その音に一喝されたかの様に皆が首をすくめながら空を見回す。
あたりが少し暗くなる。
工事の音が止んだ。
雨支度をしてるのだろう。
おかげで貴重な静寂が広がった。
遠雷の音だけがつづく。
まだ雨は、落ちてはこない。
ふ、
ふう
と風のかたまりがやさしく座敷を通って行く。
ふと、あちこちで ひぐらしが鳴き始めた。
それはカナカナ、などという、
私が図鑑か何かで知ってる様な生易しい ものではなかった。
ここここここかん。
かかかかかか
ここんん。
かかかかか かかかん
かああんん。
音同士が響き合い重なり合って苔むした庭の木々の間を渡っていく。
誰もがその音、景色に心をそばだてているのがよくわかる。
不思議ともう何も気にならない・・・
一切合財・・・空
ふと雨の降る前のにおいがした。
湿った土埃のにおい、といってしまえばそれだけの事だが・・・
ささあ
と雨がおちてきた。
思う間もなく庭が一変していた。
手前の杉の木がまとう薄緑色の苔が湿って陰影を増し、
遠くの景色は茫と白く霞んでいる。
細かい雨音を背に、
軒から池に滴り落ちる雨だれの音が
すぐそこに聞こえる。
先ほどまでの晴天ののっぺりした景色とまるで違う。
奥行きを目と耳に感じる。
三千院は雨でなければならない、
と一人で勝手に決めつけた。
(つづく)