sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

2010 モンスター in ビーナスライン 1

今年も秋に信州へツーリング旅行へでかけた。

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去年は一泊、木曽開田高原までだったが、十数年振りのバイク一人旅ということで
「一大アドベンチャー巨編」となったわけだ。

今年はさすがにそこまで「大きな大ごと」という気はしない。
だから二泊で志賀高原あたりまで足を伸ばそう、と思ったが、
今年から少し多忙となった自分のスケジュールと
去年泊ったペンションとの空室状況がなかなか噛み合ない。

うだうだずるずるしているうちに秋は深まり、

「ああやっぱり今年は行けず終いか・・・」

とネガティブになるところを振り切った・・・

なにも無理に「開田高原」にこだわることもない。

「自分は自分なりの信州の楽しみ方」をすればいい、
多少寒かろうが雪が降る訳でも無し。開田にはまた春に行けばよかろう。

と思い直したら随分と気が楽になって、唐突に「車山高原、ビーナスライン
へと思い立った。
シトロエンに乗っていた時に何度も行った、ここが自分のお気に入りの場所だ。


旅の朝



しかしのっけから体調がすぐれない。朝はたいていコレで便所でのらくらしていて
出発が遅れる。バイクの準備をしていたら長男が登校しがけに声をかける。

「何処行くの?」
「信州」
「どこそれ?」
「長野県」
「へぇ、遠いな」
「おお、遠いぞぉ」

といいつつ写真を撮ってくれた(というか撮らせた)
液晶画面で今撮った画像を見ると既にして「旅の男の面構え」なっている。
大変よろしい。

自分は今まで写真を撮られるとき作り笑いをしていた。
学生の頃から「暗い」といわれて除け者にされない様に無理してでも面白おかしく
振る舞っていたが、ここ2年くらいでそれがふっつり抜け落ちた様に思う。


「他人に何と言われようと自分は自分だ」

気合いが入る。勇躍モンスターのエンジンに火を入れる。

Start your engine



suwako

今年のモンスター、排気量、馬力、サスペンションに余裕があって
名神高速も平常心で走れる。
と思ったら関ヶ原のあたりでぽつぽつと雨。

養老SAで給油。
スタンドの可愛い女子店員が声を掛けてくれる。
「雨、上がるといいですね」
「うん。ありがとう」
大いに勇気づけられ再び合流レーンへ・・・男は単純だ。

願い通り名古屋の手前で雨は止む。
しかし雲は低く垂れ込めたまま恵那峡を越える。
私はトンネルが嫌いだ。恵那山のはことに長くて好かない。
まだかまだか、とようやく抜けたら・・・

空が青い

去年も権兵衛峠トンネルを抜けたら木曽はウソの様に晴れていた。

右手に南アルプス

今年も「1000のバイオリン」を怒鳴る様に歌う。
「道なき道をブッ飛ばす」でアクセルをワイドオープン、これが決まりだ。

昼前に諏訪湖に着いた。
去年の様な後ろ髪を引かれるまでのホームシックじみた思いはあまりない。


All by myself



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予定が入ると気になって嫌なのであえて携帯は見ない様にしてた。
「ここまでくればこっちのものじゃ」
とチェックすると
「またみんなで一緒に走ろう」のメールが来ていた。

一年前は寂しさを紛らわそうと誰彼なしにツーリングに誘っていたが、
今年は反動でか「無理してまでも」と忙しさにかまけてほとんどソロだった。

地面を見るとそんな「風来坊」の影が一人。

旅の先からメールを送る「I'm in 信州」



八ヶ岳、蓼科



yatugatake

林の中の一軒の蕎麦屋を訪ねて八ヶ岳の麓を走る。

自分はソロツーリングではあまりきちんとした食事はしない。
胃がもたれるし眠くなる。
そもそも「食うもの」にそこまで重点をおかない主義だ。
朝の残りの握り飯などを持って行く。
腹が減れば減った時にどこか景色のいい所でそれをかじって済ます。

でなければまず蕎麦屋
蕎麦は好きだ。背筋が伸びる。うまいまずいに係らず。

「ざる大盛り」背筋が伸びた。そして美味かった。
旅から帰ってあとで聞くと新ソバだったらしい。
美味いはずだ、と言われた。
おそらく新ソバでなくても「美味かった」と言ったろう。

soba

八ヶ岳の広大な裾野を走る。
景色が広い、空が高い、雲がでかい。
肺活量が上がったのではと思うほど空気が胸に入ってくる。

「飛ばせば飛ばせる道だがスッ飛ばしたらもったいない、そんな道だ」

メールで返事をくれたVmax"野武士"ライダー氏の言葉に同意。
みんな羨ましがってくれる。信州など行き慣れているだろうに、大人だ。
Vツインを響かせて「もったいない道」を味わう様に噛みしめる様に走る。

道端にパン屋が見えた。知らない景色なのに懐かしい。
走りながら

「何故自分はここに住んでいないのだろう」

という感覚にとらわれた。
いつも信州に来るとそれを感じるのだが・・・早くも、か。
さあそろそろ頭のネジが外れ始めた様だ。
帰ったらまた一ヶ月位は腑抜けた様に茫洋としてしまうかもしれない(去年がそうだった)



山の鉱泉



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頭の風通しが良くなって来たのは良いが、流石に信州、標高が上がると気温も下がる。
雲が出始めてきた。

いつもと反対の右手首が痛む。延々アクセルをひねり続けたからか。
4月に寝違えてからいまだになおらぬ首が重い。。

道ばたに

「この先○○の湯」

の立て看板を見つける。
3秒ほど逡巡して、道の真ん中でぐーんとUターン。
誰に気兼ねする事もない、ソロツーリングの醍醐味だ。

山の奥に分け入ったらなかなか結構な鉱泉があった。
湯船の岩が錆で茶色になっている。
露天の湯船につかる。
と体の痛んだところに湯がじんじんと沁み入ってくる様だった。
空を見上げるといつの間にやら晴れている。

仕事や家族を放り出し、何百キロも離れた山中の温泉に浸かって

「いったいオマエは何をやってるんだ?」

と頭の中にわずかに残った「大人」の理性が詰問する。

「三千世界のからすをころし、ヌシと朝寝がしてみたい」

心の中で高杉晋作の都々逸(龍馬伝では出てこなかった、残念)

まわりはジイサンバアサン達ばかり。白髪頭と「一緒に朝寝」は遠慮したいなあ・・・

湯から出ると、おお、体が軽い。
「さすが温泉、手ェ治ったぜ」(from Wild Seven)

風呂上がりの単車乗りは女神湖を目指す。
蓼科のオシャレなカフェだのセレブなレストラン・・・には縁がない。

思い起こせば十年前、フランス車のミーティングで来た時、
ゴールドメタリックのシトロエンCXが秋の夕暮れの枯れ葉を舞い散らし、
ゆったり走る後ろを、こちらもボロいBXでユラーリとついて走った、
あの女神湖沿いの光景は生涯最高の思い出だろう。

と思ったら今年は通行止め。う~ん残念、また来年。
秋の気配、だけを写し取ってくる。

megami

車山高原、本日の終点。
「風情と趣を求めて無理せず無茶をしよう」
雲の上からの伝言を野武士ライダーから聞く。

言葉の意味を考えながら、久々に(本物の)ビールで乾杯してひとりかもねむ。