sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

三千院 4

三千院は雨。

 

 

是が非でもそうでありたい。

と、一人で頷いた。

何十分そこにいたろうか。

やがて腰を上げ、若造のくせに写経などして、

さあさあという雨音の中、お堂の反対側へとまわる。

 

ここにも二人。

 

若いが今度は男女で、お互い連れかどうかはわからない。

連れ合いだとしたらやや距離をおいて座っている。

連れでないとしたら

服や顔つきや、たたずまいが、なんともはかなげで、

同じ趣きすぎる。

 

とにかく先ほどの原色の自転車乗りとはきっと別人種だ。

 

 

 

ただしんなりと座り、悄然と庭の杉の大木を眺めている。

女の方はそれでは風が来ないだろうと思われる程に扇子を揺らしている。

男の方は何もしていない。

    

     二人ともそうしているうちに段々と色彩を失って、

       畳や柱に溶け込んで

          最後には石像になるのではないかとさえ思った。

 

大いに見所があるではないか、そう頼もしく感じた。

 

庭に出る。

 

舞台装置の様に霧に煙る古代の大木の間を通り、

傘がないので雨の間をすり抜ける様にして小道を歩いた。

ほの暗い木々の下を少し奥に行くと、アジサイに囲まれた。

              7月も末なのでその大方が枯れている。

 

「ああ、もう盛りは過ぎている」

 

枯れた花の茎は中空に突き出し、硬くなって時が止まったかの様に

じっと身動きしない。

 

またも以前来たときの風景が頭のどこかに浮かんだ。

 

             たくさんのアジサイの花の中を、

振り返り振り向きし合って

             あの時は歩いた。

                        あれは6月頃だったのか。

  

人生もその頃が咲き始めだったのかもしれない。

 

「それだから、今は枯れはじめで丁度いいのか」

 

といかにも老け込んだ様に少しばかり斜に構えて符合を面白がってみせた。

    さめざめと冷えた想いがたちのぼり、知らず歩みが止まる。

 

自分の靴先に雨粒が落ちる。

 

何かが手を振る様に揺れているのに気づいて視線を上げると、

                             アジサイの花が一輪、

生まれたばかりで、雨を花びらに受けて

                          やわらかく身を揺らしている。

 

よく見回すとそうまで枯れた花ばかりではない。

数こそ多くはないが               昨日咲いたばかりと見える花もある。

 

その花にとってはいまこそが盛り、

一目見ただけで 

 

「時期は過ぎた」

 

と足早に過ぎ行くのは少し

                 勿体ないか。

 

(つづく)