sig de sig

万年青二才の趣味三昧、走る、作る、観る、聴く、憩う。

1mmアンペアの負担も掛けない

モンスターから取っ払った電装品は以下の通り、

PPS

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"フィルター効果が余分なノイズをカット。蓄電機能で迷走電流を一時的に蓄電し、電気が不足する時に不足分を補います。結果、点火プラグに飛ぶ火は強く安定します"(メーカーHPより) 

…という謎装置なのだが、アホ文系には原理はよくわからない。まあ怪しいといえばなんだか怪しい。エンジン始動不能時には真っ先にコイツを疑った。

アヤシイアヤシイといいつつも装着しているのは個人的には確かにトルク増強効果を感じたからで、今回、撤去した後に少し試走してみたがやはり低回転域のトルクが細くなったと思った。存外、純真で信じ込みやすい性格なのかもしれない。

はじめてモンスターの800に乗り始めた時のことを思い出す。

トルク不足に泣いたのはもう12年も前のことだ。

当時は国産リッターマルチかなんかが箱根駅伝みたいに先導する後を列をなしてシズシズと走っていて、癇癪持ちのLツインは不満に鼻を鳴らしたものだ。昨今は独りで気楽に好きな道をノビノビ走っている。それに今の自分は不機嫌なモンスターをクラッチ操作やギヤ選択でなだめすかして走るのに慣れてしまってもはや苦にならない。謎のトルク増強効果がなくともこれしき許容範囲だ。

さらに低速がたよりない分、逆に4000回転越えたあたりからのピックアップが目覚ましく感じる様になった。"本来の猛々しい迫力を取り戻した"と言うことさえ出来る。まあ、モノは言いようである。

 

デジタル電圧メーター

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以前レギュレーターがパンクして丹波山中で立ち往生した後にそれに懲りて取り付けた。レギュレーターのパンクは"モンスターあるあるネタ"だ。こやつが電圧低下を察知しその旨を奏上してきたことは、幸いなことにいまだかってない。しかしいずれにせよインジェクション車は出先でレギュレーターが故障すれば為す術はなく、座してロードサービスを待つばかりである。

このデジタルメーター、近頃では我々人類には読めない謎文字を表示をするようになってきて、そろそろ月にでも帰す頃合いかと思っていたところだ。バッテリーの健康管理は次にあげるトリクル充電器に任せることにした。SAE端子をつけてサイドカバーの中でも放り込んでおこう。

 

トリクル充電器端子

TECMATE(テックメイト) バイク用充電器 オプティメート4 デュアルプログラム Ver3/Optimate 車両ケーブル付

もう15年くらい二台にわたって使用してきているOptimateに対する自分の信頼感は極めて厚い。先代のは特に不具合はなかったが10年間繋ぎっぱなしだったので万全を期して勇退いただいた。ガレージの守り神である。

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この端子に起因するトラブルのリスクとバッテリー電圧低下のリスク、さらにそれぞれの可能性を比較したが、フューズもついているし、ただのSAE端子だからマア大丈夫だろう。

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ということでこの端子だけは残すことにした。むろん自己責任である。純正電装品様のお邪魔にならぬ様、配線の取り回しにだけは気をつけよう。

 

スマホ用ワイヤレス充電器

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方向音痴なブログ主にとってナビは実に重宝なものだ。ただし経路案内はほぼ使わず、信号待ちや休憩時に自車位置の確認程度にとどめている。車載バッテリーから給電せねばならぬほど長時間にわたって地図を見ることは、実際のところそんなにはないのである。

最近は小型高性能のモバイルバッテリーが安価で入手出来るから、そいつを内ポケットに一つ忍ばせておけば事足りる。ワイヤレス充電である必要性もさしてない。(ワイヤレス充電器で防水タイプを見つけるのには苦労したが)

 

ドライブレコーダー

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アクションカメラではないので画質はそれなりだ。まあドラレコとして使っているのでその点に文句はない。

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こいつはETCやスマホなど自分が楽をするための快適便利装備とは違う。

バイクはひとたび事故となるとライダーにとってクリティカルになる可能性が高い。事故後に自分の意識があるかどうかわからないし、それっきりお空のお星様になってしまうケースだって…あまり考えたくはないことだが…あるわけだ。そういう場合ドライブレコーダーの記録は自らの運転の唯一の証明となるはずだ。

これを逆に不利な証拠を記録してしまう"お節介な装置"とみなす人もいる。いつぞやの白髪エロビーマーズみたいに、ブラインドだろうが幼稚園の前だろうが、所構わず追い越しをかける走りをしてりゃあそういう考えにもなるのも不思議はない。

世の中にオタンチンは一定数存在する。自衛のためにも「ドラレコはあったほうがいい」前述のメカともそういう結論になった。何もブログ主だけがチキンでクリスピィに怯えてるだけではない。

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(この本体の幼稚なセンスだけは受け容れがたい)

取っ払ったドラレコをしげしげ眺めてUSB給電だと気づいた。これならモバイルバッテリーを使えばバイクの電気系統とは全く独立して運用できる。

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本体はシート下だし、電装系に振動が掛からぬ様にカメラ位置(現在はメーターケース上)を移動させれば問題なさそうだ。ただし休憩中もずっと動きっぱなしでは無駄が多いので手元でオンオフ出来るようにしたい。

 

ETC

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「ETCくらい付けとけぇカスぅ」
「早よせんかいボケェ」
「なに万札出しとんのじゃアホンだれェ」

自分以外は皆さまETC装着済みのマスツーリングで、IC出口で止まってる全員が振り向いて当方に送るそんな熱のこもった視線に圧殺されそうになってしまって取り付けたものだ。

今はマスツーリングどころか他人と一緒に走るつもりすら、もはやニアリーイコールゼロな自分である。別にETCがなくても高速道路を走れないわけじゃなし。

「アホや、ETC割引あんのンにー、安なんのンにー」と脳全体が損得勘定に支配されている大阪のオッサンがやいやいやいやい言うかもしれんが、富士山日帰りツーなんてやらないからそんなものは右から左。

ここでETCもモバイルバッテリーで動作する、という裏情報をいただいた。USB-12Vの変換器というモノの存在も知った。一体型ETCならタンクバッグに一式仕込むという事が出来るらしい。ただし、モバイルETCはいささかグレーゾーンになるようである。ま、ETCをDIYで取り付ける時点で二輪は既にグレーゾー…ムニャムニャムニャ…

 

 

電装品の断捨離

「あんまり構ってくれないもんだから、ちょっとスネてみただけヨ」モンスターとしては そう言いたかったところだろうか。

「これからはマメに相手してやっからよぉ」

などとお散歩ツー以下のチョコマカ乗りでご機嫌をとるのにかまけているブログ主である。

エンジン始動不能に陥っては嫌だし、時期も時期だからちょっとした用向きの時に中学校の校区内くらいを巡回するにとどめている。堤防の土手道があって見晴らしが良い。走っていると爽快だ。

自転車の中学生とすれ違うたびに金八先生みたいに「オハヨー」とか「早く帰れヨー」とか声を掛けたくなる。ドカドカ騒々しい単車に乗った人相の悪い黒ずくめ野郎がやったら通報案件なので思いとどまっている。

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コレハ ドコカノ シラナイ オジサン… SRカナ?

エンジンは快調に回っている…いまのところは。

これが嵐の前の静けさ、でないことを願うばかりである。ロウソクの炎は最期に消える前にひときわ明るく輝くという、いやいやいやいや、縁起でもない。そんな事をつい考えてしまうのは気掛かりが残っているからだ。

今回不具合の原因となった後付けした電装品のことだ。原因といっても電気的に悪さをしたわけではない。どれもETCやドラレコなどの小電力のものだし、フューズもリレーもきちんとかましている。電源もフューズBOXのテールライトから取っていたから、イグニッション系とは別系統になっている…ハズだ。

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たまたま取り付け場所がよくなかったのだが、間接的に思わぬ負担をバイクにかけてしまうことになっていた。それを「運が悪かった、俺は悪くない」と片付けるならそ奴の一番悪いのはアタマということになる。

物を付けていい場所とイケない場所を見分けられなかったのだ。やはり生兵法である。素人それも半可通がイジると碌なことがない。そんな反省も兼ねていまさらながらマニュアルを眺めていると、モンスターのバッテリーが妙なところに取り付けられていることに気づいた。

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フレームではなく、ステーを介してエンジンのシリンダーヘッドにボルトで固定されている。世の中のバイクのバッテリーがどのように積まれているかを全て知っている訳ではないから何とも言えないが…大体シート下かサイドカバーの中ではなかったか。

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タンクの下でエンジン直上シリンダーヘッド直結の様子。ひょっとしてバッテリーをエンジンのカウンターウェイトにしているのだろうか?そして、くだんのリレーはバッテリーホルダーの半ばあたりのステーにボルトで一点留めされている。そら揺れるわなあ…

その代わり、でもないがモンスターはフレームにエンジンを積んだままヘッドが開けられる。だから何なんだ、といわれてもアレだが、モンスターはさかのぼると出自は851というレーサー。レイアウトの考え方に関しては実用車とは優先順位が違うのかもしれない。

まあそれはともかくとして…

カニック氏からは「別にそのままでいいですヨ」と言われていた後付け電装関係だが、やはり一切合財取っ払うことにした。またあのターミナル端子が振動してリレーカプラーが焼けては困る。あちこち引き回した配線被覆が剥けてフレームとショートしないとも限らない。

えいやとばかりにみな取っ払った。

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それがコレ…モンスターの心臓に取り付いた邪悪な"宇宙吸血細菌ダリー"といった感じ。

  

 

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土手を走るのが好きなブログ主、これはいつかどこかの土手の上

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これもいつかどこかの土手の上

モンスターの余命

それにしてもメカニック氏には感謝する。よくぞ見つけてくださった。さすがである。

チラ見しただけで「アこりゃたぶんコンピューターだね。修理?無理無理、バイク買い換えた方が早いよ」なんてそこいらのバイク屋で普通に交わされている会話だろう。

 「コンピューター、回路部品、ハーネス、端からチェックしましたから」

さぞ面倒な作業だったろう。プロ意識を見た思いがする。そのメカニック氏がセルを回す。

キュキュカ ズドン、ドルンッドッドロドン ドガズシャ ドンドルン

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おお、モンスターが息を吹き返した。時々咳き込む労咳病みの用心棒みたいなアイドリングだが、いつも通りなアイドリングである。

こんな嬉しいことはない。一度は走馬灯を半回転しかけた自分である。シオシオのメソメソになっていたのだ。祈りが伝わった。神仏に祈願もせずお百度も踏まなかったにも関わらず。これぞボウズ丸儲けである。ちょっと違うか。ともかくもう一度モンスターに乗れるのだ。ウズウズしてきた。

ウホウホ喜んでいたらメカニック氏は冷静に釘を刺した。

「…なんですがぁ〜」

「んん?」

「さっき言った箇所は全て今後の不安材料と思ってください」

「え?あそうなん」

「今度はそいつらが次々と壊れていく…よくあることです」

「…次々と」

「これからトラブルの嵐となっても全然不思議じゃない」

「…嵐」

「もうイタリアン・クラシックバイクなんだ、と言う認識でお願いします」

「うう〜ん」

無論、今まで以上に大事には乗るつもりだ。アホなDIYはもう止めておこう。あちこちの部品が一斉に寿命を迎え出す、というのもフラ車で身をもって経験してきた。20年後の耐久性を見込んでバイクを作るドカでもあるまい。

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しかしイタリアン・クラシック、というと若い頃に憧れたイモラレプリカなんかを思い出してしまう。ピカピカに磨いて湯水の様に金をつぎ込んで腫れ物の様に扱う、なんて文化財の動態保存みたいのは自分には逆立ちしたってサル真似すらできない。

確かに18年落ちのドカである。この後モンスターは何度モデルチェンジしたか知れぬ。そういう意味では"クラシック"だろう。この型のモンスター乗りは以前は周りにも沢山いたが今ではあまり見掛けない。

メカとはその後少しお茶を飲みながらバイク談義を楽しんだが、もともと容量の少ない自分の頭は「トラブルの嵐」という言葉で一杯だった。"嵐"どころか"比叡おろし"あたりでもヤワな自分は膝を折るだろう。甲斐性のない自分にこのバイクに乗り続ける資格はないんじゃないか…

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しかし思い直した。

一度は覚悟を決めた自分だ。もう怖がることもない。たとえあと50kmでも100kmでも生き返ったモンスターと走れるのならそれは望外の喜びではないか。

今後のモンスターとのバイクライフはアディショナルタイムみたいなものだと考えよう。オマケである。余禄である。オートバイの神様からのプレゼントかもしれん。雲になったあ奴の差し金なら、粋なはからいだ。

今後はエンジンを掛けるたびに「一期一会」だと思うことにする。

カッコイイなんて思われなくたって別にもう構わない。

モンスターが壊れるか自分が倒れるか、はたまた財布がカラッケツになるか。

いけるとこまでいってみよかいな。

 

ヨシ、近くの堤防の土手までちょいと試運転だ。

自分は一旦ガレージに収めたモンスターをまたぞろ春の陽光の中へ引き出した。

快調快調!ツインエンジンは打てば響く。あの"お転婆娘"なモンスターが帰ってきた。

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「チョット!年寄り扱いすンじゃないヨッ!」

 

マーシーが唄っている。

 

オートバイが走っていく

ただもう走っていくんだ

 

  爆音を轟かせ エンジン焼け付くまで

  走り続けるよ 遠い道の上

 

    ここより他の場所へ ここより他の場所へ

    憧れの場所へ きっと往けるはず

    

       ひとりぼっちのオートバイ

       忘れられない夢を見たよ

 

                     オートバイ/真島昌利

 

 

モンスターの帰還

モンスター始動不良の原因究明。

カニック氏が少なくともこれくらいはかかる、といった期間がそろそろ終わる。なれどお沙汰はない。急かすつもりは全くないのだが、長く掛かるのはあまり良い兆候とはいえない。少なくとも「○○替えたら一発で治ったー!」ってな訳にはいかなかったということだ…

簡単なところから手を付けるはずだから、そろそろラスボスのECU(コンピューター)にたどり着いてしまったかもしれない…ひょっとしてマズいことになっているのか…マズイを通り越してヤバい事か…ヤバイ事になっちまった。トニーのやつがしくじった。いや誰もしくじってはいないのだけれど…不安はドンドンと悪い方向にふくらんで第三埠頭に八時半。

そんなある日、
ダークな作業着に着替えて安全帽を粋に決めイカ地下足袋を履いた時に、電話が俺を呼び止めた。スマホの向こう側にメカニック、声を震わせながらメカニック…いやいやメカニック氏の声はしかし震えてなどいなかった。

朗報である。

モンスターが治った。

なんと費用はあまり掛からなかった。ブルブル震える手で額縁の裏の金庫に隠したコルト、イヤイヤ札束を取り出さずに済んだのだから、これはもう最良といっていい結果だ。

「原因は納車の時に詳しく」との事だったが、まずは良かった。本当に良かった。「良かった」はヒラギノゴシック18ポイントかつボールド体でお伝えしたい。メカニック氏には感謝の言葉しかない。あんまり工賃が安過ぎて申し訳なかったので後で思い直してついでにオイル交換をお願いしておいた。 

 

数日後、モンスターが帰ってきた。

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タダイマ-ッ!

カニック氏による原因究明の過程説明はさながら推理ドラマの名探偵の謎解きの様だった。

捜査上に浮かび上がった容疑者は三人。回路の断線、イグニッションリレー、そしてECU。しかし取り調べが進むうちに三人とも問題無しのシロと判明する。

いちばん怪しいとされたECUはログを取って診断機にまでかけたものの、完全潔白が証明され前科すらあがらない。迷宮入りもささやかれるなか、メカ氏はテスターによる地道な究明を続け、とうとう最後にリレーカプラーにたどり着いた。

果たしてカプラーの中に焼けていた端子が発見される。コイツが今回の「モンスター・エンジン不動事件」の真犯人だった。

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自分も一応こういうものはガレージに備えている。しかしまあチンプンカンブンである。

端子を接点グリスで磨いただけで治ったらしい。つまり部品交換すら必要なかったのだ。後から考えれば原因は実に小さなものだ。ただしそこを探り当てるまでが大変なのである。メカニック氏の腕と経験と粘り強いプロ根性があってこそだ、誠にありがたい。

いかに振動の大きいドカとはいえ、こんなトラブルは通常では考えられないそうだ。カプラーの上のターミナルパーツで振動が増幅され端子が半抜け状態となり、スパークが走って焼けてしまったのではないか?というのが名探偵メカノ・メカニック氏の推理である。

カプラーの上のターミナルパーツ?そう、そんなものは純正ではない。他ならぬこのブログ主が後付けした電装品である。そんな大事なカプラーとは知らず、てっぺんに「エーモン増設ターミナル438円」を両面テープでペチャコとくっつけてしまったのだよ。

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アホなユーザーの改悪でゴチャゴチャと訳がわからなくなってしまったモンスターのバッテリー周り…

つまり原因は、この私だったのです…

みんなオイラが悪かったんです…

トホホ…

 

オートバイが好き、モンスターが好き

「ハードボイルドが好きなんじゃない、フィリップ・マーロウが好きなんだ」

という言葉がある。

その伝でいけばこういう問い掛けも出てくるだろう。

「オートバイが好きなのか?それともモンスターが好きなのか?」

ふと、自分を振り返る。

自分のモンスターに関して、友から譲り受けた、とか、亡き友との思い出が詰まっているとか、そういったややウエットな個人的感情はそろそろ乾いてきているような気がするのだ。

 

今度は、自分で自分の喉元に氷の刃を向けてみる。 

「俺は"ドカティに乗ってる自分"が好きなだけじゃないのか? 」

 

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 "ドカティ”と言うワードに対し心の中に青い憧れのようなものがあるのは否定しない。”750ライダー”に出てくる順平がそうだった様に… いや、いやいやいや、そんな無邪気なものだけじゃないはずだ。
もっとドロドロとしたものが今の自分の心の中でうごめいてる。

「ドカですか!スゴイですね」と言ってほしい…
「カッコいい」と思われたい…
「お洒落ネ、素敵よ」の一言を待っている…

自尊心と虚栄心にまみれた醜い自意識が、心の奥底の黒い沼から目だけ出している。

おぞましくヌメヌメとしてノタくるその化け物めがけ、手にした氷の刃を突き立てる。

 

次に我が身を見る。

腰の状態、右眼の病気、その他あれやこれやのオンボロだ。歳とともに、大型バイクを大型バイクらしく走らせるのに難儀するようになってきている。来年の干支でなんと年男の打ち止めなのだ。もともとチキンな自分である。事故をやらかす前に降りておくのが利口というものか、と考えなくもない。

「今にローストチキンになっちゃうわよ。私イヤよ、そんなお葬式」

「飛ばないトリはただのニワトリさ」

 こんな会話が頭の中で渦巻いている。

 

 少なくとも大型にこだわることもない。”限定解除”なんて昭和の死語だろう。

 

出川の電動バイク旅のTV番組が好きで、よく見ている。
高速ならひとっ飛びの距離を1日かけて走る。アポも取らず予約も入れず、面白そうなものがあったら気軽にバイクを止める。ゴール地点にたどり着いたらとっぷり日が暮れてた、てな事も結構ある。土地のグルメや名産品なんかよりも、なんてことのない食堂で昔ながらの黄色いカレーライスを食べてる時の方がずっと嬉しそうだ。

あれこそ「旅」じゃないか。
「旅」に長い距離も大げさな速度も必要ない。
バイクのメーカーや排気量なんぞサラっサラ関係ない。

風を切って走ってカレー食ってりゃご機嫌だ。

 

ヒロトも唄っている。

 

中古のオートバイ、皮ジャンパー

おまえガソリン、おれカレー

イカすぜ、はやいぜ、オートバイ

 

                     オートバイと皮ジャンパーとカレー/ザ・クロマニヨンズ

 

なんだ、やっぱり自分は"オートバイが好き"だったんだ。

モンスターを喪っても平気だ、とは言えないが、もすこし小さいのでもオートバイに乗れることが出来るなら、幸せだ。

 

マーシーが唄っている。

 

走るために生まれてきて

風とともに去って行くよ

ひとりぼっちのオートバイ

流れ星になっていくよ

ひとりぼっちのオートバイ

忘れられない夢を見たよ

 

               オートバイ/真島昌利

 

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 オートバイが好きだ、なかでも一番好きなのは俺のモンスターだ。

 

 

モンスターがいない

モンスターがいなくなった。

ガレージには小さなスクーター、ヤマハ・ビーノがポツンと残されている。その様子が、空っぽになったトラの檻の前で不思議そうに首をひねっているリスザルみたいに見えて可笑しい。

 

笑ってばかりもいられない。

その間に決めておかねばならないことがある。

覚悟、である。

 

モンスター始動不能の原因で最良と最悪のケースを想定してみる。最良のケースは小さなパーツや配線などのマイナートラブルでアッサリ治ってしまうことだ。この可能性だってもちろんある。けして甘い夢を見てる訳ではない。

 

最悪の場合はコンピューター。頭の中で大写しになったMr.メカノ・メカニックがこう言う…

「部品代だけで○十万…」

メカ氏が続ける。

「ちょっと現実的な金額じゃなくなってくるんで」

 

 「モンスターが治るためならね、金に糸目はつけませんよ私は」

なんてカッコよくもお大尽なセリフはとても吐けない。 自分はコロナ禍にオロオロ歩く零細自営のオヤジである。では"現実を見据えて"となった場合どうするか。

 

であれば、もはや是非もない。

モンスターは"廃車置場で錆びつく”ことになる。

これは相当ツライ決断だ。

頭の中でToo much painと鳴っている。

 

マーシーが唄っている。

 

人っ子一人いない夜 オートバイが走っていく

シートの上はカラッポで 誰にもあやつられちゃいない

心を隠してきたんだ 心を隠してきたんだ

オートバイが走っていく ただもう走っていくんだ

 

                    オートバイ/真島昌利

 

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モンスター、入院

モンスター始動セズ、

の報を受けたショップのメカはすぐに駆けつけてくれた。

セルを回す、が掛からない、そぶりもない。を実演し再度、症状や近況などを伝える。

カニック氏は冷静に、

「調べないとなんともですが、やはり電気系。回路かリレーか、、」

「電気系、ですね」

「あと、コンピューターの可能性もあります」

「…コンピューター…」

「だとすると、ちょっとオオゴトになります」

「オオゴト…」

イモビライザーの関係でメーター周りとセット全交換なんで」

「全交換…」

オウム返しするほかない自分である。

「ええ、新品セットで○十万…」

「…」

「中古パーツも意外と高くって…それも程度のイイのがあればですが…」

「…」

もはやオウム返しすら出来ない自分である。

 

「それと、今コロナでイタリアの物流が壊滅状態でして…」

どうも”イタリア”という枕詞がつくと”壊滅状態”で結ばれるのが当り前の様に思えてくる。

傍の無言のままうずくまっているモンスターを見やる。

「前回乗った時は、調子良かったんだけどなぁ…」

絞り出すように言ってみる。

「や、イキナリくるのが電子部品なんで」

「…」

「…というか、"ドカ"で今まで何事もなかったのがむしろ不思議なくらいです」

「…」

「何年式でしたっけ?」 

「初年度登録は確か2004年…今年で…18年目かぁ」

「う〜ん…」

今度はメカニック氏がおし黙ってしまった。

こちらも言葉が出ない。もとよりモンスターは沈黙したままだ。

 無言劇のなか、悲観的状況が露わになってくる。

 

「まっ、とりあえず持って帰って調べてみます、が、時間はください」

「うう、何卒ヨロシク頼みます」

とコウベを垂れつつ運ばれて行くモンスターの後ろ姿を見送るほかない。

 

あれが今生の別れになるのかもしれない…

モンスターがいなくなったガレージでそう考えた。

 

振り返ると昨年はほとんど乗っていない。

コロナ禍もあったし、右目の病気ということもある。

そろそろ潮時なのか…

 

乗り手の零落ぶりを察してモンスターの方から自ら命脈を絶ったのだろうか。

モンスターで始まった2回目のリターン・バイクライフである。

モンスターを失えばそれが我がバイクライフの終焉となるのかもしれない。

 

だとすれば…

言いようもないほどの寂しさがこみ上げてきた…

 

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