sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

三大激痛

それは突然やってきた。
背中の右側に違和感を感じた。ギックリ腰かと最初は思った。
しばらくすると「それ」が強烈に痛みだした。

 立っていられない。
横になっても収まらない。

「い、いてててて」

畳の上で、のたうちまわった・・・      


尿管結石である・・・

その事をその時の私はまだ知らない。

これは一体どうしたのだ。何でこんなに痛いのか。とにかく尋常ではない。
キュウウウキュウウウと痛みが響いてくる。
そしてそれが止まらず弱らず間断なく続く。

背中の筋が三本くらいつって同時にひどい下痢になった様な、というか、

体内に入り込んだ凶悪な寄生獣か何かが、鋭い牙で右の背筋に噛み付いて暴れている

そんな感じだ。

なにやら映画「エイリアン」を思い出す。

「痛い痛い痛い、痛い痛い痛い」

単に喚いて転がり回るだけの下等生物に成り果てている。
誰も応えない。
そう、たまたま家には自分一人だけだった。
やや鎮まった頃合いに這いつくばって携帯に辿り着き身内に連絡する。

こういう時に限って誰も出ない。

さすがに不安になってくる。
痛みは周期的にやってくるようだ。一向に収まる気配はない。
となると救急車か・・・そのまま入院も考えられる。

家に取り残されるだろう子供達を案じてメモ書きを残そうとしたが、
ペン先が踊って文字が定まらない。
引き出しから診察券の入ったカードケースを引っ張りだす。
全部バラ舞いて見るのだが、どれがどの病院のだかさっぱり理解出来ない。

このあたりで、自分の行動がやや支離滅裂になりつつあることに頭の片隅で気づいた。

「気が動転する」とはこういう事を言うのだろう。

幸い、やっとのことで家人に連絡が取れ、車で病院に運んでもらうことになった。
後部座席に横になった途端に痛みも我慢できる様になった。
「病は気から」というが「痛みも気から」なのだろう。
不安感は痛みを増大させる、どんな痛みも気持ち次第とわかった。
病院で鎮痛薬を入れてもらうと痛みも嘘のように収まった。

その夜、尿とともにコチーンと石が出た。
私の躯に巣食ったエイリアン他愛無い小石だった。
あっけない結末にタハハハと笑ってしまったのである。

とはいえ、尿管の途中で詰まれば手術もありえるし、
自然に排出されるまで半年以上かかる人もいるらしいから、
私の場合、せっかちな結石君で非常にラッキーだったと言える。

その記念の結石、
黒くて、一見すると色も大きさもまるでスイカの種
あまりにもそっくりなので、最後にスイカを食べてからどのくらい
経つだろうか、と半ば真剣に記憶を辿ったほどだ。

無論、食べたものが腎臓を通って尿管に詰まることなどあり得ない。

結石とはもっと歯石のように乳白色でトゲトゲしく尖った、いかにも結晶っぽい
ものを想像していた(実際そういうものが多いらしい)
私のは幸いつるんとした形状だったから早く排出されたのかもしれない。

結石は突然やってくると聞く。

その日であってまだ幸いだった。
ほんの一日前なら家族で出かけていた。
雑踏でぶっ倒れて救急車で運ばれ、見知らぬ土地で入院していたところだ。
楽しいはずの休日、苦痛に顔を歪め路上でのたうち回る父親、を目にするのは
幼い子供達にとってはいささか酷な状況に違いない。

何かの罰があたった?

以前の私なら確実にそう思って、お稲荷さんの賽銭をケチった(!?)事や
占い師を軽んじて悪態をついた(?!)事などをいぢいぢと思い起こし、
一人悔やんでいただろう。

だけど今はそうは思わない。
罰だとすれば、病に倒れる人は皆、罪人ということになる。
そんなはずは絶対ない。
ここのところ、自分の回りを見渡せばそれは全く逆だ。

それまでは病に対してどこか他人事に感じていたが、
今回、そうではないと身をもって味わった次第だ。
いずれにせよ自分の身の内に起こった自分のことなのだから。

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ところで尿管結石は「三大激痛」の一つだと言う。
他には心筋梗塞、後は諸説あるらしい。
群発頭痛脳梗塞、出産、etc

いったいどこの誰がどうやって順番を定めたのだろう・・・
人類史上、ありとあらゆる痛みを経験し尽くした人物がいて、
「それよりこっちの方が痛いね、盲腸は6番目、足の小指をタンスにぶつけるは27位」
なんて順番を付けたのだろうか。まさかそうとは到底思えないが。

「尿管」という言葉から、何と言うかその、
下半身の敏感な部分の管(下品で失礼)を
トゲトゲの結晶が傷つけつつ通る・・・
などと連想をしてひとりで顔をしかめていたのだが、

実はぜんぜん違う。

傍目から見れば大の大人が転げ回っているのだから
相当な激痛(には違いないが)の様に見えるが、
もっと峻烈な痛みは他にもありそうな気がする。

無論そんなものを経験したいとは毛頭思わない。