sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

アリス

時折、視覚が変になる、と以前書いた。

自分だけではないのでは?とは思っていたが、やはり

「アリス症候群」

なるものがあって、どうやら自分はそれらしい。
特に珍しい事でもない様でほっとした。
wikipediaによると


知覚されたものの大きさや自分の体の大きさが通常とは異なって感じられる主観的な
イメージの変容した状態のことを指す。大小・遠近・空間・時間の感覚が歪み、
一種の夢幻状態に陥り、数分間から数日間続くこともある。すべてにおいて
「巨大と極小」が区別出来なくなってしまう。



まだまだ未解明の様だ。
(原因を薬物だのウイルスだのに求めているが自分に関する限り全く該当しない)

ということで、名称は「不思議の国のアリス」から由来する。
「巨大極小」感覚の喪失は精神的にも同様の傾向があり

「何か取り返しのつかない破滅的な出来事にかかわってしまう、あるいは気の遠くなる様な広さを砂粒で埋める様な膨大な作業をしなければならない」


という絶望的な強迫観念に陥るらしい。

まさにその通りだ。



そんな自分は小学生時代の頃、よく悪夢を見て寝惚けた。
夜中にわあわあ泣きながら走り回って、決まって家中の電灯を端からつけていく。
両親などは「暗いのが怖いのだろう」と片付けていたが、
自分には寝惚けていてもぼんやりと意識があり、その時は必ず「アリス」状態だった。

夢と言うのはいつも同じだった。

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・・・世界中の莫大な数の原爆、水爆ミサイルが発射されてしまった。
今まさに地球上の全人類は消滅の危機にさらされている。

世界の破滅を救う役目が自分にはある。(なぜだか分からない)
莫大な数の核爆発を止める為にはミサイルと同じ数の部屋の電灯をつける必要がある。
(理屈は分からない)
あと1分も無い、間に合うはずがない、とりあえずやらねばならない、電灯、電灯・・・

そして水爆ミサイルを抱えた巨大な神像が涙を流しながら海を歩いて沈んでいく・・・

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同じ夢はさすがにないが、今でも大惨事、例えば目の前で大型旅客機が墜落するなどの
夢にうなされる。(時には身内が巻き込まれることもある、さすがにこんな辛い夢はない)

「何か取り返しのつかない破滅的な出来事にかかわってしまう、
あるいは気の遠くなる様な広さを砂粒で埋める様な膨大な作業をしなければならない」

そんな、この数十年来続いたトラウマの根本の正体が少しわかった・・・






水爆ミサイルを抱えた巨大な神像の絵。

それはジョージ秋山

「ザ・ムーン」

というマンガだった。

なんだマンガか、と笑ってはいけない。
当人これで真剣である。
先日、自分はこれを読む機会を得た。

9人の少年達の脳波で動く謎めいた巨大ロボットが「ザ・ムーン」だ。
少年達は謎の大富豪から「ザ・ムーン」を託され正義の為に戦う・・・


第一話、水爆テロリスト集団を相手に少年達は孤独な闘いを強いられる。
ラスト「ザ・ムーン」はまるで自らの意思があるかの様に、テロ集団から
奪った水爆を抱え目から涙をながしながら海を進んで行く。
わずか3発で日本全土を蒸発させる水爆を世界中の軍隊は何千発と保有していることが
ナレーション的に語られる。

やがて水平線の彼方にキノコ雲が・・・

巨大ロボットが頭だけ突き出して波を切って進む見開き一面の画は、
「アリス」状態の時に映る象徴的な絵柄としてまさに我が脳裏に焼き付いている。

おそらく幼少の頃にこれを読んだ自分は、アリス症候群特有の
「何か取り返しのつかない破滅的な出来事」への恐怖感
「膨大な作業をしなければならない」強迫観念などを
「ザ・ムーン」のストーリー構造に置き換えたのだろう。

ちなみに

「ザ・ムーン」は頭部にランプが9つあり、少年達の脳波を受信すると
一つ一つそれがついていく。
全てが点灯した時に「ザ・ムーン」はその脳波の意思に従って動く。

自分が寝惚けて必死でつけて回ったあちこちの部屋の電灯は「ザ・ムーン」
の頭部のランプなのだ!
そう判った時にはつい笑ってしまった・・・

笑ってしまったのではあるが、
小学生時代の自分の幼いがゆえの「純粋さ」を
同じ自分自身が年老い心の曲がった「経験」で「あざ笑う」

それはなんだか下衆な行為の様に思えた。

今でも時折「アリス」になる、そんな自分なのに。


ごめんな、昔の自分。