「オートバイ」はどうして「単車」と呼ぶのだろうと考えた。
当り前なら「二輪車」だ。一人乗りというわけでもない。
「単車」の「単」は「単独」の「単」かもしれない、
と思いついたので勝手にそういうことにした。


You'd be so nice to come home to


さて信州ツーリングも終りが近い。

峠で目を回しながら松本に抜け、そこからは長野自動車道にのってひたすら退屈な高速走行だ。
高速で今度はドカの集団に出会う。排気音がすさまじく、走りはもっとすさまじい。
端から見れば自分も同類とちょっと反省。

高速のSAで遅い昼食。
今回は去年に続けて飛騨牛の串焼き、さらに「おやき」を穂高連峰を眺めながらガブリ。

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長野道に乗った。日没までに距離を稼ぎたい。夜間高速走行は好かん。
「どれ、排気量の余裕というやつを試してみるか」とアクセルをひねってみる。
出る事はそれは出る、しかし遅い車に遮られてそう思う様には走れない。
最後に渋滞につかまって台無しだ。帰阪はとっぷり日も暮れた7時頃だった。

家に着くと長男がいた。最近自分よりも背が高くなった。
こちらの姿を見てなぜだか「フッ」と笑う。

「帰ったぞ」と言うと
「あいよ、おかえり」とだけ返事が帰って来た。

無事に帰り着いた。もろもろに感謝しつつ、また来年も。

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